第七十九話「病院ですの、おほほほほ」
ハルカが長距離のテストフライトに便乗してデベロッパ大陸に来た目的の一つが、ナールハヤの講和条件が守られているかの視察のためであった。
ハルカは自ら魔道荷馬車(馬はいない)の車列の先頭で、運転席に座っていた。
「おひょひょひょひょ、下手に…喋ると…舌を…噛みそうですわね…」
「仕方ない…道がまともにない…草原の中…だからな……」
助手席のパルスは首を振り回されている。
「サスペンションと…ショックアブソーバー…、改良の…余地あり…ですわ…、おひょひょひょひょ」
やがて、定住集落にたどり着いた。
一度はナールハヤの投石で疎開していた人々が戻ってきて、農耕を再開している。
徹底的に壊された建物は、一部が建て直されていた。
…と言っても、レンガや木造の建物よりも、遊牧民族のテントが多いので、建て直しというより「再展開」かもしれない。
むしろテントばかりの集落を投石機で襲撃する意味も理解できなかったが…。
その集落の中心付近に、大きなレンガ造りの建物が建築されていた。
病院である。
「これで定住していない遊牧民も、ここにくれば医療を受けられますわね、おほほほほ」
「お前…最初から計算してたな?
こうすれば『騎馬遊牧民族が都市を襲うデメリットになる』って…」
「まぁ、それは嬉しい副作用ですわね、おほほほほ」
病院の中も視察する。
その中で行われていた現地の医療の実態を見て、ハルカは驚愕した。
患者が背中から血を抜かれ、その血液がバケツに捨てられている。
「瀉血はすぐにやめなさい!
医学的根拠はないどころか失血で死ぬリスクもありますのよ!」
「…ああ、そう言えば。
我々の国では意味不明だが、この国ではこれがあるんだったな…」
思い出したかのようにパルスが言う。
ウォーターフォーリアやアジャイリアは医学が進んでいて、特に薬草学は非常に発展していた。
なので、ハルカが医学知識を持ち込んでも、この2国の医師たちはものすごい速度で吸収していき、医療水準が一瞬でオンプレー大陸に追いつきつつあった。
しかし、遊牧民の国のナールハヤは事情が違い過ぎた。
「この患者の症状は…?
………………いやそれ、貧血が疑われますわ!
治療で瀉血すればするほど悪化しますのよ!」
「あと、血液の取り扱いには注意が必要ですわ。
血液が原因で伝染する感染症もありますのよ!」
ここでハルカは初めて思い知った。
病院だけあっても仕方ない。
医師と看護師を育てなければいけなかった…。
「このナールハヤでゼロから医師の育成…何年かかるのかしらね……おほほほほ………」




