第八十話「ウォーターフォーリアの本気ですわ、おほほほほ」
瀉血をされていた患者は苦しそうに肩で息をしている。
時折咳き込んでいる。
これを「血の中の悪い成分が原因」と考えるまではまだわかるが、こんな原始的な器具でどうやってその悪い血だけを選別して抜き取ることができると言うのだろうか。
(そんなことができたなら、ほとんど人工透析ではないですの)
パルスが一歩前へ出た。
「ちょっと見せてみろ」
瀉血でつけられた傷を、魔道荷馬車(馬はいない)から持ってきた応急処置セットで消毒・止血し、パルスは患者の背中に耳を当てる。
「息吸って…って言わなくてもこれはひどいな」
「患者が瀉血で貧血を起こす前の症状って、風邪ですわよね…。
ここからでも呼吸のたびにヒューヒューと聞こえますわ」
「この症状なら、この薬が使えそうだな」
「それは何ですの?」
「この辺でよく見かける草と、ある植物の木の実の種と、リコリスを原料にした、呼吸がヒューヒュー言っているのを鎮める薬だ」
「………麻杏甘石湯みたいなものですのね…」
一通り処置を済ませてから二人が医師と名乗った人物に言う。
「あとは栄養のある消化の良いものを食わせて、安静にしておけ」
医師と名乗った者が訊いた。
「随分と手慣れているようですが」
パルスは面倒くさそうに答える。
「俺は戦場で育ったからな。
応急処置ができなければ大事な臣下を見殺しにすることになる。
戦がない時は親に医官の家庭教師をつけられてみっちりしごかれたんだよ」
魔道荷馬車(馬はいない)に戻り、パルスとハルカが会話する。
「とにかく、病院だけではダメですわ。
医師を育てる学校も作らないと」
「…お前ならそれを言うと思った。
それなんだが、ウォーターフォーリアに任せてもらえないだろうか?
お前の国ほど進んだ知識は教えられないだろうが、ウチの医官たちも結構アプリシア式の医術を心得てきている」
「…意外でしたわ、そう来ますのね。
知識は受け継がれてこそ真価を発揮しますもの、是非お願いしたいですわ、おほほほほ」
「…ところで、先ほどの患者ですが…。
細菌性の肺炎の可能性もあるから、同じような症状の患者が多いようでしたら、アプリシアからカビ薬を持ってこさせた方がいいですわね。
あの薬があれば細菌の増殖を抑えられますわ」
パルスが目を見開いてハルカを凝視しながら訊いた。
「え、お前の国、カビを飲んでんのか?」




