第七十八話「逃亡者ですわ、おほほほほ」
話は遡りこんにゃくタウン復興中のこと。
ハルカはナールハヤの工兵に投石機の運用を実際に見せてもらっていた。
組み立て、投石時の重さと飛距離の関係性、梱包して再度移動可能にする一連の流れである。
その中でハルカにとって不都合な物を見つけてしまった。
「こんなところで見つけてしまうとは、思ってもみませんでしたわ……」
ナールハヤはステップ気候で大型の木がほとんど育たない。
それにもかかわらず木材を使った投石機を使っている。
マリアは「ナールハヤはどこかの商人からか入手したらしい」と言っていた。
どこの商人かを確認はしたいが、それよりも投石器そのもののについて、大変な事実に気づいてしまったのである。
アプリシアにはかつて別の王朝があった。
この王朝はやたらと他国にちょっかいを出して戦争するのが好きな国王ばかりで戦費が嵩むと増税をし、圧政を敷いていた。
封建社会の中では、民に相応しくないレッテルを貼られた王権を他の有力な騎士が打倒するという仕組みが、悪政に対する自浄作用として機能していた。
しかし、前王朝は圧政に対する自浄作用に対しても、諜報と投石器を駆使して、反乱の兆候ありとあらば脅迫で城下町に石が飛んでくる恐怖政治を行なっていた。
それでも反乱の兆候がおさまらない場合、直接は戦闘を仕掛けることなく、城下町に糞尿や死体を夜間に投げ込んで伝染病を蔓延させるという破壊工作兼心理戦を進めたという。
「汚いやり方の連中には、こちらも汚いやり方でなければ対抗できない」と、投石機が林道を通過中に森に火を放って投石機を焼き払い、その王朝を打倒したのが現王朝である。
この出来事は王国史では「林道の戦い」と呼ばれ、「汚い連中を倒すために、汚いやり方で前王朝を滅ぼした」と、美化せず現王朝は歴史書には書かれている。
因みに、この森林放火によって投石器はすべて焼失したが、前王朝軍は全員投石機を放棄して避難したため、死傷者はゼロだったと歴史書にはある。
ハルカは、マリアから「投石機」「糞尿や死体」と聞いた直後から引っかかっていた。
そして、投石器を調べることで、全てが繋がってしまった。
ナールハヤ兵たちは投石機を「カッコウⅢ」と呼んでいた。
ハルカが帰国後に王宮の書庫で確認したところ、アプリシア前王朝での投石機の呼び名は「カッコウⅡ」だったと記録が残っていた。
また、ナールハヤの工兵が持っていたマニュアルは、古アプリシア語で書かれていて、行間に赤字でナールハヤ語訳が書かれており、そこにはかつて前王朝に仕えた技師の名という最も「不都合な物」もあった。
ヤムたちが海を越えてオンプレー大陸へ来たのとは逆に、技師は前王朝崩壊時に投石機とともに海に逃げ、漂流の果てにデベロッパ大陸へ辿り着いていたのだった。
これも、マニュアルの後書きに書かれていた。
マニュアルの中には「運用のヒント」として「糞尿や死体を投げ込むと脅迫の威力が増す」とまで記載があった。
ハルカの違和感の最悪な答え合わせが終わってしまったのであった。
(飛ばす石を卵に見立てた「カッコウ」というネーミングは絶妙ですが、これではカッコウが病気を媒介しているようで、カッコウの風評被害ですわね!)
ハルカはこれを一旦持ち帰り、国王陛下に相談した。
というか、愚痴と怒りを国王陛下にぶちまけた。
その結果、今回のアジャイリア訪問においてハルカは国王陛下から「今回の騒動の原因の一端がアプリシアにもあることについて謝罪する」との書面を預かってきていた。
「黙っときゃ誰も気づかなかったぞ?」
書面を受け取った民選国王ヤムが言った。
「それでは、わたくしの中の技術者倫理が許しませんのよ、おほほほほ」
この日、ハルカがナールハヤから買い取った投石機が、こんにゃくタウン博物館に収蔵されたのだった。
因みに、入館料は無料だが、銅貨を寄付すると謝礼にようかんがもらえる仕組みだった。




