第七十四話「講和条約ですの、おほほほほ」
話は少し前に戻る。
ナールハヤとウォーターフォーリアが停戦し、ようかんの『朝貢』を条件に和議を申し出てきた。
ボロクソに負けて自国の軍隊がようかんで餌付けされて捕虜として復興のための労働をさせたれていたにもかかわらず、相変わらず立場を弁えない上から目線の和議の申し出に、ウォーターフォーリアとアジャイリアの全国民が困惑した…もしくは呆れた、または机を叩きながら腹を抱えて悶え笑った。
こんにゃくタウンで講和会議が開かれることとなった。
「政都ではなくてこの街ですの?」
ハルカは首を傾げた。
「戦勝国としてのメンツを優先すればそうなるが、現実的に遠いだろう?」
パルス将軍が言う。
この時、外交体制を整えるべくパルスには「洋務大臣」の役職が与えられていた。
ウォーターフォーリアも基本的に冊封国に対して威圧的に振る舞う体制で、その長い歴史の中で対等な外交を経験したことがなかった。
加えて、隣国アジャイリアが外部からの技術を取り込み近代化が始まった。
その元凶(?)のアプリシアという未知数のヤバそうな国が、今は友好的ではあるが、軍事力を国内に展開しているという状況に、「将軍たちが内戦している場合じゃない」と皇帝は大いに焦り、近代化改革を全部パルス将軍に「洋務大臣」の肩書を与えて丸投げした。
この講和会議が、パルス・ディエンフワ洋務大臣の初仕事であった。
「わたくしも同席ですの?」
「むしろお前がいないと始まらん」
「一応援軍の将ではありましたけど、当事国の者ではありませんのよ?」
「いいからその場にいてくれ」
お互いカタコトのアジャイリア語を介して会話しているが、だいたいこんな感じであった。
講和会議の席に着いたナールハヤ全権大使は顔面蒼白だった。
賠償金の額によっては自分と親族の首が物理的に飛ぶのである。
「基本的に会議の流れは任せる」
「え、わたくしですの?」
「もちろん、そもそもこの会議の発言権、お前以外の誰にある?」
最初は国を広げたかった。
武力で国を勝ち取った。
その土地を支配するために街道を整備した。
国を苦戦して勝ち取った。
街道を整備したが反乱が起き、街道が破壊された。
そこから、侵略先は徹底的に従わせるか殺戮するかの二択になった。
ウォーターフォーリア侵略軍が出発した。
そのうち兵士が暴走して投石器で糞尿を投げるようになった。
襲う街に伝染病が流行した。
その伝染病の死者を次の町に投げ込んだ。
効率は上がった。
しかし出発時四万だった軍勢が伝染病で二万に半減した。
その兵器は、敵味方なく攻撃する、制御不能の代物だった。
いくつかの部隊がはぐれた。
いや、正確には逃げ出したのだろう。
気づいたら侵略軍は五百人になっていた。
侵略後の統治のためとはいえ、街道インフラを整備しようとしたことに対しては、ハルカは評価していた。
しかし…。
「賠償金とか、そんな物はどうでもいいのですわ!
むしろ捕虜の方々にはとてもよく働いていただきましたわ。
その労働を以て精算したことにしますの。
……そうではなくて、わたくし言いたいのは、『一歩間違えたら伝染病が大陸中に蔓延するような戦略をとったこと』が極めて遺憾だということですわ!
そこだけは絶対に反省していただきますし、責任をとっていただきますわ!!
こちらの提示する講和の条件は、ナールハヤ国内の医療体制整備を責任を持って行っていただくことですの。
まずは病院の設置と患者の治療、必要あればアプリシア、アジャイリアも支援致しますわ、おほほほほ」
因みに、スグニ・A・S・A・P・ナールハヤ2世の和議の条件通り、定期的にようかんが納品された。
草原の遊牧民の出身の皇帝一族にとって、この甘味はほとんど麻薬だったという。
「領土拡大とかもうどうでもいいや…ようかんくれ」




