第六十八話「木工の国ですの、おほほほほ」
「一睡も出来ませんでしたわ…。
おほほほほ…ふわぁ〜…」
ハルカは笑いながらあくびをする。
ベッドが高級すぎて眠れなかっただけではなく、結局布団に潜り込んできたマリアという安眠妨害オプションが追加されていた。
マリアは始終ハルカを抱き枕にしていた。
「とりあえず睡眠負債は後で返済ですわね!
仕事ですわよ、おほほほほ」
「……ハルカ嬢、私は『昔の記憶』で睡眠の債務整理したかったですわ」
「え、わたくしは今でも結構首の回らない睡眠債務者ですわよ?
おほほほほ」
「……笑うな寝ろですのよ…」
アカリは思わず変な口調になった。
ハルカは深刻な寝不足だと軽口を叩きながらテキパキと各国の要人を招いてのモックアップ視察の会場設営をしていく。
どんなに眠かろうと、資料レビューと障害対応の時は絶対に仕事モードになるのがハルカである。
(…天性のインフラ屋ですわね………)
アカリが心の中でつぶやく。
モックアップの説明が始まる。
ハルカは昨晩王都邸で印刷した資料を参加者に配布して、各パーツの説明をしていく。
その裏で…。
「アカリ嬢、ネズミを捕らえました。
セグメンティアの産業スパイのようです」
警備隊が一人の男を突き出してきた。
「……………。
プライドが迷子ですわね…。
普通に外交官を参加させるなら断りませんのに…」
本当に迷惑な国だ…。
とはいえ、ハルカなら
「事故る乗り物を作るくらいなら技術は盗んでもらって結構ですわ!
いや寧ろ徹底的に叩き込んで帰国させるべきですわ、おほほほほ」
と言うだろう。
「…その方、正式に参加者として扱いますわ。
………頭が痛い」
その裏で…。
「マリアさん、今日は私がお供いたします」
「………よろしく…お願いします…」
今日の主役はハルカのため、ハルカに代わってフサがマリアの付人として任命された。
マリアはあからさまにがっかりしている。
クラウディアの上層部がグイグイ質問する。
それにテキパキと回答するハルカを見て、マリアは「やっぱりあの人は遠い」と少し胸が痛んだ。
その表で…。
「因みに、モックアップの原材料にはアジャイリア産の木材を利用していますの。
実際の飛行魔道具にも一部分は使うことを検討していますわ」
モックアップは、綺麗に塗装されていたので誰も気づいていなかったが、強度に支障がなさそうな部分がところどころが木製だった。
竹で作ったものを「狂ってる」と言いながら、いいと思ったものはローカライズしつつ取り入れる、ハルカはずるいエンジニアだった。
因みにヤムは「お前さんと違って俺はライセンス料とかいらない、真似したければ好きにしろ」というスタンスだった。
逆にハルカは一部のパーツを正式に木製で作ることを考えていて、アジャイリア企業に発注したいと考えていた。
「おほほほほ…。
ストラッツ外務大臣、貿易交渉がしたいですわ」
マリア個人ではなく、顔が完全に職人モードのハルカが外務大臣として呼んだことに、マリアはまたちくりと胸が痛んだ。
後に、アジャイリアの技術で一度粉々に砕いた木材繊維を水に強い接着剤で固めて自由な形に整形したモノが『合成樹脂』という名称でありとあらゆる分野で使われるようになった。




