第六十四話「強引な人ですの、おほほほほ」
とある大陸に、とある小さな国があった。
その国は100年以上内乱が続いていた。
やがて一人の騎士が、その内乱を汚いやり方で勝ち抜いて武力と謀略で国家元首の地位についた。
その王は封建制度の中で恐怖政治を行った。
諸侯たちは強要される政策で無駄な金を使わされ、隙あらば反乱を起こして下剋上を…と蓄えていた財産が無くなった。
やり方は汚いが平和になった。
ついでに諸侯が使わされた金は庶民に回るという経済効果さえあり、王は庶民から慕われていた。
しかし、恐怖政治は急激な変化を許さなかった。
社会の混乱を抑えるためであるが、想定外の要素の登場により、これが悪い方向に作用した。
それは近隣の大国の急成長であった。
敵対した国はことごとく潰されている。
属国になればまあ悪くはない待遇であるらしい。
この大国が、歴史的にも文化的にも繋がりの深い隣国を侵略している。
王は、侵略されるようなら徹底抗戦をと構えた。
しかし、先進的な技術と文化を持つ隣国すら手をこまねいている相手に、この小国が勝てるのか?
諸侯の中には勝手に大国と交渉する者が現れた。
王権を打破して新国王となり自ら進んで大国に国土を献上しようという者さえ現れ、再び内戦となった。
そんな中、「武力に訴えるな、じっくり話し合ってその後多数決で国の方針を決めろ」という内容の本を書いた女性がいた。
隣国の影響で女性の声が届きにくい世の中にも関わらす、当時の諸侯の内戦に振り回されていた庶民の心境を代弁したその本は瞬く間に誰でも知る書物となった。
そして、その著者が国民から選ばれて新たな国王となった。
こうして、この国が主張を武力に訴える時代に終わりを告げたのである。
しかし、国内の体制が変化したとて、大国の侵略が止まるわけではない。
隣国はますます劣勢になる。
新国王は最初は圧倒的な支持率であったが、隣国が劣勢になるに従って支持率が低下していった。
隣国と大国の間には明確な国境線はなかったが、影響範囲と判断できるラインはどんどん後退していく。
その中、新国王に信書が届いた。
『お互い協力し合いたい』
新国王はすぐさま武器弾薬をその手紙の主に送った。
結果、さらに支持率が低下した。
大国から配下に入れと書状が何度も届く。
その度に支持率が低下する。
もういっそ、国王なんて辞職してしまおうか?
しかし、その後この国をまとめるのは誰だ?
自分が穢れ仕事を全て引き受け、国が滅びるならその時は共に潔く滅びるしかないのだろうか?
国の王とはこんなに重責なものだったのか。
新国王は日に日に痩せていった。
我々の知る土地以外に国があるかもしれない、そこに助けを求めよう。
そう思い艦隊を外洋調査に向かわせた。
危機的状況な中で無駄な金を使い貴重な戦力を放出したと批判された。
とうとう王城が放火された。
それからしばらくして、調査に向かった艦隊が戻ってきた。
その成果は最初は「虚偽では?」と疑われたが、謎の黒い菓子と、使い捨て瓶の水と、熱湯を入れて3分待つ麺という物的証拠を以て信用された。
国内の世論が再びざわつき始めた。
とはいえ、見つけた国が本当に好意的かわからない。
混乱に乗じて乗っ取られてしまえば、それは大国の属国にされるのと何も変わらない。
さらに数ヶ月後、その国から海を越えて少女がやってきた。
「すぐにぷにぷににして差し上げますわ、おほほほほ」
そう言って少女は新国王の首根っこを掴み、口に菓子を詰め込んだ。
新国王の口の中がねっとりとした甘さで飽和していく。
その瞬間、モノクロだったここ10年の新国王の世界が、急激に色のついた世界になった。
そして…
「……この飛行魔道具の技術が、我々にとって有益な技術であり続けることを願っておりますの。
空を飛ぶ目的が願わくば戦争ではなく、そう、例えば『船では数ヶ月かかる星の裏側の思い人にもすぐ会いに行ける』ようにすることなどであって欲しいかしら…。
…。
以上です。
ご清聴ありがとうございました。」
新国王はこの演説、『星の裏側の思い人にも』のところしか覚えていなかった。
新国王の世界はピンク色になった。




