第六十三話「成長しましたのね、おほほほほ」
気がつくとあっという間に時間が経過する。
物事に熱中している時というのは、そういうモノなのだ。
本来は試行錯誤で作っていくはずのものなのであろう。
その過程で命を落とす者もいたであろう。
だが、ハルカが決定的に順番を間違えたおかげで、そうはならなかった。
コンピュータによる物理演算、流体力学の計算、CADによる精密な設計、NCによる超精密加工、フライトシミュレータによる操縦士の育成。
全部が人類初の飛行魔道具の開発のはずなのに急ピッチで進んだ。
「教官、エンジンが止まってしまいました…どうしたら…」
シミュレータの前で訓練生が慌てている。
「落ち着け。そんなオロオロしていると余のようにハルカ嬢に笑い物にされるぞ?
まず高度を確認しろ」
「28000ftです」
「その高度ならすぐには落ちない。
落ち着いて助けを求めろ。
やり方は座学でやったのを覚えているな?」
「は、はい…。
MAYDAY MAYDAY MAYDAY
Ohohohoho Air 294, 50 miles East of BatchCity Airport, Headding 280…
Both Engine Failure….」
「うわ、殿下…初シミュレーションの学生に両エンジン喪失とか、鬼畜ですね…。
おほほほほえあとぅーないなーふぉー、ばっちしてぃあぷろーち、らじゃーゆあめーでー」
今日は王都の大学に新設された航空学科の訓練の様子の一般公開である。
学生の後ろで教官を務めるのはヨシチェック。
管制官役はなぜかフサだった。
その後ろで各国から招かれた要人たちが様子を見ている。
「…あれ、何語だ?」
「異界言語ですわ」
「何でだ?」
「私の中のデファクトスタンダードでしたの、おほほほほ」
「殿下…成長なされましたね…。
完全に教官が板についていますわ。
というか、フサさんって…あの言語話せたんですの?」
「猛勉強したげど『昔の記憶の母国語』ベースだからあの発音ですわ。
でもそれでいいのですわよ。
『昔の記憶』でもカタコトの管制官は多かったですもの、むしろそういう状況に慣れた方が操縦士の訓練には都合がいいのですわ、おほほほほ」
「ハルカ嬢、どうでもいいことかもですが…その…」
「何ですの?『おほほほほ航空』のネーミングセンスのことかしら?」
「…いえ、ハルカ嬢…。
さっきからずっとマリアさんが密着しているの、気づいてらして?」
ハルカが横を向くと、マリアが両腕でハルカの左腕を抱き込んで密着していた。
「え、いたんですの?
いつから?」
「この公開訓練が始まる前からずっとこうしていました」
その姿は完全にパートナーに甘える少女だった。
会場の全員が思った。
(………この人、元民選国王で、現外務大臣だよな…???)




