第六十二話「イメージ戦略ですわ、おほほほほ」
「ふむ、なかなかいいですわね」
試作モックアップの完成の知らせを聞いて大学の敷地内に建てられた組み立て用の工房を訪れたハルカは腕組みをしながら満足げに頷く。
接着剤と塗料まみれの作業着の学生が怪訝な目で見る。
協力企業から来ていた作業員も心配そうな目で見ている。
「いつものことですが、そんな格好で入ると汚れますよ?」
ハルカはいつものクリーム色のドレスに赤紫のボレロ、黄鉄鉱マグネットピアスだった。
因みに靴だけは歩きやすい庶民用の運動靴を履いている。
「まぁ、多少汚れても気にしませんわ、おほほほほ」
笑い飛ばすハルカ。
「本当は立場上あまり地味な服装で外出はできませんの」
現実的な回答をするアカリ。
「洗濯するの私なんですけど」
後ろから小声で切実なツッコミを入れるフサ。
因みにフサは発表会以降、ベニー領の本邸から、学院在籍時と同様ほぼ専属メイドに戻っていた。
「これは見た目だけでペイロードが大きそうですわ」
「おほほほほ、アカリ嬢、型式とかつけたいのですけれど、いい案ありまして?」
「『輸送用』だからCarrierのCに…数字が大きい方が性能高そうに見えるから、1000…。
C1000でどうかしら?」
「…………アカリ嬢、それ絶対パケット運んでいましてよ?」
「ハルカ嬢、機体ごとの愛称とかつけますの?」
「そうですわね、『はこぶぞ』でどうですの、おほほほほ」
「………それ『はたらくくるま図鑑』ですわ…」
「ハルカ嬢、どうして君のネーミングはいつもそうなんだ?
我が国の軍艦は『不屈の闘志』『希望の光』『導く力』とかだったのに、
イージスもどき護衛艦『ふるえ』『ねむけ』『おくびょう』『くしゃみ』
航空母艦『やらかし』『しくじり』
アジャイリア海軍の駆逐艦『しつねん』、軽巡洋艦『みおとし』
そして今回の『はこぶぞ』
………。
余は君のセンスを疑うぞ?」
「殿下、『しつねん』はヤムの提案、『みおとし』はマリアの提案でしてよ?」
「………は?」
「おほほほほ、殿下、戦争はお好きでして?」
「いや…できればしたくない。
戦争すれば国が疲弊することくらいは余でも知っている」
「では、『希望の光』に乗る兵士は格好いいと思われまして?」
「格好良くなければ軍艦ではなかろう?
だから余は指摘しているのだぞ?」
「兵士は『やらかし』に乗りたがるでしょうか?」
「いや格好悪い。
だから改善しろと言っている」
「逆ですのよ。
先程殿下も戦争を『できればしたくない』とおっしゃいましたが」
「言ったな…」
「格好いい名前の船では、士気が奮い立って戦ってしまうのではないでしょうか?
これらは兵器である前に、乗る兵士たちの命を預かる『乗り物』ですの。
ちゃんと生きて帰ってこられなかったら、『乗り物』失格ですわ!」
「…………。」
「これらは、あえてポンコツな名前にして、戦争に関するものはダサいと言う印象を持たせる、『戦争に対するネガティブキャンペーン』と、常識ではあり得ないネーミングで開戦時の敵の混乱を誘うのを同時にこなす合理的な名前ですわ」
「前方に艦影…アプリシア海軍のコンテナ空母『やらかし』と思われます」
「……コンテナ空母?あと艦名『やらかし』?」
「『ミスを犯す』みたいな意味だったかと…」
「……なんでそんな名前を艦名に…?」
想像して「一理ある」とヨシチェックが納得する。
「あ、そうそう…それと、仮に轟沈させられてもなお、敵に混乱を与え続けられますのよ?」
「戦果報告です!
敵護衛艦『くしゃみ』を撃沈しました!」
「……君、もう一度言ってくれるかね?」
「敵護衛艦『くしゃみ』を…」
「ふざけているのかね?」
「……いえ、ふざけているのは敵の艦名です!」
想像してアカリが爆笑していた。
実際に、スパイがハルカに接触を試みる前、クラウディア海軍は護衛艦「ふるえ」の意味と由来を調べても意図が理解できず、上層部が数日間不眠に陥っていた。
「だからお嬢様はあんな名前を…。
『平和を望むなら、戦いに備えよ、でも望んで戦いたいわけじゃない』ってことなんですね!」
フサだけがハルカの真意に気づき、一人で拍手喝采していた。




