第五十九話「神技術ですわ、おほほほほ」
「とんだ災難でした…」
一行は『飛行ショー』なるイベントの帰路、実際に動力として馬を使っている馬車に揺られセグメンティアの国境まで移動中である。
フサが「災難」と呼んだのは、墜落を眼前で見せられたことではない。
「いいえ、あれくらいやって当然でしたわ…」
アカリがフォローする。
ハルカは精神的に疲れすぎて放心状態というか、気絶していた。
数時間前。
「もう我慢なりませんわ!
物申して参りますの!」
ハルカが血管が浮き出るほど拳を強く握りしめて、眉間に皺を寄せながらのしのしと会場スタッフのもとに歩いて行き、会場スタッフの肩を掴んで何かを言っている。
何を言っているのか想像はつく。
「主催者出せ」とかであろう。
他のスタッフが駆けつけ、会場警備をしていた近衛兵も出てきて数分揉めたあと…。
主催者の元へ案内され…ではなくて連行されていった。
「お嬢様が国外で揉め事を起こしてしまうなんて…」
ある程度の処罰であれば従者として自分も行くべきかと迷っているフサを制止してアカリが言う。
「『人の命がかかってる時に、代表してちゃんと怒るのが貴族の仕事ですわ、おほほほほ』」
「………今、すごく似ていました…」
「ハルカ嬢がどうするつもりかは、私の想像には及びませんけど、これだけは確実ですのよ。
『任せておけば大丈夫』ですわ」
「……そう………ですね?」
フサは一応同意した。
1時間後、ハルカが戻ってきた。
先程の墜落した機体を操縦していたパイロットを連れていた。
「セグメンティアに宣戦布告してきましたわ、おほほほほ」
フサは耳を疑った。
アカリは爆笑した。
同行していたアカリのメイドも笑っていた。
「両国でちゃんとした飛行魔道具が完成したら、それぞれの飛行魔道具を使って空戦ですのよ、おほほほほ」
「…それは、軍事演習というのでは…?」
「表面上はその通りですわね。
ですが実際は技術面での戦争ですわよ。
ゼロから見様見真似でとりあえず飛べるレベルにできる技量があるのに、中途半端で勿体無いのですわ。
しかも中途半端だから先程のようなことも起こりますの。
ならばこの国を本気にさせる必要があると思ったから、とりあえず宣戦布告してきましたわ、おほほほほ」
(…確かに、パチモンとは言えハルカ達より先に完成させたのはすごいことですわね…)
アカリは言われてセグメンティアへの見方がちょっとだけ変わった。
今後、異なるテクノロジー系譜の飛行魔道具同士での軍事演習が行われることになる。
アカリの古い記憶では、2つの陣営で技術が交流したことは殆どないので、純粋に「平和ってこういうことなのかな」とか考えていた。
国境を越え、馬車(馬がいる)から降りる。
アプリシア国内からは魔道馬車(馬はいない)に乗り換え、210キロに驚異的なスピードアップをし、王都に22時に到着した。
「最終便の1本前でしたの…疲れましたわ…おほほほほ……」
「レベルが違いすぎる…」
連れてきた墜落機のパイロットが魔道馬車(馬はいない)酔いしていた。
空気バネとダンパーによる抑え込まれた独特の揺れが、馬以上の速度で走る経験が少ない者の三半規管を容赦なく苛んだようだった。
彼はフライトシュミレーターで操縦技術を叩き込んで持ち帰らせるための要員である。
一行はベニー家王都邸に泊まることになった。
ハルカは自室に着くと個人用コンピュータでメールをチェックし始めた。
アカリとフサが画面を覗き込む。
ハルカが自作ソフトで翻訳する。
そして一同は驚愕した。
アジャイリア民選国王ヤム・アイノードからのメールだが…。
『飛行魔道具だが、エンジンは見様見真似で作ってみた。
機体は紙テントに使った<水に強い紙>と、骨組みは、しなるけど硬い<弓とかに使う木材>と、必要最低限の鉄で作ったら結構軽量化できた。
有人飛行も成功した』
「…紙と竹で飛行機作るとか狂ってますわ…頭が痛い…」
アカリが頭痛を訴える。
「……材料ないからってそれは極端だし、危ないです…燃えちゃいます」
フサは昔の記憶と比較してもぶっ飛んでいるので困惑する。
「おほほほほ!
安全性と技術者倫理としてはアウトですが、探究心だけは神レベルですわ!!」




