第五十七話「誓いますの、おほほほほ」
飛行魔道具の本体の開発と同時に、各地に滑走路を整備する。
今は軍用だが、いずれは官民共用にする予定である。
燃料を調達する。
クラウディア連邦の民族国家の一つが、まだ何も産業がなかったのだが、ハルカはここで原油が産出することを噂で聞いていたので、油田開発をした。
ボーキ魔石の加工に必要な工場をクラウディアに建設する。
機体の設計や試験はアプリシアで行われた。
過去に「やることが多すぎ」とハルカが言ったのは非常に正しかった。
そもそも、ハルカは高所恐怖症でできれば空を飛びたくなかった。
フサとは別の理由で飛行魔道具は作りたくなかった。
しかし、今はアジャイリアとの定期便就航という目標ができてしまった。
やることが多すぎるというのに、ハルカの瞳は輝いていた。
「エンジニアすぎますわ…」
アカリが肩をすくめた。
こういう時の暴走ハルカは象にぶつかっても止まらないのを昔からよく見ている。
「…ハルカお嬢様、少し休憩を取られては?」
フサがようかんとお茶を差し出す。
「……………!?」
暴走ハルカは急停止した。
「これ、緑茶?」
「マリアさんが茶葉を分けてくださいましたのよ」
「最近ようかん食べてなくてお腹のぷにぷにが引っ込んできましたのに…」
そのマリアはアジャイリアの二番目の軍艦になる「軽巡・みおとし」に乗って帰国の途についている。
ハルカはeラーニングに加え、簡単なフライトシミュレータを作っていた。
操縦士を育成するためである。
ヨシチェックが完璧に操作をこなしていた。
試しに、集中力を試す試験をやらせてみた。
20行の大量の数字が書かれた紙で、書かれた数字を隣同士でひたすら足し算して書き込んでいき、1分経ったら次の行へ進んでいくというものだ。
ヨシチェックは凄まじい集中力を見せた。
通常、だんだん集中力が落ちていくのだが、ヨシチェックは常にハイレベルであった。
(興味のあるところにはとことんなのですわね…わたくしと似たもの同士ではありますわ…)
「健やかなる時も、病める時も、
真夜中の闇の中でも、
雲の中で何も見えなくても、
己の感覚に頼ることなく、
常に計器の情報だけを信用して飛び続けることを、
誓うかしら?
おほほほほ」
「誓うぞ」
「よろしいですわ、テストパイロットに任命いたしますの、おほほほほ。
己の感覚と計器の情報が食い違った時、己の感覚を信じない覚悟が空の上では重要ですの」
「…なんで結婚式みたいなフリなんだ?」
内田クレペリン検査
集中力を試験する方法として採用されている検査。
20行の数字の羅列を、ひたすら足し算をしていき1分ごとに強制的に次の行へ進ませる。
終了後、1行ごとの解答の量がどういう傾向かでその人の集中力を判断する。
鉄道・航空・バスなど輸送に関わる職業では必須とされる。
計器飛行と空間識失調
航空機を操縦していて、雲の中や濃霧などで機体の姿勢を変えると、視覚では自分の期待の姿勢が判断できない。
通常、人間は内耳の感覚で重力などから自分の姿勢を判断できるが、航空機の場合は遠心力などかコレがうまくできなくなることがある。
コレが空間識失調である。
なので、計器の情報を絶対に正しいとして判断しないと、上昇しているつもりが背面飛行でどんどん地面に向かって真っ逆さま…などという事態も起こりうる。
因みに、計器はたくさんあるが、「姿勢」を判断する計器が中央に配置され、パイロットは他の計器を見ても必ず姿勢を毎回確認するように訓練されている。
計器を絶対に信用する飛行を計器飛行という。




