第五十六話「夕食会ですの、おほほほほ」
飛行魔道具の開発発表会の後、参加者はアプリシア王宮での夕食会に招待されていた。
因みにこういうことにヨシチェックが全く気が回らないので、アカリの手配である。
「こんな格好でお邪魔してもよろしいのでしょうか?」
マリアは困惑していた。
マリアはアジャイリアの民族衣装ーー丈の長いワンピースのような上下一体の服を、体の前で重ね合わせて腰の帯で巻いている服装で、足の親指だけ独立した靴下と、足の親指と人差し指で引っ掛ける特殊な靴を履いていた。
これはアプリシアでは異質な服装ではあるが、ハルカやアカリには親近感のある格好であった。
ハルカは昔の記憶を思い起こした。
スーツ姿の人と民族衣装っぽい石油王が並んだ光景はよく報道で見かけた気がする。
「…まぁ、問題ありませんわよ、これから国同士の交流が活発になれば、違和感もなくなりますわ」
アカリは同じく昔の記憶を思い起こした。
先進国に追いつけ追い越せと維新後の政治家たちは服装を彼らに合わせて民族衣装は着なくなってなかったのでは…?
(まぁ、ハルカ嬢なら『多様性を尊重』とか言って、気にしないのでしょうけど)
夕食会は立食形式だった。
マリアは困惑した。
「…立って食べるというのは………」
「こちらへどうぞ?」
アカリがマリアを案内した先には、植物製のレジャーシートが敷いてあり、背の低い机が置かれていた。
植物製のレジャーシートはアカリが職人に作らせたものであるが、適した草をアプリシアで手に入れるのに数年かかったという。
マリアを見つけてハルカも靴を脱いで上がってくる。
マリアは食前酒が回ったせいか、またハルカに抱きついていた。
「公衆の面前ですので…」
アカリがいうとしぶしぶハルカから離れたが、今度は泣き始めた。
「お酒弱すぎですわ…」
アカリが背の低い机の対面から隣に移動し、宥め始める。
「ここにいたのか」
背の高い男が近づいてくる。
「…誰ですの?」
アカリがハルカに尋ねるが、
「…誰ですの?」
ハルカも同じ反応だった。
「酷いなぁ…って、あの時はこちらも酷かったからお互い様か。
しかもこちらは名乗っていなかった。
失礼」
ハルカは声を聞いて思い出していた。
「あぁ、わたくしを永久凍土送りにしようとした秘密警察の…」
「いやしてないから!
というか感謝してるって言っただろうが!」
秘密警察のリーダーは、いつのまにか党の上層部に出世していたらしい。
因みに夕食会で一番それっぽく振る舞っていたのはヨシチェックであった。
王太子として教育を受けたからではなく、会話する全員の話を『真面目に聞いていない』ので、誰かに肩入れすることなく参加者全員と平等に会話していたのである。
「後で聞いてなかったことがバレたらどうされるおつもりでしょうな…胃が痛い…」
そんなヨシチェックを見ながら会場の片隅でガスターが胃痛に悶え苦しんでいた。
小袖姿
室町時代あたりから江戸時代の庶民の服装がだいたいコレ。
マリアの着ていた「アジャイリアの民族衣装」は江戸後期の小袖姿。
ゴザ
イグサで作った敷物。
畳のように、畳ではない何か。
ゴザや畳を知らない者からすれば「植物製のレジャーシート」としか形容のしようがない。




