第五十四話「馬鹿と鋏は何とやらですわ、おほほほほ」
アプリシア王都の大学において、正式に飛行魔道具の開発が発表された。
会場には、クラウディアの党の上層部の人間も参加していた。
一番テンションが高かったのはいうまでもなくアプリシア代表として出席した王太子・ヨシチェックであったが、クラウディア側も興奮を隠せない様子であった。
一方で、このニュースにショックを受けた人物がいた。
ベニー家の天然メイドである。
このメイドはハルカの幼少期からベニー家に雇われている。
ハルカが貴族学院の寮に入った時にも同伴していた。
そして、ハルカとアカリが帰省した際、一緒に食卓を囲み、アカリに『おかん』認定された、もぐもぐ中に飛行魔道具のことを訊いてきたメイドである。
天然もぐもぐメイドこと、フサ・コガネはこのニュースの発表の会場の控え室にいた。
どうしてもハルカと話さなくてはならないことがあって、無理を言って同伴させてもらったのである。
数時間前ーー。
「ところで、フサさん。
お話って何ですの?」
話さなくてはならないことがあるというが、話すのに決意がいることのようで、メイドの顔には覚悟の表情が見て取れる。
しかし、その瞳の奥からは悲しみが滲み出ている。
「お嬢様、ハルカ様…。
私は今まで黙っていたことがあります。
お嬢様は『特別な知識』があるとおっしゃっていましたよね。
実は私も、知識ではないのですが、自分で体験した、でも今の自分ではない、『特別な記憶』があるのです。
…と言っても、何を言っているか普通ならわからないでしょうけど…。」
暗に「ハルカなら理解できるだろう」という意味合いを含んでいるような言い回しである。
「…聞くわ、続けて」
「実は、私はハルカ様が図面に書いている『異界言語』、読めます…。
でも内容はさっぱりですがね…。
『画数が多い文字』は、私の知らない単語が多いですし、『ぐにゃぐにゃの文字』は、『特別な記憶』の中の私は『敵国の言葉』として使うのを禁止されていました」
『敵国の言葉』という単語に反応してハルカの眉がピクっと動いた。
「私の『特別な記憶』では、飛行魔道具は戦争の道具なのです。
その記憶の中の私の父は、『お国のために戦ってくる』と飛行魔道具に乗り込んで飛び立ちました。
………帰ってきたのは父ではなく電報でした。
一番上の兄は、『世界最大の戦艦に乗って激戦地の援軍に行く』と自慢げに語っていて………結局その船は目的地に辿り着く前に、敵の飛行魔道具に沈められてしまったそうです。
国のあちこちが、敵の飛行魔道具から『焼夷弾』を大量に落とされて火の海になりました。
特に帝都が火の海になった時は酷い有様だったと聞かされました。
敵の飛行魔道具はその後、二箇所に『新型爆弾』を落としたらしいです。
『新型爆弾』の詳しいことは聞けませんでしたが……。
…その数日後、私は『ラジオ』の前に集まるように言われて、難しくてよくわからない放送を聞かされて…。
…その後は意識が朦朧とすることが多くなって…空腹の中瓦礫の中を歩いていて転んで…そこで私の記憶は途切れて…。」
しばらく沈黙が続いた。
「……………どうか、“飛行機”はやめてくださいませんか?
ずっと、事あるごとに作らないのか訊いていたのは、作らないという答えを聞いて安心したかっただけなのです…。
今まで色々作ってきたけど一度も戦争のための道具は作らなかったハルカ様がなぜ…」
「仰りたいことはよく分かりましたわ。
『馬鹿と鋏は使い様』ですわ。
人を殺すための剣でも、それを使って料理をした人の伝説がありますの。
転じて調理用刃物が“包丁”と呼ばれるようになったそうですわ。
あなたの記憶の中の『新型爆弾』、同じ技術が発電に使えるのですわよ。
それに、飛行魔道具は、爆弾ではなく大勢の人間や荷物を乗せて星の裏側へ運ぶことにも使えますのよ。
そもそも最新の技術は、研究にも製造にもお金がかかるから、最初はそれを度外視できる軍事用として開発されるのは仕方のない事ですの。
それと、『戦争のための道具は作らなかった』ですって?
今アプリシア国内で使われている『コンピュータ』も元々は戦争のために発展した技術ですのよ。
でも、わたくしはそれを、何段階も飛び越して最初から平和利用するのがモットーなのですわよ、おほほほほ」




