第五十三話「クラウディアの国土ですの、おほほほほ」
「アプリシア人のハルカ・S・P・ベニーだな?」
「ええ、いかにも。
どこへでも連れていくといいですわ、おほほほほ」
ハルカの手には秘書がまとめた荷物の入ったトランクと、厚手のファーのついたコートがあった。
「まだそんなコートを着る時期でもないと思うが…?」
「わたくしこれから永久凍土暮らしですのよね?
さぁ、覚悟はできているから連れていくといいですわ!」
秘密警察のリーダーらしき人物が隊列の後ろから歩いて来て来た。
「……はぁ。
我々も不本意ではあるのだが…。」
面倒な仕事だと言わんばかりのため息混じりの口調で言う。
「そもそもクラウディアにとっては君は技術面でもはや英雄だからな、永久凍土送りにしたら中央でも暴動が起きかねない。
党の一部の連中が君をよく思っていない。
まぁそこは自覚あるだろうが…。」
「というか、君を永久凍土送りにしたらアプリシアと戦争になるだろうし」
もはやアプリシアを凌ぐレベルの軍事力を持つクラウディアでも、技術面を提供したハルカその人を粛清したら、アプリシアはハルカの作った超兵器を持ち出してクラウディアに報復して滅ぼす…。
秘密警察はそこら辺は理解しているのだ。
だから今までなんのお咎めもなかったのだが。
「党の一部がうるさいので形だけ仕事をしに来た。
そういうわけでご同行願う」
「おほほほほ、承知仕りましたわ!」
「我々は君に感謝している」
「なぜですの?
恨まれる覚えは多々ありますが、クラウディア中央政府からは感謝されるようなことをした記憶は微塵もありませんことよ?」
「君がそれぞれの民族の国に産業基盤を絶妙な配置で作ってくれたおかげで、それぞれの地域が相互に依存する状態になった。
各民族は独立するメリットよりクラウディア連邦の一つの地域として社会的分業をするメリットが上回ったんだ。
そういうわけで、民族の血気盛んな活動家が減って、我々も重い仕事が減って助かっている。
何より党の上層部は口には出さないがかなり安堵しているはずだ。」
「おほほほほ?
わたくしは効率的に必要なものを配置したらたまたまそうなっただけで、そこまで深く考えてはおりませんでしたのよ?」
『この発言は謙遜と思われる』と担当官が調書に勝手に追記した。
3時間ほど色々聞かれて、解放された。
不凍港を求めて他民族の国を飲み込んだクラウディアの国土は広大である。
そして、その国土において採掘できない資源はないと言われる。
「というわけで、材料も電気も揃っておりますわ。
クラウディアにですけれども」
「なぜ我が国にはないのだ?」
「そんな駄々をこねる子供みたいなこと言わないでくださいまし。
だからクラウディアとアプリシアで軍事用途の飛行魔道具の共同開発をするという名目なら、お望み通り手に入れられるという話をしに来たのですよ、殿下!」
「ハルカ嬢の話は難しくてよくわからなかったけど、飛行魔道具を作れるならヨシ!」
「………あ、もしもし陛下、ちょっと殿下を永久凍土送りにしてもよろしいかしら?」
「ちょっと待ってくれ、余もコートくらい準備する時間が欲しいぞ」
………違う、そうじゃない!




