第五十一話「講演三日目ですわ、おほほほほ」
講演三日目。
昨日の講演と異なり、オンライン受付開始直後にエントリーしたのがヨシチェックであった。
「…どれだけ飛びたいんですの…?」
受講希望者リストを見ながら思わずハルカは独り言を漏らす。
地獄のeラーニングハラスメントを受けても、まだなお飛行魔道具への興味が消えないらしい。
「それでは講演三日目、始めますわ、おほほほほ。
まず、『空を飛ぶ』原理からですが、わたくし達が思い浮かべる空を飛ぶ動物といえば、鳥ですわね。
鳥は骨をスカスカにして、排泄物も極力溜めないようにして、飛ぶために極限まで体を軽量化しているのですわ」
最前列で恐ろしく前のめりで受講するヨシチェックが手を挙げる。
「はい、質問です。
つまり空を飛ぶためには人間も体から改造する必要があるのでしょうか?」
「殿下、せっかちは嫌われますことよ。
それを今から説明いたしますのに…」
昨日に続きまた押し殺した笑い声が散見された。
「他に空を飛ぶといえば、ドラゴンやワイバーンもいますが、彼らは『召喚契約』された個体が野生化して繁殖して増えた特定外来種で『異界の生物』ですから、わたくしもよくわからないのでスルーですわ。
というか、『飛行魔道具』にとっては彼らは害獣ですわね」
会場が微妙な雰囲気になった。
召喚契約の主な目的は、国防のためであり、契約術者が非力だと脱走してしまい、元の世界にも帰れず野生化してしまう。
そしてそのまま繁殖して空に人智を超えた存在がのさばっている今日の事情を、受講者はみな知っているので、王太子の前でタブーに触れるハルカに一同が冷や汗をかいた。
もっとも、黄鉄鉱を身に纏った者達だけは「今日も平常運転だ」という表情であったが。
「そしてわたくし達は、殿下が仰られたように体を改造できませんわ。
もし重い臓器を摘出してとかいうと、人間はまず脳…頭から外す必要が出てしまいますわ」
いや、そのジョークいらないだろ、と先ほどとは違う意味で会場が微妙な雰囲気になった。
「飛行魔道具は、鳥とは異なる仕組みで飛びますのよ」
と言って揚力の説明。
「しかしながら、コレを作るためには軽量で強度のあるカナモノが必要不可欠でして…」
「またボーキ魔石からカナモノを取り出すにあたり莫大な電力消費が立ちはだかり…」
電力需要が逼迫し発電が追いつかない実情の説明。
「またわが国においては採掘された『炎の魔石』を特殊な加工をして液化したものが燃料と称して流通されており、魔道馬車や船の燃料としての需要が高く、産出量としてもこれ以上液化に回せる量は多くなく…」
航空産業が成立するには燃料が十分確保できないという事実の説明。
「仮にこれらの課題をクリアしても、一機の飛行魔道具を飛ばすにあたり携わる地上スタッフの数は非常に多く…」
人員の教育に時間がかかると言う側面の説明。
「視点は変わりますが国際便の運行には、入国管理局や税関の整備、あと探知犬の訓練なども重要ですわ、おほほほほ」
「結局、飛行魔道具っぽい話、揚力しかなかったんだが」
ヨシチェックが文句を言う。
「あ、最後に重要なものを忘れていましたわ。
機体の設計にCADが必要ですわね。
あと流体力学の計算ソフトとかも」
「何で法整備とか地上設備が先なんだよ?」
「それは…後から整備すると大変だからですわ。
ですので今は『飛ばぬ翼の羽算用』で結構ですのよ、おほほほほ」




