第五十話「講演二日目ですわ、おほほほほ」
「それでは、二日目の特別講演を始めさせていただきますわ、おほほほほ」
スクリーンには
「最新の考え方『ゼロ・トラスト』
〜たとえ王太子でも入室権限の無い部屋には入れない」
とある。
「待ってくれ、ハルカ嬢!」
満員の大講堂の中央付近に座っていたヨシチェックが手を挙げて立ち上がった。
「この副題はあんまりじゃ無いか!」
「信用しないアクセス」のイメージキャラに任命されてしまった王太子本人の抗議である。
「この講演、一応事前申込制で、1時間前に締め切った後で、わたくしリストを確認しましたが、殿下のお名前はありませんでしたわよ?」
「え、正門は顔パスだったし、この大講堂の入り口でも止められなかったから普通に入ってきたんだが…?」
「絵に描いたような茶番ですわね、おほほほほ。
こういう状況はセキュリティ的によろしく無いので、『全部の講堂の入り口で受講資格を確認しましょうね』というのが、本日の主題である『ゼロ・トラスト』ですのよ」
「………………」
大講堂のあちこちで笑いを堪えている声が聞こえてくる。
国民の間で完全にヨシチェックのキャラが定着しつつある証拠とも言える。
「だから言ったではありませんの、殿下…。
頭が痛いですわ…。
あ、ちなみに私は1週間前に申し込みしましたわ。」
「……受講させてくれないというなら、ハルカ嬢、余は君を駐アジャイリア大使に任命するぞ?」
「おほほほほ、左遷されては叶いませんわ。
いいでしょう、特別に受講を認めますわ…。
あ、因みにこれは悪い例ですわ」
講堂内からまたクスクスと笑いを押し殺す声があちこちから聞こえてくる。
「今日の殿下で例えながら本日の公演のまとめとさせていただきますわ。
殿下は大学敷地内に入る『認証(Authentication)』はされていても、この講演を受講する『許可(Authorization)』がなかったということですわね。
本日の主題の『ゼロ・トラスト』というのは、全てを信用しないというとちょっと語弊がありますの。
権限は必要最低限に留め、必要な時だけ追加の権限を付与するのですわ。
顔パスで何でもできる特権アカウントを作ってはいけませんの。
必要なときに権限を与え、必要なときに確認する、これが最新の考え方ですわ、おほほほほ」
「つまり余は結局信用されていないということだな?」
「いいえ、殿下。
全員等しく信用しない、それが『ゼロ・トラスト』ですわ」
「…それにしても、殿下、『飛んで火に入るセキュリティ教材』ですわね、おほほほほ」




