第四十五話「そして事件は起きたのですわ、おほほほほ」
ハルカは激怒していた。
ヨシチェックの胸ぐらを掴んで壁に叩きつけていた。
「…余は…王太子だぞ?
こんな乱暴…婚約者といえど…」
「いいえ殿下。
ご自身がやったことの重大さがわかっていないから、それをわからせるためですの。
王太子だからこそこうして乱暴にしているのですわ。
殿下が国王陛下の代理として適当に許可したポインター子爵の申請、その結果として民が受ける苦しみに比べたら、この程度で済んでいるのはむしろ有難いと思いなさい!」
ハルカが作った肥溜めの仕組みをマウスが自領内に広めた翌年。
「不作が解消して、民の家庭に昨年分と同程度の食料を残せればいいと計算すれば、今年の税率はうちは9割でいく」というめちゃくちゃな申請である。
領民を奴隷か何かと勘違いしているのではないか。
言われていることはわかるが、今まで決して暴力的な手段に訴えなかったハルカが明確に手を出した…。
その事実はヨシチェックを感情的にさせるには十分だった。
かくして、件の婚約破棄に至ったのであった。
婚約破棄の直後のアカリへの乗り換え宣言に対して、アカリはやんわりと断るのではなく、容赦なく突っぱねたのは、アカリが『愚か者連盟』の理事だったためである。
いつしか『愚か者連盟』は、「ヌル・E・ポインター子爵を懲らしめる会」から「ヨシチェック・O・K・アプリシア王太子殿下を更生させる会」に変わっていた。
「本当に、良かったのか?」
「ええ父上、すべて計画通りですわ。
まぁ長年一緒にいましたし、殿下には情が移ってしまっていて、面と向かって婚約破棄と言われて、計画通りとはいえ何も感じないわけではないですがね…おほほほほ………」
「……すごい表情になっているぞ」
「……今まさに『苦虫を噛み潰し』ておりますからね………」
「……カメムシを噛み潰し…?
臭そうだな……」




