第四十一話「貴族とはなんですの、おほほほほ」
少年の名前は、マウス・E・ポインター。
学院の教室の隅で、入学以来誰とも会話していなかった。
子爵家の令息でありながら貴族社会に馴染めなかったためである。
正確には、身分社会に嫌気がさしていたためと言った方が正しい。
少年の父のヌル・E・ポインター子爵は傲慢だった。
毎月のように子爵邸には領民が税を下げてくれ、今月は免除してくれと直訴に訪れた。
子爵はすべて鞭打ちにした。
そんな光景を見て育ち、こんな世の中変えなくては…と考えていたためである。
とは言え、貴族の中で身分制度を否定するとは、自分の地位を捨てることである。
その考えに同調する者は皆無で、いつしか孤立していった。
貴族学院に入学したらあるいは?
しばらく人間観察だけしていた。
ヨシチェック・O・K・アプリシア王太子殿下。
この人はダメだ。
自分が楽なことしかやらない、ものぐさでいいかげんな性格だ。
婚約者のハルカ・S・P・ベニー公爵令嬢。
いいかげんな王太子を傍で常に諌めている。
的確なことを言っているようで、ところどころ発想がぶっ飛んでいる。
あと、公の場に紫と黄色のツートンのドレスを着て、金の立方体の派手なピアスをつけている。
権力とか財力を自慢したいのだろうか?
「人間観察ですの?」
アカリ・P・キター伯爵令嬢が声をかけて来た。
「因みにアレ、金のピアスに見えて、『黄鉄鉱』という金の偽物ですのよ。
あと、ハルカ嬢は耳に穴を開けたくないと言って、磁石で挟んでおりますの」
「え、そうなのですか?
磁石?」
子爵令息は誰とも会話せずに人間観察に徹するつもりでいたのにうっかり会話してしまい「しまった」という表情になった。
「人間観察でしたら、黙って見ている第三者目線と、実際会話しての二つの目線で判断した方が正確ですのよ?」
この人は他人の視線を察したり考えを読むのがうまそうだ。
なんだかんだでアカリ嬢が間を取り持ってくれて、ヨシチェック殿下、ハルカ嬢と普通に会話する仲になった。
王太子殿下は、いい加減とかものぐさというより、国王という地位に興味がなく、やる気が持てないのだという。
ハルカ嬢はそういう殿下を支えているように見えて、実はやりたいことのために権力が必要なのだと言う。
…それ、言ってしまっていいのか?
アカリ嬢が、二人がいないところでこっそり教えてくれた。
周囲がうまく回るように、裏で根回しするのが染み付いていそうだった。
ある時、思っていることをうっかりハルカ嬢とアカリ嬢の前で言ってしまった。
「いっそ、全国民が身分とか関係なく全員平等で、財産は国が管理するようにしてしまえば…」
「「それはダメですわ」」
言い終わらないうちに二人が声を揃えて否定した。
「わたくし自身が貴族でその地位がなくなるから、とかではありませんわ。
あなたの言う平等、どこまでを平等にするのかしら?
管理するのは誰?
やがてその国は『努力する者』と『怠け者』が平等に扱われ、『管理する者』が特権階級となり、不平等どころか不公平で腐敗した社会になりますわよ」
そこまでは考えていなかった。
確かに言われてみれば、努力しても怠けても給料が同じでは、平等かもしれないが不公平だ。そして管理する者がいる時点で不平等だ。
…そして腐敗した社会…なぜそんな具体的な結末を想像できるのだろうか?
「国を変えるには、民を教育するのですわ、おほほほほ」
「…などと、学生の分際で教育改革を訴え、ハルカ嬢は本当に王都に大学を設立してしまいましたわ」
高笑いするハルカ嬢と、それを見て補足しながら呆れるアカリ嬢。
「す、すごいじゃないか、おほほほほ」
笑い方が伝染していた。




