第四十話「国防ですわ、おほほほほ」
私は騎士団長である。
なのに、なぜか剣を構えていた。
いや、そこは問題ない。
剣を交えている相手が問題だ。
ーーハルカ・S・P・ベニー公爵令嬢だ。
(なぜこんな小娘と…?)
数時間前、陛下から呼び出された。
何事か?
王都でデモでも起きたか?
もしくはどこかで戦が?
「ハルカ嬢の剣の腕を確かめて欲しい」
………は?
陛下が確かめたいと言ったのは、この変な構えの剣術か?
背筋はぴんと張って、剣の先で突くにはリーチ不足で不利な姿勢。
盾を持つことを全く考慮しない剣の両手持ち。
そもそも甲冑でそんな姿勢取るのか、という剣を構えたままスクワットするような『ソンキョ』という謎動作。
(正直、話にならないな…)
何が起きた?
小娘の剣の先端が私の喉元にあった。
「真面目にやってくださいまし。
この手合わせ、王命ですのよ?」
………。
しばらく頭が真っ白だった。
……さっき、小娘に何かしら予備動作はあったか?
いや、ない。
あったら対応できていたはずだ。
攻撃の気配も、殺気も、腕の立つ兵士との稽古感じるそういう類の物もなかった。
……アサシンか?
…………いや、公爵令嬢だ。
………馬鹿にしていたからか?
……ちゃんと手合わせすればわかるか?
………何度戦っても勝てなかった。
動きが機敏すぎる。
守りを捨てているかと思えば剣の根元で防ぐ。
何より、こちらの動きを利用して攻撃してくるので厄介すぎる。
「もらった」と思ったら返って間合いを詰められ、防ぐために剣を胴体に寄せたら、私の腕ごと剣を握った拳で弾いて、ガラ空きになった胴体に一撃を加えながら、なぜか後ろに去っていった。
「…今のは……」
「『鍔迫り合いからの引き胴』ですわ」
これだけの動きをしているのに息が乱れていない。
いかに私の攻撃を利用して無駄な動きをしていないかがわかる。
「しかし、この攻撃、戦場で甲冑を着た相手に通用しないぞ?」
大人気なく負け惜しみを言ってしまった。
「そうですわね。
しかし騎士団長、国は平定され隣国とも関係は友好、これからの時代は想定すべきは甲冑でぶつかり合う戦ではありませんわ」
「確かに…城の警備も甲冑つけるのやめて軽装な防具にしてから40年は経ってるな」
「甲冑相手だと重さで叩き切る、盾相手だと隙を突く、そういうのではなく、これからはゲリラ戦にも対応できる必要がありましてよ?おほほほほ」
変わった形の剣を使っていたので詳細を聞いた。
反りがあることが『引き胴』を斬撃として成立させる重要なポイントらしい。
「この剣、わたくしが作りましたの。
熱して叩いて折り曲げて熱して叩いて折り曲げて熱して叩いて折り曲げて熱して叩いて折り曲げて熱して(略)
いい汗かきましたわ、おほほほほ」
ハルカ嬢を騎士団にスカウトしようとした。
女騎士としても参謀としても伝説級になると思った。
陛下にめちゃくちゃ怒られた。
……殿下の婚約者だった………。




