三十九話「婚約者ですわ、おほほほほ」
「ヨシチェック、また剣術の稽古をサボったそうだな?」
「……はい…ですが父上、戦場の最前線で敵と剣を交えるのは私の仕事ではないはずです。
なので剣術はやらなくてヨシ!」
何かにつけて面倒くさがって、屁理屈を並べて最終的に「ヨシ!」と言ってサボることを正当化する。
ああ言えばこう言う。
なんて面倒な性格に育ったものか。
言葉で言って聞かせるのも面倒になってきたので、国王は息子をぶん殴ろうとした。
「違いますわ、殿下」
近くで聞いていたのか、ハルカ嬢が割り込んで来た。
…よかった、助かるぞハルカ嬢。
このバカ息子を論破してくれ。
本当にこのベニー公爵令嬢が婚約者でよかった。
国王陛下は心からそう思った。
「王族は民の規範となるべきですの。
子は親の背中を見て育つのと同じく、民はわたくしたちが考えているよりもじっくり上流階級を見ているのでしてよ。
なので殿下が率先してサボると、それを見て国民も仕事をサボりますわ。
そうすると国内総生産…GDP…つまり国の全体の生産性と収益が落ちるのですわ」
「余には関係ないからヨシ」
「いいえ、関係ありますわ、よくお聞きなさいな。
国内総生産が落ちるということは、作物の収穫が落ち、民の手業で作るモノも質が落ち、結果として税収が落ちて最終的には国が滅びますわ。
その責任を取れるのならご自由にすればよろしいと思いますの。」
…ハルカ嬢、そこまで言ってくれとは思っていないぞ?
しぶしぶヨシチェックは練習用の剣を握った。
「お相手いたしますわ、おほほほほ」
……え????
「まずは蹲踞ですわよ?」
……いや何だその構えは…。
両手で剣を持ったら盾が使えないんだが?
…と思ったらハルカ嬢は剣の根元でヨシチェックの剣を受け止めている…?
常識破りで出鱈目な動きのように見えるが、合理的な動きである。
何よりハルカ嬢の動きに一切の迷いがない。
相当な鍛錬を積んだ熟練の戦士のように機敏に的確にヨシチェックの守りが甘い場所を狙っていく。
「…何なんだ、あの剣術は…」
途中から入ってきたアカリ嬢が言った。
「……陛下、ご安心ください。
あの剣術は『存在しておりません』わ」




