第三十八話「普通教育ですわ、おほほほほ」
確実に成長していた。
ーー娘が?
いや、領内の経済の話だ。
娘に朗報が飛び込んできた。
歳の近い国王陛下の一人息子との婚約の話である。
5歳にして「権力」を欲していた娘にとっては願ってもみない話である。
また、同世代の子供に比べると、人前では「普通の淑女」を演じられるうちの娘は、悪くはないであろう。
娘は即決した。
娘は10歳になり教養と礼儀作法を学ばせるべく、貴族の学校に入学させることとなった。
最も、娘には学ばせる教養を凌駕する知識があるようなので、どちらかというと、この社会の一般常識を身につけてほしい。
しかし10歳の誕生日プレゼントにせがまれたのが「義務教育」だった。
「貴族だけが教育を受けるのは不公平ですわ。
それに国の中のほんの一握りの人間が知識を独占するから、優秀な人材を発掘できないのでしてよ。
義務教育は最初は抵抗があるでしょうから、ベニー領だけでも身分に関係なく希望者に教育の機会を与えることを望みますの。」
……。
言いたいことはわかる。
しかしな?
「大人数の子供を受け入れる施設を作るのに莫大な費用がかかるぞ」
「街の礼拝院に協力させれば良いのですわ。」
「…協力してくれるだろうか?」
「当然ですわ。
そのための発電所の利益でしてよ。
協力させる見返りに補助金としてある程度の金銭を礼拝院に支払うのですわ。
逆に、協力を拒む場合『民衆のことなどこれっぽっちも考えてないくせに神の名を騙って道徳を説いて民衆から布施を騙し取る悪質な詐欺集団』のレッテルを貼って差し上げればいいのですわ!」
娘は着々と『悪い子』に育っていた。
「あ、協力する特権で、自分の宗派の教義をカリキュラムに入れるのは良しとしても、それは任意受講にすべきですわ。
信教の自由は保障されるべきですもの」
…。
相変わらず何を言っているのかわからなかった。
数年後、ベニー領は国内随一の学術都市となっていた。
15歳になった娘はますます『悪い子』っぽい高笑いをしていた。
「医学がようやく細菌を認知しましたわ。
アオカビの研究も始まったみたいですわね、おほほほほ」
公爵はアオカビの用途を聞いて、内容は理解できないが医療革命そのものだということだけは理解した。
「医療も、『社会への投資』の一つなのですわ、おほほほほ」
民を育て共に高みを目指す領地経営者目線の貴族は追従した。
一方で、ポインター子爵のような愚民政策で搾取するだけの貴族からは、娘はものすごく睨まれていた。
全寮制なので直接はわからないが、同行させたメイドの報告では学院でもだいぶいじめを受けているとか。
このメイドがかなり天然なので、報告の真偽が些か疑問ではあるのだが…。
しかし、寮にいる娘にそれを手紙で聞くと、返事には「問題の根本原因を是正するために後ろ指を刺されるのは慣れておりますわ、おほほほほ」と書かれていた。
ーー慣れてる?
しかも、単純に「いじめられるのに慣れてる」ではなく、「問題解決のためなら孤立も辞さない」という宣言である。
公爵は「やっぱり普通の子供ではないな」と思うと同時に、「娘ともっと一緒の景色を見てみたい」と思ってしまうのであった。
学院で何があったか定かではないが、娘が王宮の地下牢に入ってしまったと聞いて慌てて王宮に乗り込んだことがあった。
娘は地下牢を魔改造して謎の魔道具部屋にしていた。
牢に入ったの意味が違って安心したが、確実に『悪い子』に育ってて安心(?)した。
そしてなぜか、地下牢にキター伯爵令嬢が一緒にいた。
王宮の経理が急に効率化し始めたのは、ちょうどこの頃からであった。




