第四話「技術支援でざまぁですわ、おほほほほ」
ハルカ・S・P・ベニーが表向きは追放、実際は留学という名目で去ってから数年が経過していた。
アプリシア王国、王都・バッチシティの城下は大混乱していた。
「趣味とは言え、一気に同じ時期にシステム化したら、こうなるのは当然ですわ!」
アカリ・P・キター伯爵令嬢が愚痴なのか怒りなのか嘆きなのかわからない独り言を言う。
「全くもってその通りですな…胃が痛い…。」
ガスター・H・ピロリ宰相が同意しつつ胃痛を訴える。
「今日も動いているからヨシ!ではなかった…。」
青ざめた様子でヨシチェックが城下を見下ろし立ち尽くしている。
「これが殿下の婚約破棄の『最大で最後の影響』ですわね」
「不思議でしたな。ハルカ嬢の成長と共にこの国がみるみる豊かになっていったのが。
今考えると納得せざるを得ないですがね…胃が痛い。」
「殿下、また国王陛下は胃潰瘍を再発して先程王立病院に搬送されましたわ。
そしてこれから緊急対策本部を設置しますの。
国王代理としてしっかりしてくださいまし!」
「えー、では、現状を整理する」
「軍の指揮システムが使えなくなりました」
「シェル湖浄水場がシステムダウンして浄水も送水も止まっており、王都では断水しています」
「数ヶ所の魔力発電所で発電システムがダウンして、王都では一部が停電しています。
キター伯爵領は全域停電です」
(…領地にいるお父様大丈夫かしら)
「…で、何が原因なんだ?」
「特性要因図を書きましょう」
「宰相、それは何だ?」
「ものごとの因果関係を図に書いていき、根本原因を特定するための手法にございます。
魚の骨みたいに見えるので、フィッシュボーン・ダイアグラムとも呼ばれます」
「…いやそうではない!何でその原因のほぼ全てに『婚約破棄』があるんだと聞いているんだ!」
「だって、事実ですもの殿下。ねぇ、宰相様?」
「ですな…胃が痛い。」
中世〜近世レベルの文明だった王国は、ハルカ・S・P・ベニー公爵令嬢が成長するに従って、急激に経済力・技術力・軍事力が向上していった。
当時は王侯貴族たちはその理由を理解できなかった。
だが現場からの声から少しずつ実態が明らかになっていく。
「趣味で魔道具を作ってみましたわ。
これ、『コンピュータ』っていう魔道具で、この中で『ERP』という経理魔法が動いていますの。
これが王宮の地下室の『サーバ』につながっていて…。
あ、この紐みたいなのが『UTPケーブル』、こっちが『スイッチ』、これで王宮内を網羅しておりますのよ、おほほほほ」
「趣味で工場を自動化する魔道具を作りましたの。時代はFAですわ、おほほほほ」
「趣味で空と海を守る魔道具を作りましたの。
飛んでくるドラゴンが敵か味方か瞬時に判断して敵なら全火力で迎撃できますわ。
海軍卿に試験運用してもらっていますわ、おほほほほ」
「趣味で他国の者に絶対に読まれない封蝋魔法を作りましたわ。
名前解決魔道具に公開鍵を仕込んでおく仕組みですの、おほほほほ」
何を言ってるのか、本当に誰もわからなかった。
ただ一人を除いては。
「え、この夜の灯りが蝋燭とかいう文明レベルでコンピュータを作るとかどうかしていますわ。そもそも電気はどこから?」
「ERPって、この国の税制にちゃんと合わせてありますの?」
「ベルトコンベアに産業ロボットですわね…。でもこの国の工業、工場制手工業にすら達しておりませんわよ?」
「ちょっと…、これほとんどイージスシステムですわよ…パワーバランスが崩れますわ!」
「DKIM…この世界に必要ありまして?」
そんな会話をしていた過去を思い出しながら、アカリ嬢が現状を整理する。
「ハルカ嬢が作った国に一つしかない『DNS』と『NTP』の『サーバ』が寿命になり、魔道具が管理する時間も魔道具同士の繋がりも全部がダメになってしまったのですわ」
「現状の原因は…」
「ハルカ嬢が国外に追放留学していること」
「…追放留学ってなんだよ!?」
「追放留学の原因は…」
全員の視線がヨシチェックに集中する。
「殿下、そういうことです…胃が痛い」」
「宰相様、ファモチジンですわ。」
「かたじけない…。」
「あ、私この間登録販売員の資格は取れましたの。」
「1類だから薬剤師でなくてはダメですな…。」
「申し上げます!」
外務大臣が大慌てで入室してきた。
「クラウディア連邦に本拠地を置く国際企業が、『ダウンしたシステムを全て買い取りますわ、おほほほほ』と打診してきています!」
「「「…絶対あいつだ!」」」




