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第三十五話「お腹が膨れてもそれだけですのよ、おほほほほ」

「勝利報告のために戦場から全力で走って、国王に報告した瞬間に絶命した兵士はこの魔道具があれば死なずに済んだのですわ、おほほほほ」

ハルカが前線から無線で戦況を報告する。

アジャイリアのヤムとマリアの宿舎を中継して、アプリシアとも繋がっていた。

「ハルカ嬢、それでは42.195キロ走る伝統競技が生まれませんわ」

ハルカとアカリにしか通じない会話だった。


口にようかんをねじ込まれていたナールハヤ軍の兵士たちは、限界を超えていた。

奇襲で夜間に疫病で死亡した人間の死体を投げ込み、混乱に乗じて食料を簒奪。

疫病が蔓延して死者が出たら、死体を回収して次の街の襲撃で投げ込むという、人として最低な戦法をとっていた。

しかし、街が無人で投げ込む死体が補給できない。

一度投げ込んで原型を留めない死体を回収して再利用することになる。

この回収作業には、感染症リスクもさることながら、倫理観が欠如したナールハヤ兵にとっても精神的に辛いものがあった。

彼らにも人としての最後の心が残っていたのである。


食料も調達できない。

「もしかしたら壁の中に非常食を隠しているのでは?」と建物を片っ端から壊して回ったが、麦の一粒も出てこなかった。

仕方なく干し肉を食べるしかなかった。

もうそろそろ食糧が尽きてしまいそうだ。


最悪だったのは最後に襲った街である。

どうせ無人だろうと踏んで、ヅカヅカ入り込んだ。

民家に食糧が大量にあった。

ナールハヤ兵たちは一心不乱に頬張った。


…………味がしない。

…………うまいのかまずいのかわからない。

…………プルプルしている。

…………何だこれは…???


青みがかった灰色で、黒いつぶつぶがあるように見える、プルプルした味のしない食べ物を腹いっぱい食べて、進軍を再開した。

はずなのだが。


…………おかしい。

満腹のはずなのに全然力も気力も湧いてこない。

眩暈がしてふらつく者さえ出てきた。

略奪してきたその食糧を追加で食べる。

腹は満たされる。

なのに全く力が出ない。

頭も回らなくなってきた。


「それはこんにゃくですわね…」

ハルカは一通りウォーターフォーリアの地理を頭に叩き込んでいた。

この付近はこんにゃく芋の産地であった。

「アレをお腹いっぱい食べても、全く熱量になりませんわよ?おほほほほ」

ハルカは高笑いしながらナールハヤ兵の口にきんつばを押し込む。


後世に、「カロリーで帝国軍を壊滅させた悪女」という伝説がナールハヤで語り継がれることになるとは、ハルカは全く考えてもみなかったことである。

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