第三十四話「決戦でしてよ、おほほほほ」
パルス将軍の本拠地の都市では、山林の外側からの避難民に食糧が配給されていた。
アジャイリアに支援要請をしていなければこの人数の食糧は絶対に用意できなかった。
住居は、水に強い特殊な厚紙で作られた特殊なテントが大量に支給された。
これはアジャイリアの紙の加工技術を応用した、ヤムとハルカの共同発明品だった。
ヤムは軍の野営に使うことを想定していたが、最初のお披露目は難民キャンプであった。
最初の用途を巡ってハルカと賭けをしていたヤムは物資が無事に届いたという知らせを聞いて、胸を撫で下ろしながら舌打ちしていた。
因みに、最大積載量をオーバーしながら海を渡ってきたコンテナ空母・しくじりに満載されたコンテナの中には、インフラ資材がぎっしり詰め込まれていた。
その資材を使って、ハルカは道中の都市や山の頂上に無線の中継局を設置していた。
建物を壊すことに無駄な時間を費やしてくる軍もどうかと思うが、最前線に援軍に向かう前衛部隊に同行しながら道中で設備を建設するハルカはもっとどうかしているという、正直すぎるコメントがマリアから送られてきた。
「最高の褒め言葉ですわ、おほほほほ」
峠の麓、平地が終わり道幅が急に狭くなる部分に、砦が作られていた。
平時は砦ではなく関所として機能している、石造りの壁と物見櫓と、簡単な小屋で構成されたものである。
夜。
砦の物見櫓の上で見張りの兵士がハルカから渡された「夜でも人間だけよく見える魔道双眼鏡」越しに「緑色の人影の大群」を発見した。
よく見ると投石器の組み立て中のようだ。
日中に斥候が砦を発見し、投石器の幅が門を突破できないと見て、いつものように夜間に破壊しようとしたのであろう。
「夜でも昼のように明るくなる魔道花火」が打ち上げられた。
空に上がっていく間も十分明るいが、照明弾が空で炸裂すると、本当に日中のように明るくなる。
「あれはなんだ?」と見上げてしまったナールハヤ軍の連中はしばらく幻惑されて何も見えず身動きが取れなくなったであろう。
「戦場でこの魔道花火が打ち明けられたら、そっちは見ずにゆっくり地面に伏せることですわね、おほほほほ」
その間に砦の兵士たちはしっかりとナールハヤ軍を捕捉していた。
異変に気づいて迎撃しようと砦に向かって走り出した騎兵たちは、気がつくと空の堀に転落していて、「香辛料から作った魔道ガス」を浴びせられていた。
兵士たちは敵に催涙スプレーを浴びせながら、それがかかって悲鳴を上げる馬を見て「ちょっと可哀想」と思っていた。
「おほほほほ、塹壕に転落したのに槍で突かないだけ感謝してほしいですわ。」
投石器を組み立てていたナールハヤの工兵の内の何人かは、脱走しようとして鉄条網で大怪我をしていた。
すぐに捉えてアルコール消毒と傷に絆創膏を施す。
「自分だけ逃げようとすると痛い目に遭いますのよ?おほほほほ」
日が昇る頃には、組み立て途中の投石器と、密閉された投擲用の死体を保管した箱しか残っていなかったという。
なぜかというと、ナールハヤ軍は、全員手足を縛られて、口にようかんを詰め込まれるという拷問を受けていたからである。




