第三十話「どうしてわたくしが、ですの、おほほほほ」
日夜機会翻訳リスニングと、提督たちとオンラインで会話していてアジャイリア語にも慣れてきたと思っていたが…。
居合わせた全員が、付け焼き刃の語学力で聞き間違えたかと思った。
なにしろ「おほほほほ大陸」は各国の言語は違うが、文字や語順など特徴の共通点が多くそこまでお互いの言語の習得に苦労しない。
アジャイリア語は動詞の格変化がないが、組み合わせてくっつく言葉を多種多様に切り替えて、細かいニュアンスを表現する。
まぁ、相手が察してくれればここが雑でもなんとかなるが…。
60種類以上の格変化があるどこかの人工言語よりはマシではあるが。
因みにアジャイリア語の文字は日常使うものが300文字、高等教育を受けたものは6500文字覚えるのだという。
ハルカはこの文字体系を見て「習得難易度レベル5ですわ」と思ったとか。
いろいろ説明を聞いて判明したこと。
迫りつつあるナールハヤに対して、打開策となりうる他国の支援を取り付けたことで、マリアの支持率は高いが、政治上の最大の問題点は、マリアが3期続投して任期満了という点であった。
「非常事態宣言を使われては…」
側近の助言に対し…、
「任期ギリギリで使うのは心象が良くないかと。
あと、非常事態宣言で任期延長できるのは1年だけですし…。」
そこで側近が提案する
「民選の国王と議員選出の宰相を入れ替えて続投するのはいかがでしょう?」
つまり大統領と首相が交互に入れ替わって体制をほぼ続投させる裏技である。
どこかの表面的には民主化した赤い独裁国家がそんな体制を使っていたような…。
「ですが、今の議員選出宰相はもう齢70を超えているんですよ」
「だからこそ、来期マリア殿は議員選出宰相になっていただいて…」
「……?」
「そこの外国人を民選国王選挙に出馬させればいいのですよ」
「………はい?
わたくしですの?
外国人参政権とか以前の問題ではなくて?」
「なら、名誉市民として市民権を…」
「…わたくし、国籍を捨てて帰化とかするつもりはありませんのよ?」
「二重国籍に関する規定が現行法ではグレーなので問題ありません」
「…何がなんでも押し切るつもりですのね…。」
無理筋ロジックを成立させるには強引さと勢いしかない。
それはハルカ自身がよくわかっていることではあったが、いざ自分がやられる側になるととても疲れる。
「情報量の多さはステータスですよ」
謎ロジックでマリアが便乗してきた。
初対面で情報量の多さで困惑してた人間がよく言ったものだ。
「…どう考えても外国人に国を乗っ取られたように見えるより、非常事態宣言の方がいい気がしますわ」
脳内でメリデメ比較してすぐには答えが出せなかった。
港町では、製薬工場が着工した。
実際の製造レーンはコンテナ空母・しくじりに部材が積まれて、アプリシアから運ばれてくる予定で、とりあえず建物を先行して作ることとなった。
一刻も早く完成させるべく、ハルカはガントチャートを投影しながらヨシチェック、アカリ、ガスターと会議する。
「趣味が国家プロジェクトになってしまいましたの」
「ハルカ嬢、もともとあなたの趣味は全部国会プロジェクト級ですのよ」
「…趣味の規模がおかしい」
「改めて思い返すと、胃が痛いですな…」




