第十九話「世界は交わるのですわ、おほほほほ」
深夜、ベニー邸の会話魔道具『でんわ』のベルが鳴り響く。
魔道具の上に取り付けられたモニターには
『発信者:王宮執務室』
と浮かび上がっている。
「もしもし…ですわ?」
アカリが寝ぼけて応答する。
(昔の私も、今の私も同じですわね。
こういう時に誰よりも早く体が反射的に動いてしまうのは…。
ハルカ嬢に『職業病』と言われてしまいますのよ!)
宰相の声が聞こえた。
「その声は、アカリ嬢!
明日朝一で王都へ戻ってきてくれませんかな…胃が痛い」
時速210キロの高速魔道馬車(馬はいない)の始発で、アカリとハルカは王宮に戻ることとなった。
ハルカは全く興味がなく、王国とその周辺国が豊かになればいいと思っていた。
アカリは、考えていたが、忘れていた。
ヨシチェックも、考えてはいたが、やはりハルカが急速に国内を近代化していく中で忘れさせられていた。
ガスターは、胃が痛かった。
ーー何を?
アプリシアとクラウディア以外にも国はある。
この世界は、まだこの地域の文明が知らない土地がある。
周辺国だけで経済が回っている、そういう文明レベルであり、全くもってグローバルではなかった。
緊急対策本部に招集された全員が、全員がそれを思い出させられていた。
(…やはり、空を飛ぶ魔道具は必要なのかしら?
『レシプロ』なら比較的早く作れそうですわね…。
でも肝心の『ボーキ魔石』から例の金属を取り出すには、『特殊な魔石を連鎖反応させる方式』の発電がないと、今のままでは厳しいですわね…。
ウチの領地の『炎の魔石』の魔力発電だけでこの国の全電力を賄っておりますのに…)
ハルカは移動中からずっと考えていた。
「状況説明を頼む」
プロジェクターでスクリーンに投影された海図と写真を見ながら、海軍卿が説明する。
「EEZ内に、国籍不明の船団が侵入しました。
無線応答、発光信号、海洋信号旗、手旗信号、全部無視されています」
「…この写真、帆船ですわよね」
アカリは頭痛がした。
この文明の本来の技術レベル相応の帆船の船団に無線で呼びかけて、応答がないのは当然すぎる。
海洋信号旗も手旗信号も、存在すら知らないのであろう。
「…プロトコルミスマッチでしてよ…」
どうやら、船団は大砲を積んでいるが、金属製の軍艦相手に見た目で戦力差を悟ったのか、攻撃はしてこなかったらしい。
(まぁ、ハルカ嬢が作ったコレ、防空が命の艦船だから砲弾が当たると結構困るとは思いますわ…。
巨大な大砲が命の思想ベースの設計ではありませんものね…)
アカリは防空ベースの艦船が砲撃された場合のリスクを考える。
(『CIWS』で砲弾は止まるのかしら?
まぁあの大砲だと連装砲ではないし挟撃はできないから精度低そうではありますわ…)
一方、
(やはり陸・海・空を揃えねば?
強度と軽量性と搭乗者の安全をどう確保する?
燃料タンクはどうする?
レシプロエンジンで機関砲積んで重量は?
作るなら民間機もですわね…)
ハルカは何も耳に入っていないかった。




