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魔法適性ゼロの辺境貴族、前世の剣術で無双する~木刀一本で最強魔獣を瞬殺したら、公爵令嬢と特待生が弟子入りしてきました~  作者: 黒崎隼人


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第9話「限界の輪郭」

 大講堂の天井を支える太い石柱が、黒装束の放った雷撃魔法によって半ばからへし折られ、耳をつんざく轟音とともに崩れ落ちた。

 もうもうと立ち込める白い粉塵の中、生徒たちの誘導を終えたレオンたちは、学園の深部である中枢管理棟へと向かって長い渡り廊下を走っていた。

 周囲の空気は炎魔法の余熱でひどく乾燥し、呼吸をするたびに喉の奥がチリチリと焼け付くように痛む。

 レオンの前を走るガイルの息遣いは明らかに荒くなっており、最後尾を走るセリアの足取りも、疲労でわずかに左右にブレ始めていた。


「少しペースを落とすぞ」


 レオンが片手を上げて合図すると、2人は壁に背中を預けるようにして座り込み、肩を大きく上下させて酸素を貪った。

 窓の外を見ると、完全に陽は落ち、月明かりと燃え上がる炎の赤い光だけが学園の惨状を照らし出している。

 特務高等学園の敷地は広大であり、教師陣が防衛線を構築しているとはいえ、あちこちで局地的な戦闘が継続していた。


「……こんな大規模な襲撃、どうやって準備したんだ」


 ガイルが角材を床に放り出し、額に浮いた汗を手の甲で乱暴に拭いながら吐き捨てる。

 王国最高の防衛結界を物理的に破壊し、これだけの数の魔獣と武装集団を同時に潜入させるなど、一個人の組織力でどうにかなる規模ではない。

 明らかに国家クラスの軍事行動だった。


「目的は、おそらく中枢管理棟にある『魔力晶石』でしょう」


 セリアが乱れた前髪を整えながら、冷や汗の滲む顔で静かに口を開いた。


「学園の地下には、王都全体の魔力供給を担う巨大な晶石が安置されています。あれを奪われるか、破壊されれば、王都の防衛機能は完全に沈黙します」


「なるほど、王都の中枢を叩くための布石というわけか」


 レオンは顎に手を当て、木刀の柄を指先でトントンと軽く叩いた。

 平穏な学園生活などというものは、とっくに粉々に砕け散っている。

 今ここから逃げ出しても、いずれ王都全体が戦火に巻き込まれるのであれば、根本的な原因をここで絶つしかなかった。


「……面倒なことだが、行くしかないようだな」


 レオンが立ち上がろうとしたその時、廊下の前方、中枢管理棟へと続く重厚な鉄扉が内側から凄まじい衝撃で吹き飛ばされた。

 ひしゃげた鉄の塊が壁に激突し、火花を散らしながら床を滑っていく。

 土煙の中から現れたのは、これまでの黒装束とは一線を画す、異様な気を放つ男だった。

 男は全身を分厚い金属の装甲で覆い、手には身の丈ほどもある巨大な戦斧を軽々と引きずっている。

 その体躯から発散される魔力は濃密で、空気が泥のように重く感じられた。


「ネズミが数匹、ここまで入り込んでいるとはな」


 男の兜の奥で、獣のような赤い瞳が光った。

 声は低く、地鳴りのように廊下の空気を震わせる。


「……下がってろ、2人とも」


 レオンは腰を落とし、木刀を正眼に構えた。

 男が戦斧を片手で軽く振り上げると、ただそれだけで強烈な突風が生まれ、廊下の窓ガラスが一斉に内側へ向かって割れ落ちた。

 ガイルとセリアは風圧に耐えきれず、顔を腕で覆いながら後ずさる。


「魔法使いのヒヨッコどもか。俺の斧の錆にしてやる」


 男が地面を蹴った瞬間、石の床が爆発するように砕け散った。

 凄まじい脚力から生み出される突進は、重戦車がそのまま突っ込んでくるような圧倒的な質量を持っている。

 巨大な戦斧が空気を引き裂きながら、レオンの頭上から真下へと振り下ろされた。

 レオンは正面から受け止める愚を犯さず、半歩だけ右へスライドするようにして軌道から外れる。

 戦斧が床に激突し、爆発的な衝撃波とともに石板が砕け散った。

 その破片が散弾のように周囲に飛び散る中、レオンは木刀の先端を男の装甲の隙間、脇の下へ向けて鋭く突き入れる。

 だが、木刀が装甲の奥の肉に届く直前、男の全身を覆っていた濃密な魔力が硬質な防壁となって刃を阻んだ。


「その程度の木の棒で、俺の魔力装甲が抜けると思ったか」


 男が戦斧を引き抜き、横薙ぎに振り回す。

 レオンは上体を大きく反らして刃をやり過ごすが、斧が空を切った風圧だけで身体が数メートル後方へ吹き飛ばされそうになった。

 靴の裏で床を強く擦りながら体勢を立て直し、レオンは小さく息を吐いた。

 純粋な物理的な硬さだけならどうとでもなるが、あの高密度の魔力装甲は、打撃の衝撃そのものを分散させて吸収してしまう性質を持っているらしい。


「兄貴」


「レオンさん」


 後方で声を上げる2人に、レオンは左手で制止の合図を送る。

 呼吸を整え、再び木刀を正眼に構え直した。


「……なるほど。少しだけ、面倒な相手のようだな」


 レオンの瞳の奥で、静かなる闘志が初めて明確な炎となって揺らめき始めた。

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