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魔法適性ゼロの辺境貴族、前世の剣術で無双する~木刀一本で最強魔獣を瞬殺したら、公爵令嬢と特待生が弟子入りしてきました~  作者: 黒崎隼人


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第4話「実戦の匂い」

 屋内訓練施設の空気は、何十人もの生徒たちの発する熱気と緊張感でひどくむせ返るようだった。

 高い天井から吊るされた巨大な魔力灯が、青白い無機質な光を石張りの床へ冷ややかに落としている。

 教師のリリスは教卓代わりにしている古い木箱の上に腰掛け、白衣から伸びる長い足をゆっくりと組み替えた。


「本日は班ごとの連携防衛テストを行う。指定された防衛対象を最後まで守り切った班の勝ちだ」


 気怠げな声が広い空間に反響する中、彼女は意味深な笑みを浮かべて一番後ろの壁際に立つレオンを真っ直ぐに指差した。


「防衛対象は、魔法適性ゼロのレオン・バルディアにやってもらう」


 数十人の生徒たちから一斉にどよめきが起こる。

 魔獣を一撃で沈めたという噂は学園中に広まっているものの、本人の口から明確な説明はないままだ。

 疑心暗鬼と好奇の入り混じった視線が、無数の矢のようにレオンの全身に突き刺さる。

 レオンは壁に背中を預けたまま腕を組み、忌々しげに舌打ちをした。

 リリスは明らかに自分を試そうとしているし、あわよくば隠している底を暴こうと企んでいる。

 これ以上目立つのは是が非でも避けたいが、特務学園の権力者である教師の命令に公然と逆らう方が後々面倒な事態を招くのは火を見るより明らかだった。


「班員はガイルとセリアだ。制限時間は10分間、速やかに開始地点へ移動しろ」


 有無を言わさぬ指示に従い、レオンたちは訓練施設の中央に白線で引かれた円陣の中へ足を踏み入れる。

 対峙するのは、実践経験を積んだ上級生を交えた5人の選抜チームだった。

 彼らの手元にはすでに濃密な魔力が集束し始め、空気がチリチリと焼け焦げるような独特の匂いを発している。


「兄貴はそこで座っててくれ。俺たちが全部弾き返してやるからよ」


 ガイルが巨大な両拳を顔の前で打ち合わせ、獰猛な獣のような笑みを浮かべて一歩前へ出る。


「無謀な突撃は控えてください。陣形が崩れて隙が生まれます」


 セリアが氷のように冷たく澄んだ声でたしなめ、手にした短い金属製の杖の先端を相手へ向けた。

 彼女の足元は昨日までの不安定さが嘘のように消え去り、しっかりと石の床を掴んでいる。

 胸の上下動は極めて緩やかで、呼吸のリズムは深く静かだった。

 開始を知らせる重厚な銅鑼の音が、空気を震わせて訓練施設に響き渡った。

 直後、上級生たちの手から色とりどりの攻撃魔法が一斉に放たれる。

 赤黒い炎の槍、目に見えない風の刃、周囲の空気を凍らせる水圧の弾丸が、凄まじい速度でレオンたちに殺到した。

 ガイルが腹の底から雄叫びを上げ、魔力で極限まで強化された太い腕で最前列の風の刃を物理的に殴り飛ばす。

 鼓膜を破るような衝撃波が巻き起こり、足元の石板が蜘蛛の巣状に砕け散った。

 その乱気流の隙間を縫うように、セリアの紡いだ透明な氷の防壁が瞬時に展開される。

 分厚い氷の壁が炎の槍を正面から受け止め、甲高い破砕音とともに大量の白い蒸気が立ち込めた。


「甘いな」


 視界が白く染まった一瞬の隙を突き、相手の一人が足音を殺して完全に死角から回り込んでいた。

 男の掌から放たれた紫色の雷撃が、セリアの無防備な横腹を容赦なく狙う。

 反応がわずかに遅れたセリアの顔が、直感的な恐怖に青ざめた。

 だが、雷撃が彼女の身体を焼くより早く、黒い影が音もなく横薙ぎに閃いた。

 バチッという落雷のような激しい火花とともに、紫色の光の軌道が天井へと強引に逸れる。

 レオンが片手で振るった木刀が、純粋な物理的剣圧のみで魔法の進行方向を力ずくでねじ曲げたのだ。

 髪の毛が焦げる匂いが鼻を突く中、彼はゆっくりと木刀を下ろし、視線を相手に向けたまま静かに口を開く。


「前方の熱に気を取られすぎだ。周囲の気配から意識を逸らすな」


 平坦な声で注意され、セリアはハッと我に返って肺の中の古い空気を吐き出し、深く息を吸い直した。

 完璧な奇襲をただの木切れで防がれた上級生は、信じられないものを見るように目を見開いて完全に硬直している。

 その決定的な隙をガイルが見逃すはずもなく、地を這うような低い姿勢で懐に飛び込み、強烈な肩打ちを男の胸板に見舞った。

 くぐもった悲鳴とともに、上級生が床を何回転も転がっていく。

 遠くからその光景を眺めていたリリスが、予想通りの玩具を見つけた子供のように満足げに唇を歪めた。

 レオンは深くため息を堪えながら、帯に差した木刀の柄を軽く握り直す。

 四方から飛んでくる火の粉や砕けた氷の破片を、最小限の体重移動だけで払い落としながら、10分間という途方もなく長く感じる時間をただ静かに呪った。

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