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異世界転生したらエロ可愛い狐娘になって最強タンクです  作者: 白黒一
第二章. 迷宮都市ダルカナ編
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第二十五話. エンシェントドラゴン

 魂すら凍える竜の咆哮が、闇の洞窟に響き渡った。


 常人ならば、恐怖で竦んで指一本動かせないであろう。

 その中で、時を移さず身体を動かせたのは二人だけだった。

 ――わたしとクリスの二人である。


 条件反射の赴くまま、わたしは尻尾を肥大化させ、クリスは弓に光の矢を番える。


「――ふもっふパンチ!」


 最大威力の攻撃を竜に向かって叩き込む。

 大巨人の腕もかくやと化した尻尾は、この距離でも一直線に竜へと向かって飛んでいく。

 ――とにかく直感で、先手必勝で倒さないとヤバいという気配がビシバシと伝わってくるのだ。


「舐めちゃ駄目! このドラゴンは――」

 後ろからアニータの叫び声が聞こえる。


 グォオオオオオオオオ―――ッ!


 竜が咆える。

 大気が激震する叫喚。

 その振動に呼応するように、虚空に魔法陣が出現し、竜を守るように前方に展開した。


 ――ガッキィィィィィン!


 モフモフの巨拳と、蒼穹に輝く魔法陣が激突した。

 鼓膜が破れかねないほどの大音量。ぶつかった衝撃で、空間が歪んで見えるほどのソニックブームが発生する。


「くっ――」

 攻撃が失敗に終わった感触に、わたしは切歯する。


 あの魔法陣は、それ自体が城砦もかくやという防壁なのだろう。

 わたしが放った拳圧は、竜の作り出した防御陣に阻まれ、目標の眼前にて堰き止められていた。


「気を付けて! こいつは――失われし古代魔導を自在に操るドラゴンなの!」

「――――」

 魔法を使ってくるドラゴン――その事実に愕然とする。

 ヒトとは比較にならないほどの魔力を持つドラゴン――それが魔法まで自在に使いこなせるとなれば、それは鬼に金棒どころではない。


「テイル! 下がって!」

 クリスの声――

 いつもクールな彼女にしては珍しく、差し迫ったような叫びだ。


 振り返れば、そこには聖弓に光の矢を番え、限界まで引き絞った姿があった。


 クリスの瞳の色が変わっている――彼女の魔眼が発動しているのだ。

 彼女としても、今回の敵が全力で斃すべき相手と判っているのだろう。


 ――ビュォウッ!


 聖弓の矢が豪と放たれる。

 一撃必殺の威力を持つであろう光の矢が、神速をもって突き進む。

 だが、さらに驚嘆するべきはその先だった。

 クリスの放った光の矢は空中で複数に枝分かれすると、さらに加速し、怒涛の勢いで古代の魔竜へと襲い掛かる。


 ――竜の眼前には、まだあの防御陣が健在だった。

 当然、このままでは光の矢は、その魔法陣によって阻まれてしまうだろう。

 だが――


 ダダダダッ!


 防御魔法などなかったかのように突き破り、全て竜に命中する。

 眼球、喉、心臓、腹部――竜の急所をこれでもかというくらいに、光の矢が蹂躙した。


 グオオオオオオッ――!

 竜が惨痛の咆哮を上げる。


「――――」


 その威容を前にして、改めてクリスの強さに驚嘆する。

 先日、彼女自身からその能力の一端を聞いていた。


『運命視の魔眼』――それは、森羅万象の摂理を曲げて、未来を決定づけるという特級の魔眼である。

 クリスの魔眼の力によって『矢は当たったもの』としての因果を成立させれば、この通り、どのような防御も回避も無意味と成り果てる。


 ……もっとも、彼女曰く、魔眼の力とて万能ではないそうだ。

 起こりえる未来が強固であればあるほど、それを曲げることは難しくなるし、そもそも近い未来でしか影響を及ぼせないらしい。


 とはいえ――これほどの攻撃を受け、立っていられるモンスターなどどこにいよう。

 たとえ古のドラゴンであっても例外はなく、魔眼の力によって威力を底上げされた光の矢は、(あやま)たず竜を屠る――はずだった。


 グルルルゥ――!


 だが――それでも竜は倒れなかった。

 魔眼の力によって死の運命が付与された攻撃を受けても、あのドラゴンは健在だった。

 凄まじいまでの生命力である――その強堅さは、この地上に現存するどのような魔物ですら上回ることだろう。まさに古代の竜に相応しい貫禄だった。


「く―――」

 すぐに追撃するべく、クリスが二射目を番えようとしたとき――


 それよりも迅速に、竜の口から灼熱の炎が解き放たれた。

 煮え滾るマグマのような炎は、生命の存在を一切許さず焼き尽くすであろう。


「――うあああああっ!」

 ヴィノたちの悲鳴。

 避けようもない死が、目前にまで迫り来る。


「みんな、下がって!」

 わたしは一歩前に踏み出し、尻尾を展開させた。


 わたあめガード――肥大化したモフモフ尻尾は、わたしたち六人をぐるりと取り巻くと、ドーム状に形作り、わたしたちを守るべく包み込む。

 竜のブレスが尻尾を覆い尽くすも、ファンシーな見た目の絶対防御に阻まれ、わたしたちには届かない。


「大丈夫――わたしの尻尾なら、どんな攻撃でも防ぎきれる!」

 安心させるようにみんなに言った。

 ……尻尾ごしに炎が縮小していくのが分かる。

 すぐさまブレスは収まるであろう。その時を待って、クリスが反撃に転じれば――


 それが甘い判断であったことを、わたしはすぐさま後悔することになる。


 不意にわたしの目の前に、小さな光が発現した。

「え――なに、これ……?」

 他の全員も、突如出現したソレを見つめている。

 尻尾で包まれた円蓋の中で、虚空に出現した異質。

 ホタルのように、おぼろげな青白い輝きは――


 ギンッ――!

 すぐさま凶悪的なまでに膨れ上がり、魔法陣を作り上げる。


(攻撃魔法――!?)


 ――光から殺意の気配が生まれ出る。

 それは――まぎれもなくあのドラゴンの攻撃魔法だった。

 あのドラゴンは、指定した座標に遠隔操作で魔法を発動させることができたのである。


 ――カッ!


(爆発する――!)

 気配だけで攻撃の種類が判別できた。


 けれど判別するだけで限界だ。ドーム状に組み上げた尻尾を解いて新たに防ぐなんてできないし、こんな至近距離の爆風から逃げるなんてどんな人間にすら不可能だ。


 ……気付いた時にはすべてが遅かった。

 魔法陣から生まれ出た爆炎が、尻尾ドームの内側から、わたしたちを丸焼きせんと襲い掛かったのである。


「―――っ!」

 ドゴォオオオオオン!


 爆発的な炎が収まる。

 だけど――わたしは無事だった。


「………………?」

 瞼を開ける。

 見れば、シルフィも、アニータも、ヴィノもヨハンも無傷である。


 ただ一人だけ――

 クリスだけが、重傷を負ったまま立ち尽くしていた。


「―――っ、クリス!」

 尻尾を解いて矢庭に駆け寄る。

 うっ、とわたしは呻いた。

 クリスの両腕は、肘から先が炭のように黒く爛れていたのである。


 はぁ、あ――

 黒衣の少女が息を吐いた。

 ふらりと背後に倒れ込もうとしたところを、わたしは咄嗟に抱きかかえる。


「クリス! クリスっ! しっかりしてっ!」

 動揺を抑え、クリスに必死で呼びかける。

 少女は虚ろな目をしたまま。


「魔力で、爆発を抑え込んだの――テイル……無事、だった?」

「――っ、馬鹿ッ!」

 クリスは、こんなときでもわたしのことを心配していた。

 わたしを――いえ、わたしたちを守るために、こんな無茶をして――


 いいえ、本当の馬鹿はわたしだ!

 自分の尻尾を過信しすぎた。

 この力は万能でも何でもないというのに――


「シルフィ――クリスを回復して!」

「はいっ!」

 シルフィはポシェットからポーションを取り出した。


「クリスさん、我慢してください」

 それを重傷の両腕に馴染ませる。

「――――っ!」

 激痛に顔を歪ませるクリス。

 更にシルフィは、舌を使ってクリスの両腕を治療し始めた。


 ――『エリクシールの聖女』である彼女の唾液は、特効の回復薬も同然である。おそらく、時間をかければ傷は跡形もなく完治できるだろう。


 けれど――それでも傷が深すぎる。

 あの状態ではクリスは弓を握ることができないし、戦線に復帰できるまで回復するのにどれほどの時間がかかるか――

 シルフィにクリスを任せ、わたしはドラゴンに視線を戻した。


 グルォオオオオオウ!

 異形たる竜が咆え――虚空に第二、第三と次々に魔法陣が浮かび上がる。

 豪炎が、雷撃が、氷河が――豪雨のごとき勢いで、わたしたちに来襲した。


「させないっ!」

 わたしは尻尾を盾にして、みんなを庇った。


 尻尾を広く展開させることはできない。わたあめガードで守ろうと、防御の内側から魔法を発動させられれば、防ぐこともできない。

 わたしにできることは、敵の攻撃を見極めて、後の先を追う形で防御するしかない。

 飛来する魔法に尻尾を叩きつけ、できるだけ威力を霧散させようとする。


「く――このっ!」


 間断なく降り注ぐ波状攻撃――

 それらを相手に、綱渡りめいた防御を繰り返す。


 そもそも、ドラゴンの魔法攻撃は人間の動体視力で捕えきれるものではない。

 その攻撃魔法がどのような種類なのか、どこを狙っているのかを、殆ど直感だけで読み取って、辛うじて防御に成功しているだけだった。

 それは例えるなら、ガトリングの砲弾を金属バットで打ち返すに等しい所業である。


 バアアアアア――!

 バリバリバリッ!

 ドガガガガッ!


 実に多彩な攻撃魔法が、絨毯爆撃もかくやと繰り広げられる。

 竜の魔法は、そのどれもが必殺の威力を有していた。

 なんとか尻尾で弾いているが、完全に威力は殺し切れず、その余波で周囲に凄まじい破壊を振りまいている。


「ひ、ひぃ――」

 ヨハンが怯えてしゃがみ込んでいる。

 当然だろう、これほどの苛烈な攻撃に晒されて、平然としていられる人間がどこにいよう。


「きゃあ!」

 アニータが悲鳴を上げて倒れ込んだ。

 同じ魔法の使い手であっても、彼女程度の魔力があのドラゴンにどこまで通用するか。

 それは巨象に挑むアリも同然だった。


「ち、畜生っ――畜生っ――畜生――ッ!」

 限りなく濃厚な死の気配に、ヴィノがひたすら罵倒を繰り返している。

 立ち上がって逃げ出そうにも、腰が抜けて動けないようだった。

 せめて罵倒することで恐怖から目を背けているだけなのだ。


「あ――ああ……っ!」

 わたしは悔しさに呻いた。


 パーティは、刻一刻と全滅へと近づいていく。


 シルフィがクリスを回復させるのにまだまだ時間がかかる。

 ヴィノたちじゃ、あのドラゴンを倒す手段なんて望むべくもない。


 ……もっとも、それはわたし自身も同じだ。

 防御するだけで手一杯で、反撃なんて不可能だった。

 その防御にしても、完全に威力は抑えきれず、わたしはすでに満身創痍だ。


「はぁ……はぁっ……はあ」

 わたしは荒い呼吸を繰り返していた。


 ――上着は破れ、ビキニアーマーが露になる。

 この『モリバドの水着』の防御加護のお蔭で、辛うじて致命傷にならずにいた。

 見た目はともかく防具としての性能は一級品のため、至近距離で破壊の余波を受けても未だに立ち続けることができている。


 けれど――それでも限界がある。

 これだけの人数をわたし一人で守り通すのには無理があった。

 体力は奪われ、ダメージは蓄積されていく。

 いずれ遠からず、尻尾で防ぐことすらできなくなるだろう。

 あの魔法の直撃を受ければ、たとえ防具の加護があろうと、即死は免れない。

 わたしがここで倒れたら――ここにいる全員、あのドラゴンに殺されてしまう!


「ぐ―――」

 歯を食いしばり、倒れそうになる身体を必死で支える。

 守らなきゃいけない範囲が広すぎる。せめて、この半分の人数だけだったら――


 ――どくん、と。


 そう考えたとき、ぞっとするほど、心臓が高鳴った。

 心の内で、悪魔が囁く。


 もしも仮に、ここでヴィノたちを見捨てたら――

 シルフィとクリスの二人だけなら、自分一人で確実に守り切れる。

 クリスの回復さえ終われば、この窮地を切り抜けられのだ。


 戦術としてはそれが正しい。

 どのみち、このままでは全員死ぬ。

 けれど、三人を切り捨てれば――


 どうせ、彼らは今日出会ったばかりの人間たちでしかない。命を懸けてでも守らなければならない理由はないはずだ。死なれたところで、わたしには関係ないのではないか。

 だから――


(だから何だって言うの――ばか!)


 少しでも弱気になってしまった自分を激しく叱咤する。

 そんな選択肢なんて、死んでも選ぶもんか!


 ――バチィッ!

 わたしは正面から迫り来る雷撃を尻尾で弾き飛ばした。

 けれど――そのおかげで、後方から迫り来る爆炎に対し、すっかり反応が遅れてしまう。


「う――ああああああっ!」

 ヴィノが絶叫する。

 もはや爆炎は彼の目前まで迫っていた。


 ――ダッ!

 わたしは駆けた。


 考えている暇はない。

 残った体力を全て使い切る覚悟で駆け、必死に尻尾を振りかぶる。


「――間に合えっ!」


 見捨てない――死なせない!

 彼は、わたしの仲間なのだから!


「間に合えええええええっ!」


 それは、刹那の奇跡だった。

 紙一重で尻尾は爆炎を打ち払い、死の魔手から少年を守り切った。

 けれど――


「――あうっ!」

 無理な体制で庇ったおかげで、わたしはまともに爆風を被ってしまった。


 吹き飛ばされ、地面に倒れ伏す。

 防具の性能によって致命傷は避けられたものの、受けたダメージは甚大だった。

 ――五体満足なことが、奇跡なくらいである。


「がはっ――」

 吐血する。

 内臓が損傷しているのかもしれない。

 身じろぎするだけでも酷い激痛が走った。


「なんでだよ……」

 いつの間にか、近くにはヴィノがいた。

 彼は信じられないような目でこちらを見ている。


「俺たちを見捨てたら、アンタだけでも助かるだろうに! なんでそこまでして俺たちを守ろうとするんだよ!」


 なんで――?

 そんなもの、答えは一つしかないじゃないか。

 わたしは深く息を付き、立ち上がった。

 少年に背を向けて、魔竜と真っ向から対峙する。


「冒険者でもない、余所者であるお前が、どうして――お前は、俺らの一体何なんだよっ!」


 背中からヴィノの怒り声が聞こえる。

 だから――そんな分かりきったこと訊かないでよ……。


「確かにわたしは余所者だし、あなたたちのことはよく知らない――けれど!」

 きっ、と正面を見据える。

 ただ一つだけ、決して譲れない決意があった。


「それでも――わたしは、あなたたちのリーダーなんだからっ!」


 ドラゴンが鎌首を上げる。

 それは、再度のブレス攻撃の予兆だった。

 対してこちらはボロボロで、防ぐことも難しい。

 それでも――


「守ってみせる、絶対に!」

 わたしは大地を駆けた。


 ――迫り来る炎。

 すべてを灰燼にせんと、津波のごとく押し寄せる。

 わたしは紅蓮の業火を押し止めんと手を伸ばした。


「テイルっ!」

 シルフィが絶望に叫ぶ。


 あっさりと――

 尻尾で防ぐことも叶わず、あっさりとブレスがわたしの姿を覆い隠す。


 轟々と燃える火炎――

 鋼鉄すら熔解する温度を浴びれば、人間なんて骨すら残らないだろう。


(熱い――)


 いや、この炎が熱いんじゃない。

 身体の内が、燃えるように熱いのだ。

 魂が震える――

 まさしくそうとしか言えない感覚が体内を巡っていく。

 血潮は灼熱となりて、遍く全神経を迸る。


 何も聞こえない――

 シルフィの悲鳴も、身を焼き尽くす炎の爆ぜる音も、もう何も聞こえない。

 周囲の光景がスローモーションのように緩慢だった。


 その時――誰かの声が囁いた。

 温かく、鈴が鳴るような少女の声――それが誰のものかは分からない。

 声が言っている。

 ――大丈夫、と。

 この程度の炎など、恐れるべくもないと言っている。


(……そうだ)

 わたしは即座に理解した。

 この身にとって炎とは、誰よりも近しい存在だったはず。

 だから――


「え………」

 仲間たちの息を飲む声。

 ――炎が揺れる。

 わたしを焼き尽くすはずだった竜の火炎が、潮が引くように後退していく。


「炎が――テイルに従って――」

 シルフィの呆然とした声。

 そこに、アニータが否定するように声を重ねた。

「違う……あの子を中心として――別の炎が巻き起こっている」


 ――そうだ。

 世界に命じるだけでいい。

 それは難しいことじゃない。

 もとよりこの身は――


 かつて(・・・)そのような(・・・・・)存在だった(・・・・・)のだから(・・・・)――


 カッ――

 わたしを中心として、炎が生まれ出る。

 さながら伝説の不死鳥が、火の中から産声を上げるよう。


 それは、煌めくような炎だった。

 意志を持つかのように、わたしの周囲で大火が渦を巻く。

 ひたすら暴力的なだけの竜の火炎とは違い、生まれ出た炎は、目を奪われるほど美しい。


 妖艶で鮮やか――その炎は、ただひたすら(みやび)だった。


 この炎は、冥府に咲き誇る彼岸花――

 死者へと手向けられる鎮魂の送り火――

 古来より日本に伝わりし、黄泉への誘いの炎だった。


 ――『狐火』。

 妖狐と呼ばれる存在が生み出せる、この世ならざる炎。

 虚空に生まれ出た紅蓮は、可憐なる蝶を思わせる動きで、わたしの周囲を舞い続ける。


 ――グルォオオオオオオオウ!


 竜が怖れをなしたかのように雄叫を上げた。

 得体の知れぬ力を目の前にして、寄せ付けぬように無数の魔法陣を展開させる。

 虚空に出現した攻撃型魔法陣は、一斉にわたしを標的としていた。

 今は失われし古代の神秘によって編まれた魔法陣。加えて、太古に栄えた竜の魔力。その二つを兼ね備えた攻撃魔法は、一つ一つが無上の破壊力を有している。


 ドドドドドドド――――ッ!


 破壊の魔力が一斉に解き放たれた。

 傲然と迫り来るそれらは、いかなる防御もズタボロに蹂躙するであろう。

 けれど――そんなものは、今のわたしには怖れるまでもない!


「――炎よ!」

 わたしの指先に従い、炎が疾駆する。


 怒涛と迫り来る魔法に対し、真っ向から撃ち合った。

 勢いでいえば互角である互いの攻撃は――あっさりと決着が付く。

 妖美なる狐火が、破壊の魔術を飲み込み、その威力を跡形もなく消失させた。

 文字通り――魔術を『消した』と言っていい。


 それだけでは収まらず、周囲の魔法陣に目掛けて大気を疾走する。

 輝ける煉獄の炎となって、疾く燃え盛り、古代の神秘を焼き尽くす。

 燃える――燃える――燃える――!


 竜の魔力によって編まれた魔法陣は、炎に包まれるや否や悉く崩れ去り、霞のごとく消え失せていく。


「うそ――あの炎、魔力そのものを焼き尽くしている!?」

 アニータが絶句する。

 やがて、竜の古代魔法は全て狐火によって消滅した。


「――いけっ!」

 わたしは号令を下す。

 妖の炎は、四方から飛び掛かるように魔竜に向かって強襲した。


 ――グオオオオオォ――ッ!


 古代竜が防御魔法を発動させる。

 わたしの尻尾をもってしてもビクともしなかった、あの防壁だ。

 だが、それは――


 黄泉の業炎を前にして、防御魔法が持ち堪えたのは一瞬だけだった。

 大海のごとく膨大な魔力で作られた竜の防壁を、飴細工のように炎が溶かしていく。


 グアアアアアアアアッ――!

 竜が苦悶に絶叫した。


 だが、まだ倒れない。

 炎に焼かれても、なおあの竜は生きていた。

 ならば――


「これで――終わりよ」


 剣を携え、大地を駆ける。

 タン、タン、タン――

 一足ごとに、仙術のごとき動きで移動する。

 身体が軽い――その勢いのまま飛び跳ねると、ふわりと羽のように宙に舞った。


「――やあああああああっ!」

 剣が振るわれる。

 袈裟懸けに振り下ろされた斬撃は、鋼鉄の硬度を持つ竜の肉体を易々と切り裂いた。


 ズバアアアアアア!

 ――グルォオオオオオオオオオオオウ!

 最後に一度だけ竜が大きく咆哮し――ズン、と大きく地響きを上げて倒れ伏した。


「―――はぁ――あ」

 古代竜の息の根を止めた手ごたえを確かに感じ取り、わたしは大きく息を吐く。


 ――今のわたしにはもう限界だった。

 ただ、今はひたすら眠い。

 ふらり、と――

 自分がしでかしたことも判然としないまま、わたしは地面に倒れ伏す。


 ……思考が闇に沈む。

 そのまま――わたしは、深い眠りに落ちていった。



        *



◆インタールード:シルフィ・ラドグリフ◆


「テイルっ――!」

 突然倒れた彼女を見て、私は血相を変える。

 ここまでくれば、クリスさんの回復は殆ど終わっていた。


 テイルの傍に駆け寄り、無事を確かめる。

 耳を寄せると、静かに呼吸を繰り返す音が聞こえた。

「よかった……生きてます」


 ほっとして、私は安堵の声を出す。

 無事を確かめるように、私はしっかりとテイルの身体を抱き留める。


「な、なんだったんだよ……今の……」

 ヴィノさんが、恐る恐ると近づいていく。

 その視線は、意識のないテイルと――そしてもう動くこともないエンシェントドラゴンへと視線を移す。

 他の全員も、遠巻きに竜の亡骸を眺めていた。


 地面に倒れ伏した古代竜――それは間違いなく、テイルが倒したのだ。

 その不可解さに戸惑う気持ちは、私も同じだった。


 シュウウウン――!

 そのとき、奥に『穴』が出現した。

 虚空に出現した『穴』は二つ。

 白い『穴』と、黒い『穴』――地上に帰還する『脱出の穴』と、次のフロアに進める『穴』の二つだった。


「や、やった……お、俺たち、生きて……生きて帰れるんだ……!」

 ヨハンさんが、喜びに打ち震えるように声を出した。


「ここで帰還しましょう……みんな傷だらけじゃない」

 アニータさんが提案する。

 それに反対する者は一人もいなかった。


「――――」

 私は、先ほどのテイルの姿を思い返す。

 目を奪われるほど美しい炎を操っていた少女――

 けど、何よりも解せないのは――


「見間違い……なのかな……」

 誰に聞かせるわけでもなく、私はぽつりと呟いた。

 一瞬、ただの一瞬だけ――


 テイルの尻尾が――二本に増えた(・・・・・・)ような気がしたのだった。

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