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異世界転生したらエロ可愛い狐娘になって最強タンクです  作者: 白黒一
第二章. 迷宮都市ダルカナ編
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第二十四話. 『常闇の洞穴』二階~五階

 探索は順調そのものだった。


 ゴブリンの襲撃のあと、闇の洞窟の中を道なりに進む。

 途中、何度か迷宮のモンスターとの小競り合いがあったけれど、大きな問題もなくこれを突破している。


 そうして――昏い洞窟の中で、それを見つけることができた。


「これね……『穴』っていうのは」

 わたしはカンテラの光を照らして、虚空に浮かぶ一点を見つめる。


 光を用いてもなお薄暗い闇の只中で、次元の歪みともいえるような、一際濃厚な闇が発生していたのだ。

 まさに――『穴』としかたとえようのない、ぽっかりとした異質な空間である。


「そうよ。リーダー、それに触れて。そうすれば、ここにいる全員、次のフロアに移動できるわ――あ、でも一応戦闘の準備だけはしておいて。移動した先で、モンスターと鉢合わせをするケースもあるから」


 アニータがそのように助言する。


 わたしは、みんなの準備が整ったのを見計らって、空中に浮かぶ闇へと手を伸ばした。

 触れると――視界が歪んだ。

 この洞窟に初めて足を踏み入れた時と同様、周囲の景色が一瞬にて別のものへと遷り変わる。


 またしても、同じような岩窟が広がっていた。

 けれど、空間の構造からして、さっきとは全く別の場所だった。違う位置へとワープしてきたという感じだ。


「なるほど……」

 おそらく、ここが『常闇の洞穴』の二階なのだ。

 次元迷宮はこうやって進んでいくのだと体感し、わたしは再びパーティの先導を開始したのである。



        *



 ――行き止まりだった。

 先ほどの分かれ道で、勘任せに進んだ結果である。

 その代わり、洞窟の突き当りには宝箱があった。


「ここは俺の出番だな。トラップの解除は任せとけ」

 そう言ってヴィノが進み出て、宝箱の前にしゃがみ込む。


 図書館の資料で予習していたからこそ知っているけれど――次元迷宮の宝箱は、かなりの確率でトラップが仕掛けられているという。

 トラップの種類も多岐にわたり、中には爆発(エクスプロード)や毒ガスといったシャレにならない仕掛けも含まれているそうだ。

 だからこそ、迷宮探索ではヴィノのような、トラップの解除に優れた人間を一人は連れていくのが常だと言われている。


 針金っぽいピッキングツールでカチャカチャとやっていたヴィノであったが、やがてカチリと音がすると、満足そうに頷いた。


「ビンゴ。開いたぜ」

 宝箱が開帳される。


 のぞき込めば、古びた宝箱の中にはアイテムが複数収納されていた。

 薬草っぽいものが数枚と、謎の石が何個か無造作に放り込まれている。

 ハッキリ言って、わたしにはそれらがどんなアイテムなのか、皆目見当もつかなかった。


「これ――なんなの? なんかガラクタっぽいけれど」

「持ち帰って鑑定してもらわないと、アイテムの中身は分からないわ。私、鑑定魔法は使えないもの。シルフィ、あなたはできる?」

 アニータが話を振ると、シルフィは頷いた。


「はい、使えます」

「いいわね。さすがは神官」

「その……Eランクですけど」

 しゅんと落ち込むシルフィ。

 アニータは仕方ないとばかりに嘆息を付いた。

「Eランクか……まあ、ないよりマシでしょうね。シルフィ、ここはあなたにお願いするわ」


 一方で、話に置いてけぼりされたわたしは、シルフィに尋ねた。

「ねえ、その鑑定魔法ってなんなの?」


 シルフィは丁寧に教えてくれる。


「その武器防具やアイテムがなんなのか、どういった効果を持つのかを読み取る魔法ですよ。ランクが高ければ高いほど、魔法で封印されたアイテムの鑑定や、より詳細な効果を読み取ることもできます。さらにもっと上位には、他者の能力や弱点などを読み取ったりすることもできる『神の眼』と呼ばれるものもあるとか――」


 そうして、講義を終えたシルフィは、宝箱に入っていたアイテムを矯めつ眇めつ眺め始めた。

 しばらくした後――


「わ……すごい。これ、パルナの薬草ですよ!」

 いささか興奮した様子で、シルフィの弾んだ声が聞こえた。


「すごいの、それ?」

「王都の薬屋でも、高値で取引されるくらいの稀少な薬草です。こんなアイテムが出るなんて――さすがは次元迷宮です!」


「へえ……けど不思議ね。どうしてそんなアイテムが、ご丁寧にもこんな宝箱に入っていて、洞窟に安置されているの?」


 そう――まさしくそれが謎だった。

 次元迷宮には宝箱があり、冒険者たちは宝箱からアイテムを回収することができる。

 しかも、次元迷宮に入るごとに宝箱は復活し、様々なアイテムを手に入れることができるとか。

 けれど、一体誰が、何のために宝箱を用意しているのか――

 そればっかりは、図書館のどの資料にも書いていなかったのだ。


「さあな……わかんねえよ。今までいろんな奴がそれを調査してきたけどよ、結局何も判明しなかったみたいだしな。ま――俺みたいな人間にとっちゃ、そんなことはどうでもいいさ。重要なのは、それが『なぜ、どうして』よりも、『金になるか、ならないか』だけだからな」


 ヴィノがいかにもニヒルに嘯いてみせる。

 いや、言い換えれば、現実的なのかもしれない。


 冒険者だからといって、誰もがロマンを求めるわけじゃない。そんなものよりも、目の前のパンを買う金銭の方が重要なこともある。そしてそれが往々にして大事なことも、わたしだって理解できた。


 その時である。

「あ――あ、その……」

 今まで後ろの方で黙っていたヨハンが、突然声を出した。

 わたしは振り返って大柄な少年に向き直る。


「ヨハン、どうしたの?」

 わたしが見上げるように尋ねると、彼はたどたどしく口を開いた。


「そ、その……オイラ、聞いたことがある……。迷宮に、宝箱が置いてあるのは……神様がやっていることだって」

「神様?」

 注目されたことで緊張したのか、どもりつつも、ヨハンは一生懸命説明を続ける。


「そ、そう……次元迷宮は……とても恐ろしい場所だから……そ、そんな場所に挑もうとする勇気ある者のために……か、神様がご褒美として置いているとか……」

 最後の方は、消え入るような声だった。


「オイオイ、ヨハンちゃんよぉ、そんなおとぎ話を信じてやがんのかぁ?」

「う……わかんねぇ……。オイラも、聞いた話だから……」

 ヴィノの意地悪な口調に、ヨハンは委縮して俯いた。

 自信なさげな口調から、ヨハン自身も本気で信じているわけじゃなさそうだ。


「神様……」

 けれど、わたし自身は妙に納得していた。

 だって――あまりにも出来過ぎているのだ。


 そもそも、次元迷宮に巣くうモンスターたちだってそうだ。

 これも資料で知った話だけど――次元迷宮の魔物は、倒しても倒しても、どこからか湧き出て来るらしい。

 理屈は不明、どこから出現するのかも謎に包まれている。


 だからこそ、冒険者たちがいくらモンスターを倒そうと、次元迷宮からは決してモンスターはいなくならない。常に一定の個体数を保ったまま、迷宮内を徘徊している。


 加えて、個々が怖ろしい能力を持ったモンスターたちであるが――なぜだか次元迷宮の外に出ようとはしない。

 捕獲して地上に連れ帰った例もあったらしいけれど、不思議と数時間で衰弱死してしまったそうだ。


 さらに、次元迷宮の魔物は殆どといっていい程、人間に敵意を持っている。

 理性はなく、まるで何者かの意志に操られているような謎の集団性があり、地上の生物とは全く異なる規則性を持って行動している。

 通常の生物とは違うのではないか、という学者の意見もあるそうだ。次元迷宮のモンスターたちは人肉を喰らうけれど、身体の構造的に食事を必要としないらしい。


 ……知れば知るほど謎が深まるばかりである。

 自然に進化したというよりも――まるで、最初から、侵入者である人間を襲う目的で作り出されたような――


 まだ迷宮に入ってそれほど時間が経っていないけれど、早くもわたしは不気味な感覚を抱いていた。

 この次元迷宮自体が――何者かの意志を持っているような気がしてならないのだった。



        *



 さて、そんな内心とは裏腹に、迷宮の攻略は拍子抜けするほど好調だった。


「おい、リーダー。そっから十歩先、トラップがあるぜ。それもヤバいやつが」

 ヴィノの声に、わたしは立ち止まって前方を注視する。


 わたしの聴覚を使えば、モンスターの接近は確実に判る。

 けれど、トラップの有無に関しては、ヴィノの力に頼らざるを得なかった。

 どうやってトラップを見分けられるのかについて尋ねても、「カンで判る」としか答えてくれなかったのである。


「リーダー、準備はいいか?」

 バンダナの少年に尋ねられて、わたしはコクンと頷く。

「うん、いつでもいいわ」

 その声に対し、ヴィノは腰からスリングショットを取り出した。


 前方に構え、その辺にあった小石を撃ちだす。

 ゴムの力で撃ちだされた小石は、わたしの横を通り過ぎ、都合わたしから十歩前方の地面に当たると――


 ドゴォオン!

 爆発型のトラップを起動させたのだった。

 無論、このままでは爆風でわたしたちも巻き込まれかねない。

 けれど、そのためにわたしがいる。


「わたあめガード!」

 モフモフの尻尾を肥大化させ、即席のシェルターとして後続のみんなを爆風から守った。


 ……尻尾ごしに爆風が収まる気配を感じ取り、しばらくして尻尾を縮小させる。

 あとには爆発の残滓が煙となって、宙に漂うばかりであった。


「しっかし……便利だな、その尻尾」

「うん、パーティの防御はわたしに任せて!」


 ――迷宮の探索を始めてからどれほど時間が経ったか。

 わたしは、もはやすっかりリーダー兼、(タンク)役として板についていたのである。


 客観的に見ても、このパーティは非常に相性が良かったと思う。


 わたしはモンスター探知役とタンクとしてパーティを守り。

 ヴィノはトラップの探知と解除を担当して。

 クリスは聖弓による遠隔アタッカーとして、モンスターを悉く瞬殺していたし。

 シルフィは白魔法によるパーティの補助と、アイテムの鑑定で役立ってくれた。

 アニータは黒魔法を使った制圧能力で、クリスに負けないくらいパーティに貢献してくれている。


 そして最後尾のヨハンはというと――


「み、みんな、敵襲――だ!」

 後方でヨハンが叫び、わたしたちは一斉に振り返った。


 見れば、一匹の巨大な牛頭の魔物が、殆ど無音で闇の中より現れたのである。

 ミノタウロスが、手に持った斧を振りかぶって襲い掛かってくる。


 ――完全なる背後からの奇襲(バックアタック)だ。


 縦長に並んだパーティの前列にいるわたしやヴィノは、とっさに後列での戦闘に参加することはできない。

 けれど――その必要はなかった。


 ヨハンは、普段の気の弱さなんて微塵も感じないほど果敢に前に出て、手にした槍斧(ハルバード)でミノタウロスの巨体を押し止めている。


 そして――その隙を見逃すクリスではない。


 ――ズバンッ!

 聖弓の一射が、ミノタウロスの脳天を正確無比に貫いた。

 ずしん、と大きな音を立てて、ミノタウロスの巨体が倒れ込む。


 ――ヨハンは一つのこととなると、集中して力を発揮するタイプだった。

 なので、わたしはヨハンに背後の事だけに注意するように指示を出して、パーティの後衛を任せている。

 彼に背中を任せているおかげで、わたしたちは存分に前方のことだけに傾注できた。


 ――とまあ、こんな具合に、理想的なまでに個々の長所がかみ合っていたのである。


「ありがとう、ヨハン」

 わたしはパーティの最後尾にいるヨハンに声をかけた。

 ヨハンは、わたしの声に照れたように振り返り――


「リ、リーダー! う、後ろ――!」

 わたしの背後を指さして驚きの声を上げる。


 わたしの背面に、もう一匹のミノタウロスが忍び寄っていた。

 一匹倒されて油断しているところを、襲おうとしたのだろう。

 

 背後からの奇襲(バックアタック)と見せかけて、挟み撃ち(サイドアタック)だったのだ。


 当然――わたしは気付いていた。

 振り返りざまにバスタードソードを抜き放ち、ミノタウロスが振り下ろした戦斧を受け止める。


 普通の剣ならば折れてしまうところであるが、あいにくとわたしが買ったこの剣は、切れ味をポイして頑丈さにパラメータを全振りしたような剣である。

 ミノタウロスの攻撃を正面から防いでも、ビクともしなかった。

 武器としてだけでなく、盾としても利用できる剣――絶対に折れない剣だからこそ、できる芸当だった。


「――ええいっ!」

 そのまま力任せに私は押し返した。

 たたらを踏んで後退するミノタウロス。

 ビュッ――ズバッ!

 そこに、クリスの放った光の矢が、ミノタウロスの心臓を貫いたのだった。

 生きている魔物の気配がなくなり、ようやく戦闘が終了する。


「はぁ……ヒヤヒヤしたぜ」

 ヴィノが額を拭うように頭を掻いた。

 そこに、わたしが注意する。


「気を抜いちゃ駄目よ。敵を倒したと思ったところが一番危ないんだから」

 すると、ヴィノが何故だか驚いた目でわたしを見ている。


「……意外と冷静なんだな、アンタ」

「そうかな?」

 わたしはきょとんとして問い返す。

「ああ……パーティの指示も的確だし。言いたかないけどよ、俺よりも年下なのに、妙に大人びているっていうか――」


 ヴィノの意見に、わたしは内心で納得した。


 まあ――これでも一度は異世界転生している身なのだ。

 未だに記憶を取り戻していないため、生前のわたしが何歳だったのかは思い出せない。

 けれど、もしかしたらいい年した大人だったのかもしれないし、そうだとしたら、肉体の年齢以上に精神が成熟していても不思議じゃなかった。


 そう考えてみれば――このパーティの中では、実はわたしこそ一番年長である可能性があるのだ。

 だとしたら――意外にも、わたしこそがリーダーとして適任じゃないのだろうか。そう考えると、油断はいけないとは思いつつも、妙に自信が湧いてくる。


 ヴィノはからかうように言葉を続けた。


「さっきもミノタウロスの攻撃を跳ね返していたし、同じ人間とは思えねぇよ……。まったく、キツネなのかゴリラなのか分かんねぇ馬鹿力だな」

「ゴリラとは失礼ね。女の子に向かって」


 ――いや、むしろこの世界にゴリラがいたのか。

 まあ、類人猿型のモンスターはいるのかもしれないけれど……。


「それを言ったら、クリスの方が、わたしよりも力が強いわよ。前にベッドで押し倒されたとき、全然振り解けなかったし」

「は? ベッドで押し倒された? 女同士で? そこんとこ、詳しく」

「……ごめん、今の失言。忘れてほしい」


 セフィラの盾の宿舎で、クリスに夜這いされかけたことは人様に話せるものではない。

 そこにクリスが口を挟む。


「私の場合、魔力で身体能力を強化しているから――けどテイルは、魔力を使わずに純粋に力が強いんだと思う。胸以外は私より華奢なのに、不思議」

「ちょ――みんなの前で何言っているの! このスットコ聖騎士!」


 というか、なんでそんなことまで知っているのか!

 わたしは真っ赤になりつつ、クリスに向かって、がぁーっと喚いた。


「う――」

「ヨハンちゃんよぉ、鼻血出てんじゃねーかぁ! なんだぁ? 何を想像したんだぁ? ムッツリだなぁ、オイ!」

「だーっ! そこの男性二人! 今すぐ忘れて! さもなければ後で地上に戻ったときに殴って記憶を喪失させるから!」

「オイオイオイ! とんでもないリーダーだなぁ!」


 ヴィノは肩を竦めつつ、『┐(´∀`)┌ヤレヤレ』といったポーズをしている。

 アニータやシルフィもクスクスと笑っている。


 ――などと、軽口を叩きあいつつ、進軍する。


 行軍中の場合、必要以上の無駄口は控えるべきなんだろうけど、和気あいあいとした空気に水を差したくはなかった。

 せっかくパーティがいい感じで一つに纏まっているのだ。

 だからこそ、わたしもこうした軽口を止めることなく、あえて弄られ役のままでいる。


 そうして、時折休憩を挟みつつ、迷宮の攻略は進んだ。


(一つのフロアを攻略するのに、体感だけど一時間かかっている……おそらく、この洞窟に入ってから、四時間くらい経ったかな……)


 四つ目の『穴』を潜り、五階へと到達する。

 ワープした先は、開けた空間だった。

 洞窟の中にありながら、まるで円形闘技場(コロシアム)のような広大な場所に、わたしたちは出現する。


 もっとも――これに関しては私もさほど驚きはしなかった。


 図書館の資料で知っていたのである。

 次元迷宮では、五階進むごとに強力なモンスターとの戦いを強制される。


 いうなれば、ボスモンスターとの戦うフロアがあるのだ。

 ボスモンスターを倒せば、次のフロアに移動できる『穴』と、地上へと帰還できる『脱出の穴』が出現するらしい。

 なぜ――というより、次元迷宮はそういう仕組みなのだ。


(けど……本当にまるで、ゲームみたいね……)


 一体誰がこのような空間を作ったのだろう。

 こんな場所が自然にできたとは考えにくい。

 先ほどのヨハンの、神様の仕業という言葉すら現実味を帯びてくる。


 ともあれ――ようやくわたしたちは、『常闇の洞穴』五階――ボスモンスターのエリアに到達したのだ。


 眼前の空間には、黒く大きな『穴』が見える。

 あそこから、ボスモンスターが出現するらしい。どのようなモンスターが現れるかは、ランダムだそうだ。

 神経を張り詰めて剣を構えるわたしに、アニータが安心させるように言った。


「そんなに身構えなくても大丈夫よ。この階層ならば、そこまで強力なモンスターは出ない筈だから。せいぜいが、トロルとかそのあたり。ベテランの冒険者でなくても、数人がかりで戦えば、それほど苦も無く倒せる相手よ」


「アニータ、余計な事いうんじゃねえよ。口は禍の元って言葉知らねえのか?」

 バンダナの少年がぼやくように言った。


「――――」

 わたしはゴクリと唾を飲みこむ。

 緊張に手が汗ばんだ。

 ヴィノじゃないけれど、なにか嫌な予感がする。

 途方もない、何かが押し寄せてくるような――


 バチ、バチバチバチ――ッ!

 突然、『穴』から凄まじい闇のスパークが迸る。

 空間の歪みから、何か巨大な存在が這い出るように形作られる。


 ドクン――!

 突如として、心臓を鷲掴みされたような、プレッシャーが襲い掛かった。

 そしてそれは、どうやらわたしだけじゃないようだ。

 全員が、目を見開いて身動き取れないでいる。


 そうして――ようやくそのモンスターが出現する。


 洞窟の天井まで届く――巨大な存在。

 この洞窟の闇よりもなお怖ろしく、深淵なる黒色の体躯。

 神話の悪魔に等しい翼が大きく広がる。


 巨大な禍々しいドラゴンが、その威容を現したのだった。


「そ、そ――そんなっ!?」

 その姿に心当たりがあるのか、アニータが悲鳴を上げた。

 クリスやシルフィ、ヴィノやヨハンも、驚きに青ざめた表情をしている。


「――古代竜(エンシェントドラゴン)!? 嘘よっ! どうしてこんな低階層で、こんな伝説級のモンスターが現れるのっ!?」


 それは、まさに一言、こう呼ぶべき存在だった。

 ――『絶望』、と。


 わたしたちの思考をその二文字で黒く塗りつぶすように、伝説の竜は咆哮を上げたのだった。

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