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異世界転生したらエロ可愛い狐娘になって最強タンクです  作者: 白黒一
第二章. 迷宮都市ダルカナ編
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第二十三話. 『常闇の洞穴』一階

 自分たちを見舞った異変に、わたしはハッとなって周囲に視線を移す。


 いつの間にか、四方の景色は変化し、迷路のような洞窟の只中にいたのである。

 それまで洞窟の入り口にいたにも関わらず、まるで手品のように、周囲の光景が一瞬で入れ替わっていた。

 そう、まるで、異次元に突然足を踏み込んでしまったかのように――


(これが――次元迷宮――)

 事前に聞いてはいたけれど、まさに転移と言うしかない現象だった。


 ともあれ――これで後戻りはできなくなった。

 ここはもうすでに『常闇の洞穴』の一階なのだ。

 一度次元迷宮に足を踏み入れた場合、出口となる『脱出の穴』を見つけない限り、外に出ることは叶わない。


「さて、と――リーダー、隊列はどうするんだ?」

 ヴィノが挑戦的な口調でわたしに問いかけてきた。


 次元迷宮の探索に置いて、隊列とは重要な意味を持つ。

 そのことは、わたしも事前に調べていたことから知っていた。


 基本的に次元迷宮の中では、いつどのようにモンスターの襲撃を受けるか分からない。

 だから、常にパーティの被害を最小限に食い止める形で進軍することが大切となる。そのためにも、ベテランの冒険者や白兵戦に強い者を前衛に置くことは必須といえた。


 ――もっとも、これに関しては、わたしにも考えがある。


「わたしが先頭を進むから。みんなは、その後に付いてきてほしいの」

「オイオイ、本気かよ!?」

 ヴィノが呆れた物言いだ、とばかりに手を上げる。


 他の全員も、程度の差はあれ、似たような様子だった。

 何を突拍子もないことを――といわんばかりである。


 彼らがそのような表情を見せるのも無理はない。

 パーティの進軍において、一番手を務める者は最も危険であると同時に、一番責任のあるポジションだ。

 モンスターの襲撃やトラップの可能性に警戒し、異常や危険を察知すれば後続に知らせる必要がある。軍隊の歩兵でいうところの、ポイントマンとしての役割が求められるのだ。


 普通に考えても、パーティの中でも戦闘能力の高いクリスか、迷宮での探索に熟知したヴィノやヨハンを先頭に添えるべきと考えるのが常道だろう。

 そんな大任を、迷宮での経験もないわたしが引き受けるのは、あまりに無謀に見えるに違いなかった。


「テイル、大丈夫ですか……?」

 シルフィが気遣うように声をかけてくる。


 けれど、わたしだって無策で名乗り上げたわけではないのだ。

 おそらく――これに関しては、わたしが一番適任だと思っている。


「うん……ここはわたしに任せてほしい。わたしの後には、ヴィノとクリスが続いて。シルフィとアニータはそのすぐ後ろで、隠れるように付いてきてほしいの。最後尾はヨハンにお願いするけど――ヨハン、大丈夫?」


「あ、ああ、ま、任せてくれ……」

 ヨハンはどもりつつも応えた。


 隊列において、殿(しんがり)は先頭に次いで重要な役目だった。

 迷宮での探索では、モンスターの背後からの奇襲(バックアタック)にも気を付けなければならない。ヨハンのように、足は遅いけれど守ることに特化した戦い方をする重戦士には、うってつけだと考えている。


 わたしは次々とパーティメンバーに向かって指示を出した。


「ヴィノは、トラップの気配があったら教えてほしいんだけど……」

「ああ、いいぜ。リーダーが前に出過ぎさえしなければな」

 相変わらず皮肉屋めいた口調で、一応は頷いてくれた。


「クリスは、隊列の真ん中から、みんなを援護して。特に、モンスターに襲撃されたとき、白兵戦ができないシルフィやアニータを守ってほしいの」

「わかった……けど、テイルも気を付けて。テイルに何かあったら、嫌だから……」

「あはは……うん、ありがとう。気を付ける」

 わたしは頬を掻いて頷いた。


「アニータは、魔法でみんなをフォローして。どんな魔法を使うかは、あなたに全部任せるから」

「――分かったわ」

 お行儀よく従うアニータ。


 わたしは最後にシルフィに向き直った。

「シルフィ、みんなに防御魔法をおねがい」

「は、はい!」

 そうしてシルフィは小さく呪文を唱え始める。


『揺蕩う風の精霊、小さき我らに祝福を――防護(プロテクション)!』

 シルフィの呪文が発動し、わたしたちの全身に不可視の防壁が生成される。


「――うん。それじゃ、いきましょう」


 そうして、迷宮の探索が始まった。


 洞窟の中は広大で、どこまでも闇が続いている。

 カンテラのような明りがなければ、まさに無明の空間だ。


 それに、洞窟のこの壁――

 表面に含まれている黒い鉱石であるが、光を吸収する性質があるらしい。


 カンテラの光を照らしても、それが闇なのか洞窟の壁なのか、傍目に見分けが付きにくくなっている。

 人間の立体感覚を狂わせて、迷路としての難易度を何段階も向上させていた。

 一般人が何の準備もなくこの洞窟に迷い込めば、どれほど夜目に優れていたとしても、永遠に脱出することは不可能であろう。


(まさに――『常闇の洞穴』ね)

 わたしはパーティから数メートル先でそのように考えつつ、慎重に歩いていた。


 やがて、どれほど進んだことだろう。

 空気に微妙な異質が紛れ込んでいるのを、わたしは感じ取っていた。


「――止まって!」

 わたしは背後に向かって鋭く言った。


「テ、テイル?」

 シルフィがびくりと身を震わせて立ち止まった。

 他の全員も同様、パーティの行歩はぴったりと制止する。


「……ンだよ、どうしたんだ?」

 ヴィノが怪訝に眉をひそめて問い質す。


 わたしは正面に意識を集中させたまま、静かに回答した。


「……なにか、いる」

 じっと正面を睨みつける。


 わたしの声に、全員が不思議そうにしつつ、前方に視線を向けた。

 彼らはじっと目を凝らしているが、暗闇の奥には何も見えないようだ。


「私には何も見えないけれど――ヴィノ、あなたは何か見える?」

 アニータが前方を見つめながら訊いた。


「うんにゃ、何も見えねえよ……オイ、リーダー、適当なこと言ってんじゃねえだろうな」

 バンダナの少年が不機嫌な声を出す。


「いえ――」

 その時、クリスが静謐な闘気を声に潜ませた。


「確かに、何かが息をひそめている――それも、たくさん」

 クリスの手には、すでに聖弓が戦闘形態を成していた。

 聖騎士として、幾多の死線を超えたであろう彼女だからこそ、常人の感覚では汲み取れない気配を察したのだろう。


 わたしは手に持ったカンテラを、正面に向けた。

 キラッ、と何かが小さく光った気がする。


 次の瞬間――

 スコールもかくやという矢の嵐が襲い掛かってきた。


 突如として降りかかってきた脅威に対し、全員が身構える。

 狭い洞窟の中では逃げ場などなく、降りかかる矢の雨は、哀れな迷宮の侵入者たちを容赦なく串刺しにするであろう。


 けれど――そんなことはさせない。

 そのために、わたしが先頭にいたのだから。


「わたあめガード!」

 わたしは尻尾を前方に展開して、洞窟の道を隙間なく防いだ。


 もっ――どことなく間抜けな、モフモフの擬音が洞窟内に木霊する。


 瞬時に巨大化したモフモフの尻尾に阻まれて、飛来した矢は一本もわたしたちに届くことはなかった。

 レッサーデーモンの炎ですらノーダメージで防いだ尻尾である。この程度の矢が何万発当たろうが、わたしは痛くもかゆくもない。


「な、なんだ、そりゃ……?」

 実際にわたしの尻尾が戦闘に使われるのを見るのが初めてであるヴィノ、ヨハン、アニータが、目を丸くしつつ、ポカンと口を開けている。


「説明は後! モンスターがやってきた!」

 わたしが尻尾の防御を解くと、前方に注意を向ける。


 ギィィ――ギィィ――!

 不協和音にも似た声が反響する。

 見ると、闇の向こうから異形たる影が続々と姿を現してきた。


 一体ごとの体長はおよそ人間の腰くらい。

 醜くも凶悪な相貌に、捻じ曲がった体躯、そして人間の恐怖心を煽るダークグリーンの肌――手には自作と思しきボウガンや手斧を携えて、確固たる殺意を振りまきながら、こちらに襲い掛かってくる。


 事前に図書館にあった資料で知っていた――道を埋め尽くさんばかりの、夥しい数のゴブリンが現れたのである。


「ちぃ、一階からこれかよっ! ついてねぇ! ――オイ、数が多いぜ! アニータ、魔法を頼む!」

 ヴィノが激高するように背後へと声を飛ばす。

 とはいえ、さすがのアニータも瞬時に魔法を発動させることはできないのだろう。呪文を紡ぎつつも、完成には少しばかり時間がかかりそうだった。


 ならば――と、わたしは前面に躍り出た。


「あ――バカッ!」

 背後からの少年の声には構わず、わたしは腰からバスタードソードを抜き放つ。


 一斉に飛び掛かるゴブリンたち。

 一人だけ前に出たわたしに対し、ピラニアのごとく集団で襲い掛かろうとする。


(甘く見ないで――っ!)

 わたしはしかと大地を踏みしめ、長剣をフルスイングした。


 ――グォオオオウ!

 闇を切り裂く白銀の一閃。

 竜の咆哮のごとく風がうねり、瀑布もかくやという剣の一撃が薙ぎ払われる。


 ――ズシャアアアアッ!

 ゴブリンたちの矮躯が、血飛沫と肉塊と変貌して吹き飛ぶ音。


 たとえ剣の切れ味が皆無であろうとも、それが尋常ならざるスピードと力で振り払われたのならば、凶器として十分すぎる威力を発揮する。

 むしろ、切れ味がないおかげで傷は無残に破裂し、ゴブリンたちはミンチよりも酷い肉塊となって四散し、洞窟の壁に叩きつけられる。


「な――っ!」

 ヴィノたちの息を飲む声が聞こえる。

 少女の細腕からは予想もつかないような剣戟に、絶句しているようだった。


 ギイィィィ――!

 ゴブリンたちが再度強襲する声。

 剣を振り抜いた先の隙を狙って、第二波のゴブリンたちが、背後からわたしに襲い掛かる。


 それすらも、わたしにとっては予想済みだ。


 ――ブォオン!

 わたしの背後を守るべく、尻尾が薙ぎ払われる。


 先ほどの剣戟と遜色ない速度で尻尾が斬撃を生み出した。

 いうなれば、『尻尾ブレード』ともいうべき攻撃に、ゴブリンたちは切り裂かれ、無残に屍を晒していく。

 二刀流――剣と尻尾の対となる攻撃を前に、有象無象のゴブリンなど、塵芥も同然だった。


(よし――いける!)

 わたしの力でも、十分に次元迷宮で戦える。


 ギィ――ギィ!

 流石に今の攻防で、ゴブリンたちも怖れを成したようだった。

 わたしを取り巻くように間合いを計っている。


 けれど、わたし一人に意識を集中させているその隙こそ、彼らの命取りだ。


 ビュッ――ザッ、ズバッ、ザシュ!

 容赦なく、紫電の矢がジグザグを描いてゴブリンたちに襲い掛かった。

 見れば、クリスが矢を放ち、わたしの周囲にいた残りのゴブリンを一掃させていた。


「ありがとう、クリス!」

 背後に礼を言って、奥に視線を移す。

 洞窟の奥には、まだ無数のゴブリンが潜んでいたようで、ぞろぞろと現れてくる。

 しかし――ここまでお膳立てすれば、タイミングとしてはバッチリだ。


 ここにきて、アニータの呪文が完成したようだった。


『古の記憶に刻まれし原初の紅蓮――命約の言葉にて、ここに一片を招来する。彼の者たちを深遠の彼方へと押し流さん――混沌の炎カオティック・フレイム!』


 魔道士の少女が呪文を炸裂させる。

 杖から迸った灼熱は雷光のごとき鋭さで虚空を横切り、洞窟の奥へと到達すると、燃え滾る爆炎となって闇の眷属たちを飲み込んだ。


 ――グォォォォオン!

 轟音とともに、火炎が洞窟の内壁を舐めたのは一瞬のことだった。

 そうして魔術が収まった後には、肉の焦げる臭いと煙が大気を充満させていた。


 動く気配はない――ゴブリンたちは全滅したか、奥に逃げたのだろう。

 敵意が消え失せ――戦闘は終了したことを肌で感じ取る。


「ふぅ……」

 一息つく。

 どっと緊張を押し出すように、わたしは肺の息を外に吐いた。

 そうして、背後を振り返る。

 見れば――何か言いたげな視線を向けている冒険者たちの目があった。


「どうしたの?」

 わたしは彼らに向かって問いかける。


「あ――いいえ、その……あまりの強さに驚いたというか――」

 アニータはごほん、と咳払いした後。

「ごめんなさい……失礼だけど、あなたにそれほどの実力があったことが意外だったの……正直、何もできないリーダーだと思っていたから」


「当然ですよ。テイルは強いです、私が知っている、どんな人よりも」

 シルフィが、ふふんと自慢するように語る。

 その言葉に、わたしは照れくさい気分となった。


「ふん……まあ、足手まといにならない程度の実力はあるみたいだな」

 一方で、ヴィノが性懲りもなく憎まれ口を叩く。


「……けどよ、聞かせてくれよ。さっきはどうやってゴブリンの襲撃に気付いたんだ?」

 少年にそう問われ、わたしは、自身の頭部にある狐耳を指さした。


「わたしのこの耳、よく聞こえるの。だってキツネだもの」

 そうなのである。

 わたしのこの耳は、見掛け倒しじゃないのだ。

 一般的に、狐の聴力は犬のそれを大きく凌駕していて、人間には聞き取れないような音すらも聞き分けられると言われている。

 わたしのこの耳も例外ではなく、この洞窟内でなら、数十メートル先の小さな物音すら聞き取ることができた。


 ――かつて訪れた、黒碑の森からその兆候はあった。

 ところが最近になって、自分でも信じられないくらい感覚が鋭敏になってきているのだ。


「ハン、その意味不明な尻尾もキツネってやつか……ったく、よく分かんねぇ奴だな。オマエ」

 そういってヴィノは小さく鼻を鳴らした。

 けれど――こちらを見る目は、幾分柔らかくなっている。

 一緒に戦う仲間として、少しは認めてくれたようだった。


「さあ、早く行きましょう」

 そうしてわたしは、再びパーティの先導を始めたのだった。

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