第二十二話. 六人パーティ結成
場所は冒険者ギルドの一階にある待機部屋だった。
初対面で会うなり、いきなりご機嫌斜めの態度を露にされる。
紹介された冒険者は三人――
驚いたことに、全員がわたしとそう年齢の変わらない、十代の少年少女だった。
――あるいは、ハワードさんがあえてそのような人選をしたのかもしれない。
一応、このパーティのリーダーはわたしってことになっている。
仮に、年嵩の冒険者だった場合、こんな十代そこそこの小娘にあれこれ指示されるのは反感を招くだろう。
「……だからさ、訊いてんだろ。アンタらがセフィラの盾の連中で、間違いないのか?」
――だというのに、再度、そのような不機嫌声で問われる。
声の主は、三人の中でも一番ガラの悪い人間――頭部にバンダナを巻いた少年だった。
年齢は、おそらくはわたしよりも少しばかり年上だろう。
顔立ちはそこそこ整っているものの、目つきは鋭利で、頬には大きな傷痕が残っていた。
「あ――うん、そうよ」
冒険者たちの、意外なほど若い顔ぶれに対し、少しばかり面食らったものの、わたしはすぐさまハッとなって頷きを返す。
「あっそ――で、アンタがリーダー?」
バンダナの少年は、先ほどからそのような粗略な言葉で応じてくる。
加えて、初対面の相手に対し、威嚇するような空気を発散させていた。その様は、さながら不良校に通うヤンキー高校生といった感じである。
その態度に対し、何も思わないでもなかったが、それをこちら側が真に受けるのもどうかと思い、わたしは気にしないことにした。
「うん。わたし、テイル。よろしくね」
わたしは笑顔で握手を差し出す。
「…………」
ところが、バンダナの少年はそれをちらりと見ただけで無視した。
――もしかしたら、冒険者の間では握手なんて変だったのだろうか。わたしはそのように思いつつも手を引っ込める。
「ちょっと、ヴィノ――!」
咎めるように口を挟んだのは、三人のうちのもう一人――魔道士姿の少女だった。
年齢は十代半ば。ボブカットで揃えた赤髪に、丸眼鏡をかけた少女である。
少女の諫めに対し、バンダナ少年は「ケッ」とそっぽを向いただけで態度を改めようともしない。瞬く間に空気は険悪なものになる。
「ふ、二人とも、ちょっと落ち着いて……」
仲裁に入ったのは、三人のうちの最後の一人、大柄な体躯の少年だった。
顔立ちこそ少年らしくあどけないが、実に天を衝くような巨漢児だった。腰回りもクジラのように太く、縦にも横にも大きい印象を抱かせる。
顔は平べったく、おまけにうっすらとニキビも浮いていた。お世辞にも美形とはいいがたいが、目つきは穏やかで、素朴そうな感じではある。
「えっと、その――あなたたちが、わたしたちに協力してくれる冒険者ってことでオッケー?」
わたしが確かめるように尋ねると、バンダナの少年が応えた。
「ああ、そうだよ。ギルドの命令で、アンタらに協力することになった――ま、この場合、互いに自己紹介は必要か」
そう言って、バンダナを巻いた少年が、最初にアピールを始めた。
「俺は、ヴィノだ――ヴィノ・カッセル。冒険者になる前は、野師の仕事をやっていた。ダンジョンでトラップの解除が必要になったら、俺に任せてくれ」
見れば、少年――ヴィノは迷彩服にも似た格好をしている。
ラフな印象であるが、そこは冒険者らしく、革製の腕当てや胸当てを装備していた。
腰には一振りの投擲武器と、大ぶりな短剣を下げており、全体的に身軽そうな装備だった。
「お、お、オイラは――」
次に自己紹介するのは、大柄な少年だった。
巨大な体躯を群青の全身鎧で身を包んでおり、いかにも重厚そうな出で立ちだ。
背中には槍斧、腕には小盾を固定しており、見るからに戦士タイプといった冒険者である。
「その、オイラは――げほっげほっ!」
よほど緊張したのか、巨漢の少年はむせていた。
「ちょ――大丈夫?」
わたしは慌てて声をかける。
「あ、ああ……す、すみません。オイラの名前は、ヨ、ヨハン・ぺルノー……です」
口下手なのか、どもりつつも彼は自己紹介を行った。
見た目に反して気弱な性格のようだった。こちらを見る目も、どこかオドオドとしている。
「そ、そ、その……よ、よろしく、おねがいします……」
そうして、へっぴり腰ながらも握手を差し出してきた。
こちらは、先ほどのヴィノとは違って友好的だった。
全員に嫌われているわけではないと安心して、わたしは喜んでその手を取る。
「うん、よろしくね。ヨハン。あと、これから一緒に迷宮を攻略する仲間なんだから、わたしに敬語は使わなくていいよ」
「そ、そう……か。わ、わかった……」
ヨハンは照れたように顔を伏せた。
そうして、最後に残った一人の眼鏡の少女に視線を移す。
黒を基調とした法衣に加えてトンガリ帽子と、見るからにファンタジー作品に登場しそうな、黒魔術専門の魔女といった感じである。
「アニータ・コバーフィールド。見ての通り、黒魔道士よ。基本的な攻撃魔法は一通り使えるわ。他にも、ダンジョンやギルドについて分からないことがあったら、私に聞いてくれていいから」
くいっと眼鏡をかけなおして、そのように自己紹介した。
丸眼鏡がキラーン、と光る。
彼女を一目見て思った。
――委員長キャラだ。
どことなく規則に煩そうな感じといい、勉強一筋っぽい丸眼鏡といい、学校のクラスに一人はいそうな委員長系女子である。
アニータは、わたしの後ろの方にいたシルフィを見ると、興味を引いたようだった。
「あなたも魔道士なのね。見たところ、神官かしら?」
突然声をかけられたシルフィは、少し委縮しつつも応えた。
「あ、は、はい……。その、見習いですが……」
「そう。よかったら、後でお互いの魔法について話し合いましょう」
「はい……」
魔道士同士ということもあって、アニータはシルフィと仲良くなれそうだった。
わたしは満足そうに頷き、彼らに向き直る。
「それじゃ、これから迷宮攻略について打ち合わせをしようかと思うの。とりあえず、今回の調査の目的、それから、お互いの特技や装備品ついての話し合いを――」
「そういうのは、行きすがらできる」
そう口出ししたのは、今まで黙っていたクリスである。
「行こう……時間がもったいないし、互いに何ができるかは、戦いの中でわかるから……」
そう言って、さっさとギルドから出ていこうとするクリス。
「ちょっと、クリスったら――もう、相変わらずマイペースなんだから……!」
わたしは呆れつつも、残された彼らに向き直った。
「ごめんなさい……彼女、いつもあんな感じなの。早速だけど、わたしたち『常闇の洞穴』に挑もうと思っているんだけど、あなたたちはいいかしら?」
わたしがそう尋ねると、ヴィノは肩を竦め、皮肉屋っぽい口調で答えた。
「……ま、いいぜ。リーダーに従うさ」
そこに、アニータが助言を加える。
「ギルドの窓口に行くといいわ。冒険に必要なアイテムや食料を一通り支給品として受け取ることができるの。それを持って、次元迷宮に向かいましょう」
*
■ステータス一覧
◇テイル
Lv:??
年齢:14(推定)
職業:キツネ(?)
スキル・アビリティ:
剣術A、格闘術A、尻尾EX
装備品:
・バスタードソード:攻撃力D(頑丈さEX)
・風精の衣:防御力D
・モリバドの水着:防御力A
◇シルフィ・ラドグリフ
Lv:7
年齢:13
職業:神官見習い
スキル・アビリティ:
白魔法D、薬術A+
装備:
・ガリア・アコライトスタッフ:攻撃力E(魔力C)
・ガリア・アコライトローブ:防御力E(魔力C)
◇クリスティーヌ・ハンネ・ヴィルヘルミナ・キシュワード
Lv:168
年齢:14
職業:聖騎士
スキル・アビリティ:
魔眼A+、弓術A+、剣術A、格闘術A、神聖魔法B、etc..
装備:
・聖弓アハシュカル:攻撃力A
(※とある理由により、攻撃力がランクダウンしている)
・黒曜の鎧:防御力A
・ケイオスマント:防御力B(魔力A)
◇ヴィノ・カッセル
Lv:18
年齢:17
職業:野師
スキル・アビリティ:
投擲術C、短剣術D、罠術B、トラップ解除A
装備:
・ミスリルブーメラン:攻撃力B
・ダルカナ・ベーシックダガー:攻撃力D
・オーソドックス・レザーガード:防御力D
◇ヨハン・ぺルノー
Lv:20
年齢:16
職業:重戦士
スキル・アビリティ:
槍術C、斧術C、防御術B
装備:
・ダルカナ・ベーシックハルバード:攻撃力C
・ダルカナ・ガーディアンアーマー:防御力B+
・オールラウンド・バックラー:防御力D
◇アニータ・コバーフィールド
Lv:16
年齢:15
職業:黒魔道士
スキル・アビリティ:
黒魔術B
装備:
・ミスリルメイジスタッフ:攻撃力E(魔力B)
・ダルカナ・ウィッチローブ:防御力D(魔力C)
*
常闇の洞穴は、ダルカナから北に存在する洞窟だった。
馬車を使って近傍まで移動すると、そこでは仰々しく検問が行われていた。
「こっから先は、冒険者ギルドの許可なくして立ち入り禁止だ。通行証は持っているか?」
「はい、こちらです」
わたしは冒険者ギルドの受付で発行してもらった通行証を見せた。
ダルカナの冒険者ギルドでは、どこの迷宮に挑むのかを申告して、ギルドで通行証を貰うことで初めて迷宮に挑むことが可能になるのである。
「……確かに。気をつけてな」
警備の兵に見送られて、わたしたちは洞窟に辿り着いた。
一応、ここに来る途中で、今回の調査の目的をヴィノたちに話している。
最終的な目的は次元迷宮の攻略、もしくは、次元迷宮の奥にあるものを突き止めることだ。
とはいえ、今日はパーティ結成初日ということもあり、様子見ということで無茶をせず引き返すつもりだった。
――常闇の洞穴の入り口は、聳え立つ山の麓に存在していた。
非常に巨大な空洞で、建物がまるっと入れそうな穴が大口を開けていたのである。
洞窟の奥からは、底冷えするような冷気が漂っていた。
わたしたち以外に周囲に人はいない。この時間で、この洞窟に挑むのはわたしたちだけのようだ。
「リーダー、そろそろ明りを付けておいたほうがいいわよ」
アニータにそのように促され、わたしは支給品に含まれていたカンテラを取り出した。
光のルーンが使用されているカンテラは、わたしの意思に応じて眩い光を灯した。
緊張に高鳴る心臓を抑え、わたしたちは洞窟に足を踏み入れる。
次の瞬間――周囲の空間がぐにゃりと歪んで見えた。
そうして気が付けば、わたしたちはそれまでと全く異なる場所へ移動させられていたのである。




