第二十話. エロ装備なんていりませんっ!
店員さんが持ってきたのは、胴体のみのマネキンである。
ところがどっこい。そのマネキンに装着されていた防具を見て、ぶっちゃけわたしは恐怖すら覚えた。
申し訳程度に胸と腰を覆った装甲――
極限まで露出を多くした布地――
女性のプロポーションを強調するかのようなデザイン――
それは、いわゆるビキニアーマーというやつだった。
前世紀の遺物というか、ロストテクノロジーというか、大昔のファンタジー作品で女性戦士が着ているような、ビキニタイプの鎧である。
「驚いた……まだ絶滅していなかったんだ、この手のデザイン……」
わたしは何となくそんな言葉を呟いていた。
「これが、当店で一番防御力のある女性用装備です」
「冗談でしょ!?」
こんなキューティーハニーですら赤面して逃げ出しそうなシロモノ、装備できるはずもない。
というか、明らかに実用性なんて皆無ではないか。
「知ってる……これ、『モリバドの水着』でしょ。キシュワードにあった兵器図鑑でも見たことがある。失われし遺産の一つだよ」
横手からクリスが口を挟む。
「そんな『進研ゼミで見たやつだ』みたいなこと言われても――ロスト・アーティファクト?」
耳慣れない単語が出てきて、思わずわたしは訊き返す。
「遥か昔に栄えた古代文明の遺産の事ですよ」
説明してくれたのは、傍に控えていたシルフィだった。
「今から数千年もの昔、現代とは比べ物にならないほど高度な魔法文明が発達していた時期がありました。その時代に作られた、今では製法が失われている武器防具やアイテムのことを、私たちは失われし遺産って呼んでいます」
シルフィの説明に、クリスが頷く。
「この防具自体が、高度な魔法な力によって編み出されたものだから。物理的には考えられないような性能を持っているの」
「うそ……これが――数千年もの前に作られたものなの?」
目の前の防具はほころび一つない。新品同然の光沢を保っている。
もしもシルフィたちの言う通り、これが数千年も形を保ち続けたものだとしたら、それ自体が類まれなる神秘ではあるまいか。
そこに店員さんがコメントを加えた。
「女神モリバドの力を封じた鎧です。モリバドは熱情と愛欲の女神といわれていまして、装備者の性的魅力を防御力に転換するという魔法効果があります。だからまあ、こういう煽情的なデザインしているんですよ」
「性的魅力を防御力に転換って……なんですか、そのセクハラめいた魔法効果」
古代の女性はみんなこんなハレンチな装備を着て戦っていたのだろうか。
想像してみたらやたらとシュールというか、遥か昔の女性兵士たちに同情を禁じえなかった。
「装備しているだけで、全身を防護の加護が覆い、物理攻撃はもちろん、魔法攻撃などにも高い耐性を得ることができます」
「え……なにその冗談みたいな性能――いやでも、こんな裸同然の装備、風邪ひくに決まっているじゃないですか!」
「大丈夫です。女神の加護で普通の服より防寒性が優れていますから」
「なんてご都合主義な女神の加護なの……!」
けど確かに、ゲームなどでもよくある話だった。
アホみたいに露出が高いのに、不自然なまでに性能の高い防具――いわゆる、エロ装備が。
何が何でも女性にいやらしい恰好をさせたいという何者かの作為が感じられる。
「高性能なんですけど、さっきも話した通り、装備者の性的魅力を防御力に転換することが前提なので、十分力が発揮できるような装備者が限られているんですよ。ようするに、若くてボンキュッボンの女性じゃないと無理なんです。お客さんはまだ年齢的に幼いですけど、身体の発育的には十分だと――」
「だから、そういうのがハラスメントだって言ってるでしょ! 花盛りの女の子になんて装備を勧めているんですか! 潰れろ、こんな店!」
わたしは傍で見ていた二人に助け舟を求めた。
「二人とも、何か言ってよ! 流石にこんな装備、着れないよね!?」
ところがクリスはクールな表情のまま。
「私はこれでいいと思う」
「ちょっと、クリス――」
何を言い出すんだ、このトンチキ姫騎士は。
「というか、セクシーな装備をしたテイルが見てみたい……」
「こんな時にまで下心に忠実にならないでっ!」
毒づくわたしに、シルフィも慌てて諫める。
「そんなっ、クリスさん! こんなの着せたら、流石にテイルがかわいそうですよ! 見てみたいだなんて――そんなの、私ですらちょっとしか思っていないのに!」
「ちょっとは思っているの!? ってか、さっきからなにこのツッコミ祭りは!?」
流石に息切れしそうだった。
――いじめ? これはいじめなの?
寄ってたかって、これは巨乳に対するいじめなの?
おっぱい虐めてそんなに楽しいの、あなた達は!
「けれど、お客さん。性能は破格に高いですよ、この装備」
「ぐ――」
これである。
確かに――これから迷宮に挑むのに、機能に優れた軽装はありがたい話だった。
けれど、痴女じゃあるまいし、こんな格好で平然と歩き回るなんてできるはずもない。
性能では劣ってもマトモな装備を選ぶか――
尊厳を投げ捨ててまで性能を選ぶか――
その二つを天秤にかける。
「どうしますか、お客さん。この装備にしますか?」
「いりませんっ!」
――天秤にかけるまでもない。
わたしはタメも迷いもなく、断言した。
当然です。わたしにだってプライドのプの字くらいあります。
こんな罰ゲームみたいな装備なんで受容できるはずもない。
「残念、見たいのに……」
「クリス――あまりナメていると、しまいにはシバキ倒すよ……」
不満顔のクリスに、わたしは笑顔(目は笑っていない。怒りマークを浮かべて)で言い返す。
まったく――と、わたしは店内を見渡した。
そこで、壁に掛けられてた一つの防具に目が留まる。
「これは――」
わたしは近くに寄って、その防具を見上げた。
それは、盾でも鎧でもない。
ただの服である。
けれど――そのデザインに、わたしは魂の震えを受けていた。
「お客さん、それが気になりますか? それはですね、布鎧ですよ」
「布って――それって、ただの服なんじゃ……」
「いえいえ、それはとある高原に住まう少数民族が戦闘に使用している衣服で、歴とした防具なんですよ。なんでも、特殊な裁縫技術によって編まれていて、見た目以上に頑丈にできているとか」
「布にそんな防御力が……」
――いや、そうともいえないのか。
わたしのいた世界でも、銃弾すら防ぐケブラー繊維というものがある。
同様に、この世界の特有の技術で作られた布の鎧もまた、見た目以上の強靭さを備えているのではなかろうか。
「普通の甲胄などに比べて防御力は落ちますが、普通の衣服と変わらない機敏さを保つことができます。ただ――ちょっとデザインがですね」
店員さんの言う通り、西洋風の鎧などが並ぶ中で、その防具のデザインは異色ともいえるほど浮いている。
ゆったりとした振袖――
羽織る形で、左襟を前に流した形状――
腰の部分を巻き付けるような帯――
――和服である。
細部こそ異なっているが、それは紛れもなく、わたしのいた世界に存在する服のデザインだったのだ。
「その少数民族ってのが、もとは東方大陸から流れてきた移民族をルーツとする者たちだったんですよ。その源流を汲むデザインでして、これが少し不評なのか、あまり売れないんですよね……」
確かに――見るからに西洋然としたこの世界の文化にて、この服のデザインは奇抜に過ぎるのかもしれない。
けれど、わたしにとっては――
「すみません。この防具を試着してみてもいいですか?」
わたしの言葉が意外だったのか、店員さんは目を丸くしている。
「え、そりゃ勿論構いませんけれど……お客さん、本当にいいんですか?」
「はい――ああ、それと、もう一つ注文ですが――」
わたしはそうして付け加えた。
「そのビキニアーマー、やっぱり着ます」
*
わたしは着替え終わって、試着室から戻る。
戻ってきたわたしの姿を見て、クリス、シルフィ、店員さんから感心したようなため息が聞こえてきた。
「わぁ……」
「へぇ……」
さながら、馬子にも衣装を目にしたような表情だった。
――鏡で見たわたし自身も、これは会心の組み合わせだと思う。
先ほど受け取った布鎧は、いわゆる羽織のような形状だった。
わたしはそれを上半身に着て、帯で前部分を止めている。
白を基調とした和服のデザインは、それだけで清純さを醸し出すようなものだ。
下半身は、それに見合わせて短めのフレアスカートを履いてみた。
尻尾は、スカートの上から出すような形で着ることができたのである。
スカートの下には黒のスパッツを身に着けていた。
するとどうだろうか、まるで神社の巫女みたいな印象に仕上がった。
和洋折衷って感じで纏まった全体――鏡で仕上がりを確認したわたし自身も、かなり気に入っている。
「不思議ですね……変わったデザインの装備だと思っていましたけど、テイルが着ると……妙に様になっているというか……」
シルフィがそのように感想を漏らす。
わたしのいた世界では、和服は現代でも通じる服装だ。似合っているのも、ある意味では当然といえた。
それに、この装備を選んだのはなにもデザインだけが目的じゃない。
「そっか、『モリバドの水着』を重ね着しているのね……」
クリスの言うとおりである。
わたしのこの服装の下には、先ほどのビキニアーマーを身に着けていた。
布でできた装備だからこそ、重ね着ができたのである。
これならば、高い防御力を保ったまま、動きやすく――かつ、露出面という致命的な問題をも解決することができた。
試着室でジャンプしてみたが、モリバドの水着はしっかりとわたしの胸を固定していた。これならば、戦闘で激しく動いても苦しくはないだろう。
(うう……けど、やっぱり恥ずかしい……)
――断っておくけれど、下に着ているとはいえ、あんなスケベな装備を身に着けていること自体、ものすごく恥辱的なのである。
下着を脱いで直接ビキニアーマーを身に着けているおかげで、妙にスース―するというか、裸の上に直接服を着ているような感じだった。
「ううん、そんなのは我慢する……。ともあれ、防具はこれで決まりね。さて、武器は――」
そうして、次は武器が展示されている場所に目を向ける。
その時――わたしはこれ以上ないくらいの衝撃を受けた。
先ほどの布鎧とは比べ物にならないくらいの運命を、その武器から感じ取っていたのである。




