第十九話. 買い物をしよう――武器防具店へ
冒険者ギルドを後にする。
まだ日は高く、午後の麗らかな天日がわたしたちを出迎えた。
「――それで、これからどうするの?」
クリスが、まるでヒヨコみたいな無垢な表情で尋ねてくる。
先ほどわたしをリーダーに任命してから、彼女は本当にこれからの主導権をわたしに丸投げしているようだ。
――それならばそれで、わたしとしても提案がある。
「日が高いうちにやっておきたいことがあるんだけど、いい?」
「うん、いいよ。リーダーに任せる」
それじゃ――と、わたしは提案した。
「武器と防具が欲しい」
――これは、ダルカナに来る前からずっと考えていたことだった。
以前の戦いで実感したことがあった。
わたしのこの尻尾は、あらゆる攻撃から身を守ってくれるし、また、尻尾を使っての攻撃も、並大抵のモンスターならワンパンで倒せる威力がある。
ただし問題は、その攻撃と防御を同時に行えないということだった。
だから――尻尾で身を守りつつ攻撃に打って出られる手段が欲しいのだ。
加えて、長いスカート姿では、やはり白兵戦で支障が出る。
もっと動きやすく、しかもある程度の防御力が期待できそうな防具が欲しい。
だからこそ、この際、戦闘用の装備を購入したいと思っていた。
幸い、ここダルカナなら、武器防具の店には事欠かない。
ギルドを出る際に、受付にいた事務員から非礼の詫びとばかりに、おススメとなる店を教えてもらったのだった。せっかくだから、行ってみようと思う。
「うん、わかった……買い物に行こう」
クリスは従順に頷く。
「シルフィも装備を揃えてみる?」
わたしは隣のシルフィに話を振る。
ちなみに――今回の任務にあたってわたしたち全員に、セフィラの盾から支度金としてかなりのお金が渡されている。
無駄に散財する気はないけれど、金に糸目をつけなければ、それなりにいい装備は整えられるはずである。その気になれば、シルフィも装備を買えるはずだった。
しかし予想に反し、神官服の少女は遠慮気味に首を横に振る。
「いえ……せっかくですけど、私は大丈夫です」
「どうして?」
「実はですね――この神官服と杖、王都の学校で支給されたものなんですけど、装備者の魔法の能力を上げる効果があるんですよ。なので、私はこれで結構です」
シルフィは、持っていた杖を掲げるように見せて、そう説明する。
「そっか……じゃあ、大丈夫かな」
わたしとしては、装備を新調するくらいはいいのではないかと思ったけど、仮にシルフィが装備を整えたところで、彼女が前衛でモンスターと戦うわけじゃない。
シルフィに望むことといえば、その魔法でわたしたちを援護してくれることである。
それならば、使い慣れた道具の方がいいと思い、わたしもそれ以上言及はしなかった。
(うん……大丈夫。モンスターが現れたら、シルフィはわたしが守るし)
自分でそのように納得して、わたしは頷いた。
「よし、決まりね。では、装備を調達しに――しゅっぱーつ!」
意気揚々と、喧騒に賑わう大通りの中を進むのだった。
*
大通りから少し外れた細道に、ひっそりとその店は佇んでいた。
看板には『ドーリア武具店』と記載がある。
――間違いない。ギルドの人が言っていた店だ。
なんでも、店の規模に見合わず品ぞろえが優れており、時たま迷宮から発掘された掘り出し物の装備が並ぶことがあるらしい。値段もそれなりに良心的だとか。
店に入ると、仄かに薄暗い空間の中で、雑貨店もかくやというくらいに大小様々な武具が所狭しと並んでいた。
――鉄やなめし皮の臭いが鼻腔を刺激する。
なんとなく、現代世界のゴルフショップや剣道の防具を売っている店を連想させた。
店内には他に客はいない。
静まり返った店の中で、わたしたちの擦れるような足音が響いていた。
「はーい、いらっしゃいませー。当店は迷宮探索用の武器防具専門店。また、迷宮での発掘品の鑑定も承っておりますよー」
溌溂とした女の子の声がお出迎えしてきた。
店の奥からパタパタと出てきたのは、若い女性の店員である。
長い髪を野暮ったくポニーテールに纏めており、作業服と思しきオーバーオールとエプロンは油で黒く汚れていた。
そこだけを見れば、泥臭い印象は拭えないものの、人受けしそうな笑顔を浮かべており、見るからに接客に手慣れているようだ。
女性の店員は、わたしたちを見ると、見慣れない客だと気付いたようだった。
「お客さん、初めてですね。この街での決まり上、ギルドの許しがないと当店は利用できません。ギルドの書状はありますか?」
「はい、こちらでいいですか?」
わたしは、ハワードさんから受け取った書状を懐から取り出した。
差し出されたそれを、店員さんは検める。
「――たしかに。それでは改めて、ご来店ありがとうございます。本日は何をお求めでしょうか?」
にこり、と営業スマイルを浮かべる店員さん。
「武器と防具が欲しいです。女性向けの。まずは防具が見たいのですが――」
「はい、どのような防具をお求めでしょうか?」
「鎧みたいに身体を守る防具を――動きやすいものをください。防御力よりも、動きやすさを重視した装備がいいです」
かねてより考えていたイメージを口にする。
わたしのこの尻尾は、敵のあらゆる攻撃を防ぐのだから、無理に重厚な防具で身を固める必要なんてない。
ならば、防御力よりも運動に適していることを優先し、それでいて一定の強度が期待できる装備をと考えていたのだ。
わたしの希望を聞いた店員さんは、考え込む仕草をした。
「ふうむ、女性向けの装備ですね。お客さんの場合、その尻尾がありますから、下半身まで覆ってしまう防具は無理ですね。なら――これなんかどうでしょうか?」
そう言って指し示したのは、店の棚に展示されていた皮鎧だった。
「飛竜の皮を使った一品ですよ。軽さはもちろん、防御力も並の防具以上に優れています。どうですかね」
見たところ、かなりいい感じの装備だ。
ファンタジーの冒険譚に登場するような、女勇者が装備していそうな鎧である。
手に取ってみると、見た目以上に軽かった。
はっきりいって、プラスチックでできているのかと疑うほどだ。
「あと、こちらもよかったらどうぞ。鎧の下に着る衣服なんですけど、女性ならスカートに変更することができます。これなら、お客さんの尻尾も出すことができますし、鎧と一緒にセットでお求めできますよ」
言葉巧みに別の商品も売りつけようとする女性店員さん。とはいえ、チョイス自体は見事であり、悪い気はしない。
「いいですね。ちなみに、試着することはできますか?」
「もちろんですよー。ちなみに、試着室はそちらになります」
店員さんは店の奥を指し示す。
「じゃあちょっとお借りします――二人とも、ちょっと待っててもらっていいかな?」
わたしはシルフィとクリスに伺った。
「はい、ごゆっくりどうぞ」
「着替えてくるのを楽しみに待ってるから」
二人に見送られ、わたしは防具を受け取って試着室に向かった。
しばらくして――
「おや、お客さん。どうしました?」
店員さんが怪訝に問いかける。
何しろ、わたしは着替えずに戻ってきたのだから。
わたしは、身を小さくするように俯きつつ、鎧を店員さんに返す。
――できるだけバレないように平然を装っているが、正直言って、恥ずかしさのあまりどうにかなりそうだった。
「……すみません。サイズが合わなかったので、別のにしてほしいのですが」
すると店員さんは、不思議そうに小首を傾げた。
「えー、おかしいですね……お客さんの身長くらいだとサイズは合っていると思うのですが――」
そこで店員さんは、ああ、と声を上げた。
得心がいったようにわたしの胸を凝視しつつ。
「おっぱいが大きくて入らなかったんですねっ!」
「~~~~~~~っ!」
わたしは火がでるくらい顔を真っ赤にした。
店に他に男性客がいなくて心底よかったと思う。
「ほほう、なるほど……」
「うらやましいです……」
クリスとシルフィも、それぞれ納得したようにわたしの胸をジロジロ見ている。
「んー、じゃあもうちょっとゆとりのあるサイズの防具がいいですね」
「はい……。その、一つだけお願いが……」
わたしは店員さんにこっそりと耳打ちする。
クリスとシルフィには聞かれたくないので、できるだけ小声で話す。
「え!? 激しく動いても胸が揺れない装備が欲しいですか!?」
だというのに、あっさりとそれを暴露する店員さん。
「~~~~~~~~~~~っ!!(羞恥でぷるぷると震えている)」
だから――なんでそう一々大声で話すのか。
個人情報保護とか、プライバシーの権利とか、コンプライアンスとかないのか、この店は。
なんかもう、泣きそうである。
「……ちなみに、うちの武具屋では購入者の名前を彫ることもできるのですが、『SUGOI DEKAI』とでも彫っときます?」
「あなたは装備と喧嘩のどっちを売りたいんですかっ!」
もうやだ、この店!
「ちょっと胸周りのサイズ測らせてもらってもいいですかね?」
女性店員は巻き尺を取り出した。
わたしの脇の下から尺を通して、胸囲を計る。
「……ちなみに、お客さん年齢はおいくつですか?」
「歳は……多分、十四か十五くらい……かな」
記憶がないので正確な年齢は分からないけど、身体年齢的にはそれくらいだと思う。
――ひょっとしたら、もっと下の可能性もあるんだけど。
「うわ――それでこれは大きいですね。ぶっちゃけドエロいです。シコいですよ」
「ぶっちゃけなくていいです。自分でも分かっていますので」
というか、客に向かってなんという形容詞を使っているんだ、この人。
ずいぶんと明け透けにものを言う店員だった。
というか、もはや暴言の域である。
「んー、難しいですね。お客さんの年齢から考えると、今ピッタリのサイズを買っても、すぐに着られなくなる可能性があります。男性用のサイズも視野に入れれば、大きめのものはあるんですけれど――いっそ、サラシでも巻いときます?」
やっぱり、それしかないのだろうか。
そう思ったその時、店員さんは「ああ、でも」と付け加えた。
「一つだけありますよ。装備する人をかなり選ぶので、今まで買い手がつかなかったんですけど、お客さんなら大丈夫だと思います――軽くて、動きやすくて、サイズも問題なくて、胸がしっかりと固定できて、しかも防御力の高い女性用装備が」
「え……そんな都合のいい装備が本当にあるんですか?」
「はい、少々お待ちください」
そう言って、店の奥に消える店員さん。
しばらくして、何かを抱えつつ戻ってきた。
「――これです!」
ダン、とカウンターの上にそれを置く。
「な――こ、これは――」
わたしは愕然と目を見開いた。




