第十二話. いざ、迷宮都市へ
「おぬしたちに頼みたいことがある」
グレイズ総帥の執務室へと入るや否や、前置きもそこそこに、白髪の総帥はそのように切り出した。
執務室には、わたしと総帥以外にも、クリスとシルフィがいる。シルフィはわたしの影に隠れるように半歩後ろに下がっており、クリスは相変わらずクールな表情で沈黙したままだった。
「わたしにできることでしたら」
ここに来て世話になりっぱなしだったため、わたしは行儀よく返す。
総帥はうむ、と一つ頷いた。
「グラヴァシャル帝国が他国を侵略する真意はいまだ見えぬが……帝国に放ったスパイから気になる報告があがっている。どうやら、帝国の異世界転生者どもは、占領した国々において、『次元迷宮』の研究を盛んに行っているらしい」
突如出てきた新たな単語に、わたしは困惑する。
「『次元迷宮』……って、なんですか?」
「『次元迷宮』というものは、ウィル・ファザードの各地において発見されておる、謎のダンジョンのことだ。入る度に地形や構造が変化し、常に強力な魔物が徘徊する危険極まりない地帯のことを指す」
「――――」
なんか、どこかで聞いたことのあるようなフレーズに、わたしは眉をしかめた。
「えーと……ようするに、ミもフタもなくいうと、『不〇議のダンジョン』ってことでしょうか?」
「なんじゃそれは?」
「わたしたちのいた日本で、そういうゲームがあったんですよ。入る度に構造や出現するモンスターが違って、手に入るアイテムも違うダンジョンってやつです」
というか、最近のファンタジー小説とか漫画とかなら、わりとよくある設定なのだけど――
「なるほどのぅ。まあ、そんなことはどうでもよいじゃろう。問題は、どうして帝国の異世界転生者がそのような場所に固執しているのかということじゃからな」
「理由は掴めていないんですか?」
尋ねると、総帥は覇気なく頷いた。
「うむ……。『次元迷宮』自体は、遥かな昔からこのウィル・ファザードに存在していたものだ。誰が、何の目的で作ったのかも不明。女神ミールの御業とも、失われた古代文明の遺産ともいわれている。その全容を掴もうと過去幾度も調査隊が組まれたことがあったが、いずれも徒労に終わっておる。とはいえ――『次元迷宮』にはそこでしか手に入らぬ素材やアイテムもあることから、今もなお挑む冒険者は後を絶たぬのだ」
「じゃあ、別段、問題視されるような場所でもないんですよね? そんな一般の冒険者が挑むことができるような場所なんですから」
「うむ。しかし、『次元迷宮』の深淵には何があるのか、それは誰も分らぬことなのじゃ。何せ、件のダンジョンは奥に進めば進むほど、強力な魔物や仕掛けが蔓延る魔境となっているのだからな。過去の調査隊や冒険者は、いずれもそれが原因で引き返しておるし、無理をして進んだ者で、生きて帰った者は一人もおらぬのじゃ」
グレイズ総帥は、そこで言葉を切り、声のトーンを一段落下げた。
「じつはのぅ、この西方大陸にも、いくつかの『次元迷宮』が発見されておるのじゃ。当然ながら、『セフィラの盾』としても、件の迷宮の調査は進めておる。帝国がなぜそこに興味を示すのか――その理由を解明する目的でな。しかし、未だに結果は芳しくない。だがな――異世界転生者であるおぬしが行くことで、何か新しい発見があるかもしれぬ」
ようやく話が見えてきた。
わたしは身を乗り出して尋ねる。
「つまり、わたしもそのダンジョンの調査に参加するということですか?」
「うむ。もっといえば、『次元迷宮』の攻略じゃ。その奥には何があるのか、お主の目で確かめてきてほしいのじゃ」
グレイズ総帥は立ち上がると、壁に掛けられていた地図の元まで行き、一点を指さした。
「ここから馬車で一週間くらい移動したところに、『迷宮都市ダルカナ』と呼ばれる場所がある。珍しいことに『次元迷宮』が数ヵ所発見されておる土地でな、それらを中心として発展した冒険者の都市じゃ。おぬしはそこに行き、現地のスタッフと協力して『次元迷宮』の攻略を行ってもらいたい」
「はい、わかりました」
「くれぐれも気をつけてな。『セフィラの盾』としても、選りすぐりのスタッフを用意したつもりじゃ。彼らの指示に従い、無茶な行動は慎んでくれ」
身を案じるグレイズ総帥とは裏腹に、わたしの内心では、火のような情熱が沸々と込み上げてきていた。
ようやく世話になった恩を返せることもある。けれど、ダンジョンの未知に挑むという目的に、男の子みたいな冒険心に駆られていた。
もちろん――この時ばかりは、『次元迷宮』とやらを少なからず甘く見ていたことは、否めないが――
内心はしゃぎ立つわたしに対し、シルフィやクリスも申し出た。
「私も行きます! テイルがいくなら……どこへだって行きます!」
「私も行く。護衛としてだけでなく――テイルの夫として」
「妻じゃなくて!? いや、そもそも、結婚していないから!」
ツッコみつつ、わたしは同行を表明した二人に内心で感謝した。
期待に高鳴る胸を抑え、わたしの耳もピコピコと動いている。
わたしは逸る気持ちを声に出した。
「ようし、行こう! いざ――迷宮都市ダルカナへ!」
おー、と三人で鬨の声を合わせるのだった。




