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異世界転生したらエロ可愛い狐娘になって最強タンクです  作者: 白黒一
第一章. 狐少女の旅立ち編
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第二十話. そして伝説は始まった

 ――結局、あの後シルフィは応えてくれなかった。

 夜明けを迎え、わたしはシルフィの家を悄然と後にする。


 静かな村の中を、ゆっくりと歩いて進む。

 まだ明けきらない朝の紺碧の光とすがすがしい空気が、静謐に村を覆っていた。

 息を吸い込めば、硝子のように冷たい空気が肺一杯に満ちていく。

 塵一つない澄んだ新鮮そのものの大気、そして眩いばかりの曙光が、これからの旅路を暗示しているかのようだった。


 村人たちはまだ寝静まっているのか、周囲は驚くほど静かだ。

(最後に、お別れくらい言いたかったな……)

 そのように思いつつも、やがて村の入り口へと辿り着く――


 そこでわたしは、はたと驚いて立ち止まった。

 目の覚めるような朝日の下、村の入り口には、すでに多くの人々が集っていたのである。

「みんな……」

 わたしは呆然と呟いた。


 フランゼル村長がいる。

 マリアさんがいる。

 フラッカにジェシカ、一緒に遊んだ村の子供たちが揃っている。

 ラグドさんや、世話になった村の大人たちも揃い踏みだった。


「みんなで見送ろうって思っていたの……。間に合ってよかった」

 マリアさんが、優しい口調で説明してくれた。


 フラッカとジェシカが駆け寄ってきた。

 わたしはしゃがみ込んで、走ってきた彼女たちをそっと抱きしめる。

「テイルおねーちゃん、また村に来てね……」

「また一緒にあそぼ……」

 別れに涙ぐみながらも、たどたどしく言葉を口にする小さな声たち。

 わたしは胸に温かな気持ちが一杯となるのを感じつつ、頷いた。

「うん……きっといつか、戻ってくるから……」

 わたしは二人の髪を愛おしく撫でて、名残惜しくも、そっと立ち上がる。


「短い間ですが、本当にお世話になりました」

 わたしは集った村人たちに深々と礼をした。


「いってらっしゃい!」

「元気でね!」

「また村に帰って来いよ!」

 光のような愛情に満ちた声援だった。

 本当に温かな人たちだと、しみじみと思う。


「――はい、行ってきます!」

 わたしは清々しい思いに胸がいっぱいとなりつつ、村の外に続く道を進んだ。


 一歩一歩を踏みしめるごとに、心が海のように沸き立つ。

 村の入り口から続く先には――出立の準備を終えたサイネリアさんたちが待っていた。

 隊列を組んで並ぶ『セフィラの盾』の兵下たち。

 その中心で、一台の馬車が待機しており、その前ではサイネリアさんが立っていた。


「テイル殿、我々と供に来ていただけること、心より礼を申し上げます」

 慇懃な所作でお辞儀をして、馬車の扉を開いた。

「さ、どうぞ馬車の中へ――」

 サイネリアさんが手を伸ばす。

 わたしは、最後に村を振り返った。


 まるで走馬灯にように、村で過ごした日々の思い出が蘇る。

 村の入り口では、今も村人たちが見送っていた。

 けれど、その中には、わたしにとって一番馴染みの深い少女の姿がいない――


「テイル殿……?」

 ぼうっとしていたところに呼びかけられ、わたしはハッと振り返った。

「どうされました……?」

「えっと、その――」

 わたしは、少しだけ逡巡する。

「あの……、すみません、もうちょっとだけ待ってもらえないでしょうか?」

「……? なにか忘れ物でも?」

 わたしは言葉を口にしようとして――しかしそこで諦めて肩を落とす。

「――いえ、やっぱりなんでもありません」

 わたしはかぶりを振った。

 いつまでも、未練がましいのはいけないと思う。


(シルフィ……、元気でね……)

 後ろ髪を引く思いを振り払らうように、わたしは馬車の中へと乗り込んだ。



       *



◆インタールード:テイルの友達、シルフィ・ラドグリフ◆


「はっ――はっ――」

 差し込む暁の光の中、私は駆けていた。


 白く眩く、村を照らし始める朝の輝き。

 徐々に世界は光に満ちていく――今は、それすらも焦燥に駆られる気持ちだった。


 早鐘を打つように、心臓の音が高らかに亢進する。

 高揚する気持ちに、頬が真っ赤に染まっていた。

 呼吸に喘ぐも、口の中がカラカラに乾いている。それくらい今の私は、興奮と緊張に頭が真っ白となっていた。


 ――本当は私だって分かっている。

 あの人の事を思うなら、私はこのまま村に残るべきだ。

 自分が行っては迷惑になる。

 こんな、何の役にも立たない無価値な人間があの人に付いていっても、歩みを邪魔することしかできないだろう。


 それを考えると――とても怖い。

 せっかくの足も石のように重くなってしまう。

 けれど――


 これが正しいなんて言いきれないけれど――


 初めてだったのだ。

 あんな風に自分を必要とされたのは――

 こんな自分を、友達と呼んでくれた人は――


 だから――応えようと思った。


 胸に灯った、たった一つの勇気を抱いて私は進む。

 私が村の入り口に辿り着くと、まさしく出発しようとしている時だった。


「あれ、シルフィ? どうしたの?」

 全力でやってきた私に対して、村人たちが振り返る。

 私は一度呼吸を整え、宣言した。

「ごめんなさい……。私も、行ってきます!」

「え!? ちょっと、シルフィ――」


 私が村を飛び出したのと同時に、馬車が発車し始めた。

 私は全力疾走した。

 心臓がはち切れてしまいそうなほど必死に駆け出していた。


「テイルさん!」


 前を走る馬車に向かって呼びかける。

 走りながらも、まるで嗚咽するように次から次へと言葉が胸を衝いて出てくる。


「私……強くなります! 今度こそ、逃げたりしませんっ!」


 想いが迸るように溢れ出す。

 激情のあまりに、目から止めどなく涙が出て、ぐしゃぐしゃになってしまう。

 みっともなくても、無様でも、それでも私は走り続けた。


「あなたの傍にいられるよう、頑張りますから! だから――だから!」


 肺が酸素を求めて上手く喋れない。

 けれど、これだけはハッキリと口にしなければならない。

 私はまるで懺悔するように一気に云い切った。


「だから、これからも傍にいさせてください! 私も一緒に行きたいです! 私も連れていってください!」


 その時だった。

「あっ――!」

 道中の石に躓いてしまい、足が縺れてしまう。

 あわや、身体が宙を浮いて転倒しそうになる。

 私は、転ぶ痛みよりも先に、追いつけないことが悔しくて、ぎゅっと目を瞑ってしまう。


 けれど――そっと何かモフモフとしたものがクッションとなって、私は転倒の痛みから免れた。

 私は驚いて目を見開き、自分を包み込んだものの正体を確かめる。


 ――尻尾だ。

 ――まごうことなき、尻尾だ。

 狐の尻尾、なのである。

 よく見れば、それは前方を走る馬車から伸びていた。


「シルフィ――っ!」

 馬車の扉を開け放ち、危険を顧みず身を乗り出して、テイルさんは尻尾を伸ばしている。

 私は尻尾をぎゅっと掴んだ。するすると尻尾は戻っていき、その勢いのまま、私の身体は馬車へと引き寄せられる。


「テイルさん!」

 私はテイルさんの胸へ飛び込んだ。

 テイルさんもまた、ばっと私を受け止めてくれる。


「ありがとう……ありがとう、シルフィ! 来てくれて!」

「はい、私も一緒に行きます……。私も、テイルさんと別れたくありません」

「うん……うん! 一緒に行こう――冒険へ!」

 

◆インタールード:END◆



       *



 かくして、真実を求める旅は始まった。

 少女は失われた自身の記憶を取り戻すために、戦いの渦中へと身を委ねていく。


 やがて彼女は知るだろう――今、この世界に覆いつつある脅威の正体を――

 そうして知るだろう――自らに課せられた宿命を――


 テイル――のちに、玉藻の勇者と呼ばれることとなる、この少女――

 もう一人、のちに、偉大なる聖女と呼ばれる少女、シルフィ――

 二人の少女は、この先幾多の出会いを経て、世界の命運を巡る戦いに巻き込まれることになるなどと、今はまだ知る由もなかったのである。


 そうして――伝説は始まったのだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

以上をもちまして、第一章完結となります。

テイルとシルフィの旅は、ここからがスタートとなります。


次回投稿ですが、第二章の構成を練るため、お時間を頂きたいと思います。

7月9日に第二章第一話を投稿予定です。

お手数ですが、下記よりブックマークやポイントを頂けると、次回作成の励みになりますので、どうぞよろしくお願いします。

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