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異世界転生したらエロ可愛い狐娘になって最強タンクです  作者: 白黒一
第一章. 狐少女の旅立ち編
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第十七話. セフィラの盾

 ――流石に疲労困憊の様子を見かねて、わたしはシルフィの家で休息を貰うこととなった。


 午後から、再び村長の家で集まる運びとなる。

 村長宅の居間へ行くと、すでに必要な人物は集まっていた。

 フランゼル村長、そして、先ほどの女性騎士と、従者らしき騎士が二人出席している。


 そこにわたしとシルフィが加わった。

 やってきたわたしを見て、口を開いたのは件の女性騎士だった。


「テイル殿、あなたがお休みになられている間、フランゼル村長からお聞きしました。

 ――あなたが『血に飢えし狼団ブラッドツァースティ・ウルフズ』、ならびに、盗賊団の頭目でもあり、異世界転生者と目されるカイラス・フォン・ファーゼンバーグを単身で倒した件、武人として深く感服いたします」


 そこで女性は一度言葉を切り、挑むような視線をわたしに向けた。


「単刀直入に言いましょう――あなたも、異世界転生者ですね」


 村長は驚いた。おそらく、そこまでは話していなかったのだろう。

 だが仮にも対異世界転生者を名乗る組織の部隊が、異世界転生者を単身で倒した人物と聞いて、何も思わない筈はないのだ。


「はい……」

 わたしは若干身構えつつ答えた。

 すると、女性騎士は表情を柔らかくする。


「ご安心を、我々はあなたに対して危害を加えるつもりはありません」

 あくまで敵意はない、といった風に両手を挙げた。

 

「――失礼ながら、こちらで村人たちから事情聴収しました。あなたが記憶を失っていること、並びに、村人たちから聞いたこの数日でのあなたの人物像から、あなたが我々の敵でないことを理解しております」


 それを聞いて、シルフィがほっと胸を撫で下ろした。

 わたしもまた、少しばかり警戒を解いて彼らと向き合う。


 女性騎士は、改まって姿勢を正し、わたしの視線に応じた。

「自己紹介が遅れました。私は『セフィラの盾』所属の神殿騎士(テンプルナイト)、第十七部隊長を務めるサイネリア・バルトシュタインと申します」


 女性騎士――サイネリアさんは、次に左右の騎士へと視線を向けた。

「こちらは副隊長のゲルトホークとマクシミリアンになります。二人とも、挨拶なさい」


「――神殿騎士(テンプルナイト)、ゲルトホーク・シルミットです」

 精悍な体格の男性騎士が応えた。

「同じく、マクシミリアン・ハーシェルと申します」

 実直そうな男性騎士がそれに続く。


 実に威厳のある紹介に若干気圧されつつ、わたしは率直な疑問を尋ねた。

「それで……あなたがたはどうしてこの村に? いえ、そもそも対異世界転生者の組織って――」

「そうですね……。我々について知って頂くためには、順を追って説明しなければなりません」


 サイネリアさんは、そこで一旦言葉を区切った。


「――貴方がたは『テラン王国』という名の国を、ご存じでしょうか?」


 そのように問われるも、記憶喪失のわたしには知るべくもなかった。

 シルフィと顔を合わせるも、彼女も知らないとばかりに首を振っている。

「確か……大昔に栄えていた国家の名前ですな……」

 唯一、フランゼル村長だけが心当たりあったようで、思い出したように答えた。


「そのとおりです。千年以上も昔に存在していた国です。

 ――かつては、非常に優れた文明を持ち、実質的に世界の中心地ともいえるような国でした。そして同時に、異世界転生の秘術をこの世界に生み出した国家ともいわれています」

 異世界転生の秘術――その言葉に、わたしは俄然興味を引かれた。

 サイネリアさんは、なおも話を続ける。


「かつての伝説です。この世界には、暗黒時代とよばれる混沌とした時代がありました。神話にある闇の女神ネルヴェの眷属である、闇の一族が幾度となくこの世界に姿を現し、人間と凄惨な戦争を繰り広げたと記録されています。

 世界が危機に覆われるその度に――テラン王国では異世界転生の秘術が用いられました。

 異世界に存在する人間の魂をこの世界に呼び寄せ、神の力を用いて新たな肉体を再構築させる。そうすることで、人類の守護者たりえる強大な存在をこの世に生み出すこと――それこそが異世界転生の秘術だったのです」

 滔々と語り始めたサイネリアさんに対し、わたしはジッと耳を傾ける。

 

「秘術によって選定される魂もまた、栄え抜かれた魂であり、召喚される異世界転生者は、いずれも武勇に優れた人格的にも高潔な存在だったと言われています。

 つまり本来、異世界転生の秘術とは、世界に重大な危機が迫ったときに、英雄に相応しい魂を召喚して、絶大な力をもった勇者として転生させる、禁断の術だったのです」

「英雄の……魂……?」

 異世界転生とは、そんな途方もない術だったのか――もっとも、果たして自分が英雄などという大仰な存在かと問われれば、小首を傾げたくはなるのだけど――


「そうして何度目かの異世界転生の秘術によって、闇の一族は滅び、世界に平和が訪れました。しかし――」

 そこで一度言葉を切り、サイネリアさんは、顔を曇らせた。


「その直後のことです。この世界を襲った謎の天変地異によって、当時隆盛を誇っていた中央大陸セントリア・ガルドは消失――テラン王国も海の底へと沈み、そこで異世界転生の秘術はこの世界から失われました。

 一説には、異世界転生の秘術を多用しすぎた、その代償とも言われています。

 そうして長き時もの間、異世界転生者とは伝説の中にだけに存在するものとして伝えられるばかりでした……」


 秘術の代償として、一つの大陸が海の底に沈む――そのようなことがありえるのだろうか? いや、ありえるからこそ、禁術として伝えられたのかもしれない。

 サイネリアさんは、そこで表情を固くした。


「ところが――です。ここ近年、異世界転生者と名乗る者たちの目撃事例が世界中で急増しているのです。それらに共通しているのが、常人には及ばないような絶大な力や特異な能力をもっているということ。未知の知識や技術を持っているということです」


 その言葉に、わたしは晃くんのことを思い出す。

 彼の持つ『瞬間移動能力(テレポーター)』や凄まじいまでの魔力――それと同じような力を持った存在が、他にもいるというのだろうか。


「無論、それだけならばよかったのですが……。問題は、伝説とは違い、彼ら異世界転生者の多くが、揃ってその強大な力を利己的な理由のために使用しているという点です」

「利己的、ですか……」

「はい。例えば、力を持て余して犯罪に走る者、未知の錬金術を用いて徒に経済を混乱させる者、悪意のある国家や組織にその力を利用され、結果的に多くの被害を齎す者、様々です」

 サイネリアさんの声色は、そこで一段と固くなった。


「そしてその最たるものが、ここ数年になり西方大陸で問題視されています。あなた方にも聞き覚えはあるはずです。グラヴァシャル帝国の名前を――」


 その名前を聞いて、村長やシルフィの顔がハッとしたものへと変わる。

 わたしだけが訳が分からず、サイネリアさんに尋ねた。

「グラヴァシャル帝国……? それは一体何ですか?」


「南方大陸スードリ・ガルドに存在する国家です。ほんの十数年前まではただの小国でしかなかったはずの国ですが、ここ近年で異常なまでに勢力を拡大し、またたくまに南方大陸を制圧。軍国覇権主義を掲げて、現在も他の三大陸へと侵略の手を伸ばしております」

 

 サイネリアさんは、なおも言葉を続ける。

「これは西方大陸ではあまり知られていないことですが……。先代皇帝の名はガレムゾン・ド・グラヴァシャル四世――そして簒奪によって生まれ変わった今代の皇帝の名前はユウト・アサギ――自らのことを、異世界転生者と名乗っているのです。

 加えて、皇帝の臣下には数多くの異世界転生者が集っており、他国への侵略では彼らが陣頭に立ち、鬼神のごとき強さをもって絶大な被害を齎していると報告されています」


 その事実に、今度こそわたしたちは驚いた。

 異世界転生者による帝国――そしてそれが、ウィル・ファザードの各国に対して侵略を繰り広げているなどとは――それでは、まるで――

 女性騎士は凛と表情を引き締めた。


「おそらくはあなたの考えている通りです。――はっきり申し上げましょう。今、この世界では、異世界転生者と名乗る者たちによって侵略を受けています」

「――――!」

 瞠目するわたしたちに、サイネリアさんは毅然と表情を引き締めた。


「我々『セフィラの盾』は、急速に勢力を伸ばす帝国の異世界転生者に対抗するために、西方大陸の各国が協力して成立された軍です。

 その活動内容は、異世界転生者への対抗手段の研究――その一方で、異世界転生者を保護、もしくは、帝国の異世界転生者など、悪意ある異世界転生者に対してはこれを殲滅することを至上と掲げています」


 女性騎士は、そこで視線をわたしに投げかけた。

「テイル殿、あなたが昨晩戦ったカイラスもまた、危険となる異世界転生者として、重要手配されておりました。我々がここに来たのは、カイラスの抹殺が目的でした。我々に代わってその任を果たしてくれたこと、感謝を申し上げます」

「それは……」

 わたしは口ごもった。

 カイラス――いえ、晃くんのことは、倒したくて倒したわけじゃない。

 また、直接彼を殺したのはわたしじゃない。それでも彼の死に対し、少なからず責任を感じていたのだった。


 そんなわたしの内心など露知らずといった態で、サイネリアさんは言葉を続ける。

「我々には使命があります。帝国の侵略からこの世界を守ること。そして同時に、この世界に今何が起こっているのかを解明するという目的が――そこでです。テイル殿、あなたに提案があります」

 女性騎士は、真摯な視線をわたしへと向けた。


「テイル殿、どうか、我々と一緒に来ていただきたい! 『セフィラの盾』に入り、我々の活動に協力していただきたいのです!」


 その言葉に、わたしとシルフィは愕然と目を見開いた。

 女性騎士の提案は続く。

「先ほども申し上げた通り、我々は異世界転生者の保護を行っております。また、帝国の異世界転生者に対抗するためにも、力ある異世界転生者の協力は必要なのです!」

「えっと、それは……」

 わたしは返答に迷い、言葉に詰まる。


 そこに精悍な体格の男性騎士――ゲルトホークさんが付け加えた。

「無論、ただでとは言いません。我々に協力していただけるのなら、その間、貴方の衣食住を保証し、十分な報酬を支払うと約束しましょう。加えて申し上げるのなら――」


 その先を言ったのはサイネリアさんだった。

 わたしにとって、これ以上ないというほどの衝撃的な言葉を口にする。


「テイル殿、我々ならば、あなたの失われた記憶を取り戻すためのお手伝いができるでしょう」

「――――っ!」

「『セフィラの盾』では、異世界転生の秘術に対する研究も行っております。あなたがこの世界に転生するときに、どうして記憶を失ったか、その手掛かりとなるものがきっと見つかるはずです。記憶を取り戻すためのサポートも、できる限りいたしましょう」


「あ…………」

 わたしは自然と口から声が洩れた。

 心の奥で、ずっと燻っていた思いが燃え広がるのを感じる。


「どうしますか? 我々とて、無理強いはしたくありません。決めるのはあなたです、テイル殿――」


 差し出された選択肢――

 村に残って平和に過ごすか、それとも、彼らに付いていくか――


(わたしは……)


 この村はすごく居心地がいい。

 シルフィや、村長たちも、わたしのことを受け入れてくれている。

 この村にいれば、ずっと穏やかに過ごすことができるだろう。

 記憶がなくても――きっと自分は幸せになれると思う。


(けれど……)


 どくん、と心臓が高鳴る。

 この村に来てから、ずっと消えなかった思い。

 自分に与えられた使命のようなものを感じていたのだ。


(答えは……)


 煩いくらいに鳴り続ける心臓の音――

 心の奥底から囁き続ける声――

 指し示された二つの道――そしてわたしは、選び取った。


「行きます……。わたしは、全てを知りたい……!

 自分が何者なのか――なぜこの世界にやってきたのか――自分のなすべきことを、全て知りたいです!」


 その時だった。

 だっ、とシルフィが突然身を翻して出ていったのだった。

「シルフィ……?」

 突然部屋から走り出していった彼女に対し、一瞬困惑する。

 しかし、すぐさまその理由に思い至った。


「――シルフィ!? すみません、ちょっと失礼します!」

 わたしは彼女を追いかけるべく、村長の家から飛び出した。



       *



 時刻は、次第に夕暮れへと近づきつつあった。

 出ていったシルフィを追いかけ、わたしは周囲を探す。


 ――テイルさんは、私とずっと一緒にいてくれますか? 私を置いて、どこかに消えたりしませんか?


 それはシルフィがわたしに向かって問いかけた言葉だった。

 わたしがサイネリアさんに付いていくことは、同時にこの村を出ていくということだ。

 たとえそのつもりがなかったとしても、わたしの下した決断は彼女との約束を反故にしかねないものだったのだ。


 ずっと家族が欲しかったというシルフィ。

 その気持ちを――わたしは裏切ってしまったのだ。

 それも、彼女にとって、最も辛いであろう形で――


(最低だ……わたし……)

 今更後悔しても遅かった。

 わたしは必死の思いでシルフィを探す。

 けれど――追いついたところで、一体何を話すべきだろうか。


 やがて日は沈み、世界は黄昏の色に染まる。

(いた……!)

 シルフィは、夕暮れの道で佇んでいた。

 その背中に対して、わたしは呼びかける。


「シルフィ――っ!」

 彼女は振り返ることもしなかった。

 わたしに背を向けたまま、じっと佇んでいる。


 全力疾走でやってきたわたしは、膝で息をつきつつ、彼女に追い縋る。

「ごめんね、シルフィ……! わたし――」

 けれど、その先の言葉が出てこない。

 当然だった。サイネリアさんに付いていくこと、それはどうしようもないほど、自分の確かな気持ちだった。今更それを覆すことなんてできないほどだ。


「わたし……シルフィに嘘つくつもりなんてなくて……でもっ!」


「――テイルさん(・・・・・)


 驚くほど淡々とした声だった。

 そこで彼女が振り返る。

 彼女は――微笑んでいた。


「早く……記憶が戻るといいですね……」

 その言葉尻が震えて聞こえたのは、決して気のせいではなかっただろう。

 わたしが何かを告げるよりも先に、彼女は再び走り出してしまった。

 零れ落ちた涙が――夕日に照らされて、真珠のように光る。


 今度は――追いかけることすらできなかった。

 ざあっ、と風が舞い上がる。

 伸ばした手は、決して届くこともなく――虚しく宙を彷徨っていた。

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