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人は痛い思いをしないと学ばないのか  作者: 妖精さん


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第30話 11/3 就職

茫然自失状態の山本です。


まさかあんなことを言われるとは思わなかった。


あまりにも人の心がない。相手を思いやる心がないのか。


確かに事実であることは否定できない。


しかしそんなに事実で相手を殴って許されるのか。


orz姿勢から立ち直れない。


俺はここまでなのか…。


「そんなに君の母親から言われた『いい加減そろそろ働いたら?』の言葉が効いたのかね?」


阿武さんがあきれた様子で話しかけてくる。


「いや、自分でも働かないとなーとは思っているんですよ?自分で『どうも無職です』というのはいいんですが、他人から言われるのがちょっと…。前は母も就職はあきらめていたのにまた思い出したみたいでことあるごとに言ってきまして。実際のところ働かなくてもいいくらいお金はあるし。そもそも雇ってくれるところがないんですよ。俺が働いてたらマスコミだの週刊誌だの大量に涌くと思うので迷惑かけるし。」


<<履歴書一部抜粋>>

年齢:45歳 独身

直近の職歴:12年間モンスター間引き(非公認)

資格:普通自動車免許、C級探索者(剥奪済み)

特技:四肢切り落としと生き埋め(本人非公認)


誰が採用するねん。


「それにちゃんと毎日ダンジョンに入って稼いでいるんですよ。一日一回の縛りを取ったから何回でも入り放題だし。」


「いや、そんな早口で私に言われてもねぇ…。」


ダンジョンコアに依頼して、以前のルールのうちの『③一日一回だけしか入れない』というのを撤廃した。念のため押し入れダンジョンで稼げるようにしておいたのだ。ダンジョンのリソース問題は俺とテイムモンスターが20年以上魔力を徴収されてたから潤沢らしい。最近では井戸ダンジョンで稼ぎつつ鍛える毎日だ。


ただ誤算があった。アイテムだろうが魔石だろうが、俺に伝手がないから換金ができないのだ。買いたたかれるのを覚悟でダンジョン協会に持ち込むしかないが、下手すると買い取り拒否されるだろうし、現時点ではお金に困っていないからまだ一層目の保管庫に入れて放置している。入れれば入れるだけ巨大化する保管庫に少し恐怖を覚えている。とうとうテイムモンスターが巨大化しても大丈夫なくらい大きくなった一層目。将来的にダンジョンで1番大きなフロアになるんじゃないかこれ。


一日一回の縛りを解除した結果もう一つ変化があった。


阿武さんと合津さん、信濃さんがダンジョンに入るようになったのだ。それもセーフゾーンの第一層目ではなくきちんとしたダンジョンだ。とりあえずダンジョンコアと相談して、作成した初心者用ダンジョン(30階層)を阿武さん・合津さん・信濃さんの3人で攻略してもらっている。


信濃さんは探索者経験ありなのでまだわかるが、阿武さんと合津さんは意外だった。


年も年なので無理スンナといいたいが、真剣な表情だったので冷やかすことがためらわれた。なので理由も聞けずじまいだ。まあレベル的なものが上がれば体が若返ったように動けるようになるしいいか。


奥羽さんは女性で戦いは好まないらしくダンジョン探索はしないとのこと。


奥飛騨さんは研究者気質で時折ダンジョンコアの端末を使ってダンジョンコアに質問をしている様子。探索は「動ける人にお任せしますよ。」と話していた。が、俺は真実を知っている。実は一回ダンジョンに入った瞬間モンスターが大量に配置されているトラップルームに出て瞬殺されたことを気にしているのだ。クソゲーだね。


井戸ダンジョンで手に入れた装備を渡せば簡単にクリアできるだろうが、戦い方など覚えてもらうためすべて自力で行ってもらう。まあ、一層目の施設を使えるから回復や装備の更新などができる分難易度は低めだ。


信濃さんのメイン武器は槍。阿武さんがメイス、合津さんはでっかいハンマーがメイン武器になっている。なんでごっつい鈍器を使うんだか。ダンジョンから出てくるときにすっきりした表情に見えるのは気のせいだろうか。


母はダンジョンの一層目のセーフゾーンだけ入っているが探索はしていない。ただダンジョン自体に興味はあるようで、ダンジョンコアの端末に「巻物とかあるの?」とか「食べ物も落ちていたりするの?」とか変な質問をしている。そもそもここのダンジョンはお腹すかないし、落ちている食べ物なんか汚くて食べられないじゃないか。取る猫?試練?なんのこっちゃ?


そうして阿武さんたちがダンジョンに入り出して2か月くらいがたったころ、ようやく初心者ダンジョンをクリアーした。さすがに一日一回の縛りをなくしたとはいえ、一日に何度もダンジョンに挑戦するのは精神的に厳しかった様子。


「おめでとうございます。とうとう初心者ダンジョンとはいえクリアーしましたね。」


「ああ、ありがとう。しかしダンジョン攻略がこんなに大変だったなんて知らなかったよ。」


「本来はモンスターの間引きがメインになりますからね。ダンジョンに深く潜ることはほとんどないはずですよ。」


そう、基本的に探索者は氾濫を未然に防ぐためにモンスターの間引きを行う。宝箱といったものはほぼないし、モンスターからのドロップアイテムも低確率なものが多い。が、この初心者ダンジョンはドロップ確率が普通のダンジョンより高く設定されている親切設計。


「この初心者ダンジョンはランクで言うとどの程度になるんだい?」


「基本的なモンスターはC級、最後のボスだけB級ですね。難易度はC級の中でも下位ですね。ドロップ率高めですし。」


「最後のはボス扱いか。あの赤鬼。」


「一応オーガらしいですよ、あれ。ダンジョンコアが名前にはこだわっていましたんで。」


金棍棒持って角が生えているトラ柄パンツを身に着けた真っ赤なオーガ。どう見ても赤鬼だよな。


「まあ、それはさておき、山本君。ちょっといいかい。話しというか相談があるんだが。」


「はい、なんでしょう。」


「まず、今回ダンジョン攻略という貴重な体験をさせてもらったこと。本当にありがとう。」


「いえいえそんなお気になさらず。」


「この国は後3か月もしたらダンジョン氾濫が起こる。そんな中モンスターと戦う機会を得られたのは幸運だった。探索者というものがどのようなものなのか。肌で感じることができた。」


真剣な表情で話しをしてくる阿武さん。合津さんと信濃さんもやってきた。


「特装隊と違って対モンスター装備なしであいつらと殺り合うんだ。今まで報告書でしか知らなかったぜ。」


「私も何回か探索者としてモンスターを倒したことがありますが、ここのダンジョンはかなり優しい部類ですね。モンスターから殺気があまり感じられない。」


「そのあたりはダンジョンコアと相談して難易度設定しましたから。」


「本当にダンジョンを支配しているんだねぇ…。」


合津さんから何かあきれているような印象を受ける。できるんだからしょうがないじゃないか。


「それで阿武さん。相談というのは?」


「ああ、そうだった。前に就職しないと~って言っていたじゃないか。」


「うっ…ありましたね…」


「そこでダンジョン関連の配信をしてみるのはどうだろうか?」


「配信ですか?」


これまた意外な言葉が阿武さんから出てきた。


「なぜに配信です?でも俺この国から嫌われているからろくなことにならない気がするんですが。」


「まあ、今のところ君が配信してもバッシングしか起きないだろう。いくら真実を伝えようがゆがめられてしまうだろう。だが、あと3か月後氾濫が起きてからは話がガラッと変わる。今までの話しが実は真実だったということになる。その時に山本君が何を主張していたかを明確に記録にしておいた方がいいと思ったんだ。」


「証人喚問の記録だけでは足りませんか?」


「あれはそもそも野党連中が好き勝手に言いたい放題していただろう?君の主張をきちんと届けた方がいいと思ったんだよ。」


まあ公金横領ありきで話しを進めていたからな。一回の答弁で俺の主張時間は1分も満たないのに、あの燈九は5分くらいべらべらしゃべってたし。


「そしてもう一つある。」


合津さんと信濃さんが話しに入ってきた。


「山本君がダンジョンについて説明したりモンスターの情報を配信することで、国民が生き残るすべを残しておいてやりてぇんだよ。信じる信じないは別にしても、何も知らねぇよりは知ってた方がいい。」


「9つのダンジョン氾濫で数万人が被害に遭う。その際に少しでも被害を抑えたいのです。山本さんはさんざんひどい目にあったというのに、さらに追い打ちをかけるようで本当に申し訳ありません。ですが、何も知らない国民に機会を与えてほしいのです。」


申し訳なさそうに話す合津さんに、深々と頭を下げる信濃さん。そして一緒に頭を下げている阿武さん。


国民から信用されずNOを突き付けられて、引退までしているのにまだ国民を守ろうとしている。


正直かっこいいと思ってしまった。自分を犠牲にしてでも国民を守る。まさにヒーロー。


俺はそこまで達観できない。知らない相手なら『勝手にどうぞ死んでいいよ』と思ってしまう。


だがほんの少しだけ、彼らの真似をしてみるのもいいかもしれないと思ってしまった。




「わかりました。やってみます。配信ってやつ。ちょうど無職ですし、職業ヨウツーバーってやつになってみますよ。」


でも素直には言えないから軽口を混ぜながら、ほんの少しだけ進んでみようと思う。



思っていることを文字にすることの難しさを痛感しております。

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― 新着の感想 ―
この人達、名実共に最強内閣目指してません? まぁ東日本大震災時の民主党政権を見れば、現エリマキ政権に何も出来ないのは明白ですが・・ 氾濫後は間違いなく無秩序・無政府状態でしょうから、個人の武力があって…
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