第26話 4/13 無能と裏切者と野心家
SIDE:燈九 蓮宝
不信任案決議の後、最短で選挙を行った結果、見事我が党が与党に躍り出た。
これは今まで野党第一党どまりの我が党の悲願といえる。3分の2以上を占める大勝利だ。
阿武総理は辞任し引退。それにベテランの合津・奥羽・奥飛騨・信濃も引退。残った若手だけでは国民の理解は得られず野党の位置。しかも野党でも3番目の位置と大転落。
我が党の完全勝利だが、これで安心はできない。
今まで阿武元総理が手を付けなかったところにどんどん改革のメスを入れていきましょう。
さて所信表明に行くとしましょう。
「内閣総理大臣 燈九 蓮宝君」
議長が私の名前を高らかに宣言する。ついつい笑顔が出てしまう。
「ご指名にあずかりました。燈九 蓮宝です。この国のこれからの未来のために全力を尽くす所存です。まずは…」
今日の国会での仕事は終了した。
これから政策について話し合いを行わなければならないがその前に面会がある。
『コンコン』ドアが叩く音がする。
「どうぞ。よく来てくださいましたね。一色さん」
一色 緑議員。旧政党から我が党に鞍替えをした男。正直信用はできないが、旧政党の弱みだけは誰よりも知っている男だ。
「いやー、見事な所信表明演説でしたねぇ。国民もしっかりとしたリーダーが誰なのかわかってよかったですねぇ。」
にやけた顔と猫なで声で話す姿は気持ち悪いの一言だ。だがこんなのでも使えるものは何でも使わなければ。
「一色さんは阿武元総理の元で働いていましたが、何か気になるところはありますか?」
「そうですねぇ…私は常々国防について阿武元総理に訴えていたのですが、特装隊の戦力増強には頑として反対をしていました。元総理は『特装隊を増加する前に、対モンスター兵器の効率化を図れ』の一点張りでした。今思えばこれは特装隊を増やすと、ダンジョン間引きの嘘がばれやすくなるからではないかと思いました。」
なるほど、特装隊が増えて頻繁にモンスターの間引きのためにダンジョンに入るようになると、今まで元総理が訴えていた『山本がダンジョンを間引いていた』という話しが客観的に評価されるようになる。いつ入ってもモンスターの姿が見えないとするなら、最初からモンスターが少なかったところを『間引いてました』と偽ることができるからな。
「では私は阿武元総理とは逆の方向を目指しましょう。特装隊を増強する。国内だけでなく海外にも派遣できるようにして国際的な地位を確立しましょう。」
「それがよろしいかと思いますよ。燈九総理。」
一色が退室したあともう一人の面会者がやってきた。
「失礼します。燈九総理。」
「里石さんよくいらっしゃいました。」
里石 巴現ダンジョン協会支部長。前の証人喚問からトップになった男。息子を通して情報のやり取りはしていたが実際に会うのは久しぶりです。
「それで総理、お話というのは?」
「これからの予定ですが、特装隊を増員しようかと思っています。それで探索者の方を特装隊に入隊していただくことができないかご相談をと思いまして。」
「ふむ…ちなみにどの程度の人数を?」
「8万人ほど計画しております。」
「!8万ですか…!?」
驚く里石。そうでしょう。今までの特装隊2万と比べて一気に4倍の募集ですから。
「…今の探索者で希望者を募りましょう。条件次第で特装隊に入るものも多いはず。」
「ええ、最終的には判図に指揮を執ってもらおうかと考えています。S級の肩書なら申し分ないでしょう。それに対モンスター兵器を増産する予定です。これなら多少階級が低くてもモンスターを倒せるでしょう。」
「それなら協会の地方支部にいるB級・C級の探索者なら喜んで入隊するでしょうね。」
「ではその方向でお願いします。」
施政方針演説。今後の政策を伝えていく。
「私は阿武元総理とは異なる路線を歩みます。特装隊を増員し、対モンスター兵器を増産し、それを使ってダンジョンの間引きを行っていきます。また、国内だけではなく、ダンジョン氾濫で困っている海外の国にも派遣できるよう環境を整えていきます。これからわが国は『一人』で国を守るのではありません。特装隊がこの国を、この世界を守っていくのです。そのために、まず『減らずのC倉庫』に対して鑑定職人を追加で派遣します。魔石鑑定を増やし装備の充実を図っていきます。」
拍手の嵐の中私の発言が終わる。
自分の席に戻りながら今後のことに思いをはせる。
対モンスター兵器の数を確保できればいくらでも特装隊は増やせるはずだ。息子を旗印として使って探索者を特装隊に入れる。いいタイミングでボスモンスターを倒してくれた。
元総理たちはあの山本の実家近くに逃げ込んだらしい。これなら政界に復帰することもないだろう。
当面の敵はいなくなった。これから私の時代がやってきますね。




