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人は痛い思いをしないと学ばないのか  作者: 妖精さん


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第25話 2/20 S級探索者 織田 清州

SIDE:探索者


わしの名前は織田 清州(おだ せいしゅう)。今の職業は探索者だ。探索者になってからかれこれ55年になるか。今年で75歳になる。一応S級の称号を受けている。


以前はアイドルってやつで4人組ユニットのダンス担当だった。結成当時はアイドルグループなんて珍しくもなかった。唯一のアピールポイントは4人全員が探索者の資格を持っていたくらいだ。正直言って人気はあんまりない方だったか。


転機は50年ほど前だ。結成して3年目。地方にドサ周りをしていた先で氾濫に遭った。


A級ダンジョンの氾濫でダンジョンボスは出現していなかったが、雑魚モンスターが大量に湧き出してきた。


その時わしは25歳、探索者としては5年経験はあったが、アイドルも兼任していたためダンジョンに潜ることも少なく大した強さはなかった。せいぜいC級探索者の真ん中程度だ。ほかのメンバーも同程度の力しかなかった。


そんな中で氾濫が起きた。グループ4人死に物狂いで戦ってなんとか生き延びた。でも周りでは何人も人が死んでいった。


守れた人もいた、守れなかった人もいた。


悔しかった。もっと探索者として力をつけておけばよかったと後悔した。周りは「よく頑張った。よくみんなを守ってくれた」と言ってくれた。でもわしたちは守れなかった人を忘れることはできなかった。


この一件があって探索者として生きていこうと思い、アイドルを辞めようとした。ほかのメンバーも同意してくれた。しかし事務所が止めてきた。


当時『氾濫で人々を守って戦ったアイドル』というのはインパクトが強くて事務所も手放したくなかったのだろう。また、『氾濫で人々を守って戦ったアイドル』という立場を使って啓発活動をすることで人々に注意喚起ができるといわれると、わしとしてもアイドルを続けざるを得なかった。


35歳を過ぎてアイドル業はきついということで俳優に転向。その間も探索者として細々と活動していた。


だが、どうしても探索者の道をあきらめきれず、今から20年ほど前に俳優業は引退。北の大地でS級ダンジョンの氾濫相手に間引きを行う日々だった。


一般的に探索者はモンスターを間引いたり、ダンジョンに潜っている期間が長ければ長いほど老化が遅れる。詳しい研究はないが今では『モンスターを倒したときに獲得した経験値でレベルアップした影響』といわれているらしい。レベルだの経験値だのも具体的なものではなく、探索者の何となくという感覚だ。だが70過ぎても昔のように動けるのだからありがたい。若返りには至らないようで髪は白く染まっているが。


S級ダンジョンの氾濫範囲は非常に広く、ボスモンスターに見つからずに間引きをしていくのがやっとだった。しかも近場に2つあったため北の大地の1割がモンスターに占領されていた。


20年前に氾濫で外に出ていたダンジョンボスは15m級の大きさの狐と熊だった。当時は遠くから双眼鏡で一目見て勝てる相手ではないと思ってしまった。


15年前にはS級探索者に昇格。実働5年でS級に昇格したことで驕(おご)ったわしは、他のS級探索者に誘われるまま、S級探索者15名と北の大地奪還と称して熊のダンジョンボスに挑んだものの惨敗。死者こそいなかったが15名中2名は腕や足の欠損の為再起不能となってしまった。


それ以降はダンジョンボスの動きを遠巻きに観察し鉢合わせしないようにしながら、氾濫範囲内の雑魚モンスターを間引きして氾濫範囲を広がらないようにしていた。


転機が訪れたのは12年前。ダンジョンボスが倒されたことだ。


熊のダンジョンボスと狐のダンジョンボスが争って両者とも消滅したと言われている。この狐と熊のモンスター同士が戦っている姿を見たものは多くいた。だがとても近づけるような戦闘ではないため遠巻きに観察したのみだ。情報も錯綜しており、他の場所では戦っていたモンスターは巨大な鳥や猿だ、など様々な話が出ていてよく分からない状態。戦闘が終わった後は熊も狐も姿かたちは見えなかった。気になったのは、狐のダンジョンボスは当時15mくらいだったはず。わしが見た狐のダンジョンボスは20mと熊より一回り大きい印象だった。これはダンジョン協会にも報告しているが、戦闘形態が二足歩行の熊と四足歩行の狐では差があるとのことで誤差ではないかといわれた。


ダンジョンボスが倒れ氾濫が終息してから12年。これまでS級ダンジョン内で間引きを行ってきた。S級内部のダンジョンボスはランダムで変わるがいずれも30m級の大きさ。S級が15名いても惨敗した15mと比べると倍の大きさ、とてもじゃないが戦う気にもならない。が、相手はなぜか襲ってくることはなくほかのモンスターを狩っている。手を出さなければ襲ってこないため、雑魚モンスターを狩ることで氾濫を防ぐ毎日だった。


ただ、何となく。ダンジョン協会にも言っていないただの勘なのだが、ランダムで現れるボスモンスターのうちの一匹、30mの大きさの九尾の狐を見るたびに、あの熊を倒したのはこいつなんじゃないかと思うようになった。


12年間S級ダンジョンで間引きを続けたわしは、北の大地のダンジョンご意見番扱いをされるようになった。テレビも元芸能人のわしを使いやすいのだろう。だがダンジョンの危険を伝えていくにはちょうどいいから、できる限り引き受けていった。


そんなある日『A級ダンジョン内でダンジョンボス討伐』のニュースが舞い込んできた。30m級のスレイプニルを相手に勝利したというのだ。しかもパーティーメンバーはたったの4人とのこと。


15人がかりで15m級の熊に全滅しかけたわしからしたら到底信じられないニュースだ。


配信映像を確認してみる。が、あまりにお粗末な戦闘だった。


バフに時間をかけすぎ、事前の作戦通りにいかないと混乱、デバフが効くかどうかの確認もなくぶっつけ本番、最後の攻撃も対モンスター兵器頼み。そもそも突進を盾持ちが受けきれると言う想定は楽観的すぎる。15m級でも倒せる気がしない。


だが30mのスレイプニルはいなくなっている。そこが腑に落ちないところではある。腑に落ちないが、スレイプニルがいなくなったことは確実だ。倒したのであろう。そう自分に言い聞かせる。


それと同時に各地のA級・S級ダンジョンからボスモンスターがいなくなったと報告が届く。ランダムで変わっていたボスモンスターは一体倒すと10匹全部消滅するのだろうか。疑問は残るがせっかくの勝利に水を差すこともないか。


ボスモンスターが討伐されたことについて、北の大地TVで特集を組むとのこと。そこに出演依頼が舞い込んできた。ちょうどいい、ボスモンスター討伐の情報をいろいろ尋ねてみることにするか。そう思い出演依頼を引き受ける。




テレビ撮影の日がやってきた。北の大地TV前では男性二人と着ぐるみが大はしゃぎしている。四国お遍路に行くようだ。楽しんでくるといい。そんな様子を横目にテレビ局へ入る。


「清州さん今日は出演ありがとうございます。」


「なんの、わしもボスモンスターには興味がありましたからな。」


テレビプロデューサーと雑談しながらスタジオに入る。


「今日なんですが国士無双のボスモンスター討伐のコメントともう一件、先日の探索者の事件についてコメントをしていただきたいのですがよろしいですか?」


「ええ、10人くらいを病院送りにしたとか。大丈夫ですよ。」


など打ち合わせをしている間に時間が来たため収録がスタート。早速ボスモンスターの話題に入る。


VTRを見ているが…うーむ…何度見ても稚拙な動き、作戦。これでなんで倒せるんだ?スレイプニルは上を向いているだけで相手にもされていない気がする。ん?相手にされていない?スレイプニルにとってあの程度は気にするまでもないとか?一番最後は対モンスター兵器が光って何も映っていない。その間にスレイプニルはどこかに行ったとか?いやあの30mの巨体でどこに行く、どこに隠れられるのだ?


疑問がぐるぐると巡るが口に出さない程度の分別はつく。結局ボスモンスターに関する新しい情報はないか。


コメントを振られたため、「今回の消滅は非常に喜ばしいことです。これでダンジョンの安全につながることを願っております。」と無難に話しをしておく。いや戦い方で褒められることは何一つないんだ。プロデューサーすまないね。


さて、いったん休憩。改めて事前に先日の事件とやらの詳細を尋ねておく。11人の探索者の四肢を切り落としたと。なぜこんなことをしたのか尋ねてみるが、プロデューサーは明確な返答を避けている様子。何か裏があるのか?


まあいい。ダンジョン氾濫が収まって人同士で争うことのないように話しをしていくとしよう。


CM明けになるであろうタイミングに事件の説明が始まる。山本という探索者の自宅前で11名の探索者が襲われ、全員四肢を切り落とされて重傷、一人はさらに全身やけどを負う生死不明の状態と。


「ではこの件に関して、清州さん何かご意見はありますでしょうか?」


「探索者同士で争うのはダンジョン氾濫が収まり余裕ができたためでしょうかね。その余裕をダンジョンの間引きに使っていただきたいものです。」


無難な回答を行う。あとはVTRを見ていよう。


モザイクがかかっていてわかりにくいが一瞬で四肢を切り落としている。炎を剣にまとわせたり一瞬で手足を切り落とす速さには目を見張るが、剣を振るうときは腰が入っていない。手加減している?その割にこの切れ味。この武器はなかなかの代物か。ん?前日の様子?3人組を殴るシーンか。…これは!


「ちょっとまて!この殴るシーンもう一度流せるか!?スロー再生も頼む!」


思わず怒鳴ってしまう。


ブース内部があわただしくなっているのがここからでもわかる。迷惑をかけてしまったようだな。だが確認したいことがある。


スロー再生を見てみる。玄関から出てくる。興奮して一人が近づく。次の瞬間近づいた一人が吹き飛ぶ。やっぱりそうだ。映像に一コマだけ映る恐ろしく早い踏み込み。なのに顔面の形が残る程度に手加減されている。


「この殴った人は誰じゃ?」


「これが今世間で騒がれている山本将太容疑者です。」


アナウンサーがそう話してくる。山本将太。氾濫を一人で制圧したと話す詐欺師ということだが…。


「恐ろしく強いな。わしでは絶対に勝てない。この映像では限界まで手加減しているのが分かる。あの速さの踏み込み、なのに鼻血が出る程度に抑えられてる。本気を出したら殴られた相手はおそらく頭が破裂していただろう。」


え!?といった顔でアナウンサーがわしを見てくる。


「彼が相手となれば中途半端な探索者が11名集まったところで返り討ちに遭うのもわかる。わしと比べるのもおこがましいほどの差が感じられる。それほどの踏み込みの鋭さ。こんな人物がいたとはな。ところでなぜこの山本という探索者の自宅前に11人も探索者が集まっていたのかね?それになぜ彼らは四肢を切り落とされることになったのかね?」


「えーっと…長くなるのでそのあたりは後で説明しますね。いったんテープチェンジだそうです。」


そういうとテープを交換するために休憩に入りアナウンサーはわしへのコメントを切り上げた。なるほどプロデューサーが口ごもっていたのと同じようだな。


後日放送の際に、殴った後の映像以降わしの発言は無くなっていた。都合が悪いと言うことか。


しかし山本将太か。一度会ってみたいものだ。



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― 新着の感想 ―
この織田の爺ちゃん?が今をときめく精神的被害者の織田さんがポロッと話してた爺ちゃんじゃない?
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