第24話 2/17 捨てたもんじゃない
SIDE:阿武 隈岳 総理大臣
本来二回目となる予定だった証人喚問が今日だ。
一昨日の山本君の事件で証人が出廷出来ないとのことで、通常の審議となった。
「皆さん御存じかと思いますが、一昨日の事件をみていただければいかに山本将太が危険であるかがご理解頂けたかと思います!あのような危険極まりない探索者に対してあろうことか税金を横流ししていたことに、私は憤りを隠せません!これは直ちに総理自身が責任を取り辞任していただかねば国民が納得いたしません!」
燈九議員が大騒ぎしているがアジテーターとしての能力は一流だな。見事にテレビや新聞、週刊誌やネットなども山本君の非難で統一されている。偏向報道極まれりだな。
どうせ1年後にはあいつら黙るか死ぬだろうと思いながらも、山本君のことはきちんと伝えておかなければならないと思い直す。どれだけ世間から信じてもらえなくても、私は信じる。その意思は示さねばならない。
「内閣総理大臣、阿武隈岳君。」
議長が私の名前を呼ぶ。説明責任を果たすとしよう。
「先日の一件で奇しくも山本氏の実力の一端がおわかり頂けたかと思います。そもそも山本氏の家を襲撃し返り討ちに遭ったことを伝えず、襲撃者を単なる被害者と報じる今のマスメディアや、それに触れようとしない燈九議員たちの有り様に苦言を呈さざるを得ません。はじめに山本氏がダンジョンの間引きをしていたことを信じず、横領などと冤罪を押し付けた。そして民意を自分たちに都合のいいように誘導し山本氏を不当に攻撃して、山本氏から協力を得られない状態にしたあなた方の責任は重い。」
「犯罪者の肩を持つのか!」
「人のせいにするな!」
「横領を正当化するな!」
ヤジがうるさいな。国民に選ばれた代表とは思えない有様だ。燈九議員に至ってはにやけ顔が我慢できないようだ。見ていて不愉快な表情。
「はぁ…」
思わずため息が出てしまう。今まで合津さんと散々話し合った。その結果、現状を変えることは不可能だという結論に達した。山本君の実力をはなから認めない、認めようとしない連中に対してどれだけ説明をしても理解は得られない。同じ言葉を話しているはずなのに、理解が及ばない。合津さんも私もため息しか出なかった。痛い目を見ないとわからない。ただその痛い目は数万人の命だ。到底納得できるものではない。納得できないが受け入れざるを得ないのだ。
もうこの国は終わりだ。氾濫が起きた時に気が付いても遅い。どの面を下げて助けてもらおうというのか。今まで攻撃し続けた相手に恥知らずにも助けを乞うのか。
「…山本君はこの国を見限ったことだろう…。当然だ。今までこの国を守ってくれていた彼にひどい仕打ちをしてきたんだ。恩をあだで返した。私は…彼を守れなかった。」
思わず顔を抑えてしまう。後悔しか出てこない。目立ちたくないという彼の言葉を尊重した。これは間違っていない。彼の願いをかなえることは決して間違いではない。ではどこで間違えたのだろう。
「あんな詐欺師に金を流すことの方がひどいじゃないか!」
「犯罪者を守るなど恥を知れ!」
「この国を今も守っている善良な探索者に対して謝れ!」
ああ、そうか。こんな奴らが国民の代表にいるからか。事実を見ようとせず都合のいいことだけを受け入れて他人をたたく。だがこんな奴らでも国民が選んだ代表だ。じゃあ国民が悪いのか?いや、国民すべてが悪いわけではない。こいつらに踊らされている国民だっているはずだ。どうすればいい…。どうすれば真実がみんなに届く?どうすれば私の声は届くのか…。
悩み、考えるが答えは出ない。
「もういい阿武ちゃん、好きにやんな。」
ふと大きい声でもないのに合津さんの声が聞こえた。顔を抑えていた手を放し、合津さんを見る。腕を組んで口をへの字にして不機嫌な、殺し屋のような表情。目が合った瞬間、首を縦にして頷く。
そうだ、合津さんと話したんだ。もう痛い目を見ないと学ばないところまで来たんだと。数万の命が失われることはもう受け入れたんだ…。ならばあとは山本君のことを、私と合津さんは決して裏切らないということを態度で示すのみだ。
「何と言われようと私は山本君の味方だ。彼はこの国を守ってくれていたんだ。彼には返しきれない恩がある。今度は私が山本君を守る番だ。」
ヤジが飛ぶ。山本君がどれだけこの国に貢献してくれたかも知らない連中が、彼のことを悪しざまにののしる。
「お前たちが…お前たちがそんなだから!山本君はこの国を見放した!お前たちが!お前たちが殺すんだぞ!国民を!」
発言台を叩き大声で怒鳴りつける。ヤジが止まり静まり返る。
「お前たちがバカなせいで大勢死ぬ!大人も子供も関係なく死ぬ!大勢の国民が家を、財産を、仕事を、そして家族を失う!お前たちが原因で起こることだ!私の言葉決して忘れるなよ!」
言い放つと自分の席に戻る。合津さんが「よく言った」と言いたげな笑顔を見せてくれる。本当にこの人がいてくれてよかった。
議場は大騒ぎで会議が終了となるまでに時間はかからなかった。
『お前』だの『バカ』だの言葉だけをピックアップしてテレビで繰り返し放映しているのを横目に議員会館に戻ってきた。あいつらはあれだけ言っても結局理解はできないだろう。
「阿武ちゃんお疲れ様。いい演説だったぜ。」
笑いながら合津さんがお茶を渡してくる。
「ありがとうございます。年甲斐もなく興奮しましてね。」
「いーや、恩人のためにあそこまで啖呵切れるなんてそうそうねぇよ。かっこよかったぜ。」
「合津さんにかっこいいといわれる日が来るとは思いませんでしたよ。」
言いたいことは言った。もうこれからのことを考えるのはよそう。多分この後不信任案でも出して解散・総選挙だ。そして今の流れなら選挙であいつらが与党になるだろう。一年後には氾濫だ。もうこの流れは止まらない。
「これからどうしましょうねぇ…」
「どうするかねぇ…」
合津さんと二人考える。いや現実逃避だな。もはやどうしようもない。そんなことを考えていると若手を中心とした与党議員が話しをしたいとのこと。
「どうせこのままじゃ選挙に勝てない~とか言ってくんだろうな。」
合津さんが表情を険しくしながらそう話す。選挙に勝っても負けても一年後は地獄だというのに。
「いっそ引退しますか?」
軽い気持ちで話すが、意外といい気がしてきた。どうせ私の話しは聞かないし山本君のことを信じようとしないのであれば、国会議員だの総理大臣だのにこだわる必要もない。
「おいおい、それじゃあ責任を投げ出して尻尾巻いて逃げるってのかい?」
「もう責任は果たしましたよ。沈む船からネズミは逃げるものですよ。」
「この国が沈没船とはうまいこと言ったもんだねぇ。」
笑いながら話していると若手議員が集団でやってきた。何人かはベテランもいるな。
「総理!お話ししたいことがありまして!」
「ああ、わかっている。どうせ『このままじゃ選挙に勝てない』って話だろう?」
「わかっているなら話しは早い。どのような対策をなさるのかお聞きしにまいりました。」
結局こいつらも保身一択なのか。我が党は泥船、この国は沈没船ときたもんだ。
「正直対策などない。一年過ぎたら氾濫が起こる。この国はおしまいだ。」
「そのような話しを聞いているのではありません。不信任案後の選挙について尋ねているのです。」
そうか、我が党でも私の話しを信じているものはいないのか。がっかりしながら今後の話しをしていく。
「私はもう引退しようかと思っている。このままここにいても意味がないからな。」
「俺も阿武ちゃんについていくぜ。沈没船だからな。」
いや沈没船の話しは伝わらないでしょうに。
とりあえず若手連中に引退を伝えると、自分たちが新しく党を率いていくと宣言して帰っていった。結局それが目的だろうに。
3人ほどベテラン議員が残っているため声をかける。
「奥羽さん、奥飛騨君、信濃君。君たちはどうしたんだい。彼らについて行ってやらないのかい?」
「私は彼らとは別件です。議場での総理の様子は明らかに普段と違いました。総理は本気で山本氏を守ろうとしていた。そして国民が死ぬと何度も訴えた。必死にしかもあんなに強い言葉で。総理、私はあなたが何か知っているんじゃないかと思っています。それを尋ねにきたのです。」
「私も奥羽さんと同じです。ただ私は12年前から山本氏への金銭の流れは知っていましたからね。裏金ならあんなにわかりやすくしません。私は山本氏がこの国を守っていることが事実ではないかと思っています。ただ証拠がない。それを総理が知っていると思ってきました。」
奥羽さん、奥飛騨君はそういうと椅子に座って話しを聞く姿勢になった。
「信濃君もそうなのかい?」
「いえ自分は山本氏が12年前の氾濫を制圧したというなら一度お会いしてみたいと思いまして。30年も前になりますが一応自分も探索者でしたので、氾濫のことは他人事ではないのです。あとシンプルにこの国を守っているという彼の力を見てみたいと思ったのもあります。」
そういうと信濃君は奥羽さんと奥飛騨君のお茶を用意しだした。気が利く子だねぇ。
「阿武ちゃん、山本君に連絡してさ、彼らのこと紹介してみるのはどうかい?」
「そうですね。これからのことを考えると味方は多い方がいい。山本君に確認してみます。」
合津さんから言われてスマホを取り出し山本君に連絡を取る。
ちゃんとわかってくれる人はいるんだ。思わず涙ぐみながら山本君へ電話をかける。
この国に絶望していたが、まだ捨てたもんじゃないって思いながら。




