第16話 2/12 『減らずのC倉庫』
SIDE:C倉庫の鑑定職人
俺は鑑定の能力を持った職人だ。
国の施設で働いているから一応公務員扱いになる。探索者として鳴かず飛ばずだったが鑑定能力のおかげで再就職できた。
俺の仕事は『減らずのC倉庫』にある魔石を鑑定・分別することだ。
ここの魔石は大きさや純度がめちゃくちゃなんだ。
一般的な魔石は大きくなればなるほど、純度が高ければ高いほど内包する魔力が大きいといわれる。
だが『減らずのC倉庫』にある魔石は小さいのにとんでもない魔力を持っていたり、かと思えば超巨大なのに中身の魔力がほとんどないものまで一緒くたに放り込まれている。
だから専属の鑑定能力持ちが片っ端から鑑定して魔石を分別しないといけない。
さっきの例で出た超巨大な空の魔石なんかは、実は鑑定結果だと優秀な魔力タンクとして使えるものだったりする。
一般的な常識では測れないのが『減らずのC倉庫』だ。
物流センター倉庫の3倍ほどの大きさの倉庫に大小さまざまな魔石が無秩序に山積みにされている。
不思議なことにこれを鑑定して減らしても次の日には元通りになっているんだ。
監視カメラの映像を見せてもらったが、一瞬で魔石の山がもとに戻っている。厳密には戻ったというより補充されたといった方がいいかもしれない。前日の映像とは魔石の位置が違うような気がする。画像が荒いから判別は難しいようだ。スロー再生しても1コマ進むと山が戻って魔石が流れ落ちている。意味が分からない。
就職して最初の一月は不思議に思っていた。だが7年も働いているとさすがに慣れた。というか慣れないとやっていられない。賽の河原とはここのことかと悩んだ時もあった。
一緒に働く鑑定職人がいなければ病んでいただろう。
7年前は3人だったこの職場も今では8人まで増員。3か月前に入ってきた新人もようやく仕事がものになってきた。それでも終わることがない量なんだがな。
鑑定するにも魔力が必要になる。一日鑑定を使い続けることは不可能だ。休憩挟んで魔力を回復させながらなんとか8人で一日1万個程度鑑定するので精一杯だ。一度に複数個を鑑定できるのだけは救いだ。1個1個鑑定しろと言われたら逃げていただろう。
毎日倉庫に入って目の前にそびえたつ魔石の山を見る。昨日減った分なんかわからないくらいの量に絶望したころもあったが、今では全く気にならなくなった。ノルマがあるわけではないしこれで給料が出るのだから、自分のできることをやるだけだ。
今日も変わらず鑑定をしていく。お昼を食べた後休憩室で休んでいると、後から休憩室に入ってきた新人が話しかけてきた。
「先輩。お疲れ様です。ここ、いいですか?」
隣の椅子を指して許可を取ってくる。若いのに礼儀正しいな。
「ああいいよ。どうぞどうぞ。」
お茶のペットボトルとスマホをどかしながらテーブルを空ける。
「先輩、昨日の記者会見見ました?『減らずのC倉庫』に魔石入れてた~って話ですが。」
「これのことだろ。」
ちょうどスマホでそのニュースを見ていたところだ。画面を見せて確認する。
「そう、それです。その山本って人が魔石を補充していたって話、本当なんですか?」
新人がそう尋ねてくる。自分の職場の話題が出たから興味があるのだろう。
「正直なところ本当か確認することはできないと思うんだよな。君も新人研修の時に見たと思うけど、魔石がもとに戻るときの映像。覚えてる?」
「ああ、あの監視カメラの映像ってやつですね。一瞬で魔石の山が戻っているやつ。スロー再生しても突然復活するんで覚えてますよ。」
「君もスロー再生試したのか。俺もやったよ。ただあれをもしも山本ってのがやってるといわれても、正直確認のしようがないんだよね。魔石の山が気が付いたら戻ってたって感じだし。」
もし山本がやっていたとしてなんで今まで何も言わなかったんだろう。この倉庫が発見されて12年が経つ。ここの魔石を売るだけで国がいくつも買えるほどの値段になるだろうに。そう考えると山本が確認できないことを自分の手柄にしようとしているとしか思えない。
「その山本が言っていることが本当ならここの魔石も減ってくるんじゃないのかな。正直今のままだとすぐに魔石が戻るから仕事している感じがしないんだよ。」
「ほんとそうですね。自分も働いて3か月になりますが、終わりのない仕事ってしんどいですよね。先輩は7年もやってるんだからすごいですよ。何かコツとかあるんですか。」
「コツというか、流れ作業的に鑑定を行う感じかな。あまり根詰めるとしんどいから。同じことの繰り返しって心にくるよねぇ…」
つい愚痴ってしまう。いかん、せっかくの新人にネガティブなことを言って辞められたら困る。
「まあ、もし本当のことなら魔石が増えないってことだからそのうちわかるんじゃない?」
「そうですね。あの倉庫の中の魔石が減ってくればわかりますよね。」
「減ってくれた方が仕事しているってわかりやすくてモチベーション上がるんだけどね。おっとそろそろ休憩終わりか。じゃあ行こうか。」
「はい。午後も頑張りましょう。」
「まあ、ほどほどにね。」
気合の入る新人に引っ張られて午後の仕事に入る。
この時はまだ何も考えていなかった。本当に魔石が減っていくなんて。




