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人は痛い思いをしないと学ばないのか  作者: 妖精さん


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第15話 2/11 ダンジョンマスター

むしゃくしゃしてやった。反省はしている。どうも山本です。


何をやったか話す前に、ちょっと語らせて欲しい。


自宅に帰り総理からの電話を受けた後、押し入れダンジョンに入って久しぶりにテイムモンスター全員と顔を合わせたんだ。電話中は構ってあげられなかったからね。


犬。猫。狐。狸。馬。猿。鳥。竜。鮫。鯨。みんな30cmの縮小化バージョンでぬいぐるみみたいな可愛さだ。


モフモフだったりすべすべだったりひんやりだったりと撫でごたえたっぷりで1時間ぐらいはスキンシップしていたんだ。


これが30mクラスだと鮫ちゃんみたいに鮫肌カウンターモードで触った瞬間手がすりおろされたり、狐ちゃんだと全身に雷まとって触る前に感電させられたり、鳥さんは羽ばたいているだけで吹き飛ばされたり、鯨さんだと真下が見えないから押しつぶされたりと近づくだけで命かけないといけないんだよ。押し入れダンジョンさんフレンドリーファイア禁止設定してくれませんか?


それでテンション上がって一層目でみんなと遊んでいたら、テンションマックスの犬ちゃんと馬さんに同時に突き飛ばされて謎の井戸に落ちた。


気が付くと井戸に落ちたはずだが、草原のど真ん中にいた。太陽っぽいものが浮かんでいるけど全く動かないし風も感じられない不思議な空間だった。


普通の洋服以外は何もなくなっているし、テイムモンスターとの連絡も取れない。だが鍛えてきた自分の力はあるような気がした。


そこからは一人でこの不思議空間を探索していった。多分死ぬか戻れるアイテムを使えば一層目に戻れるのだろう。


なぜか武器や防具、アイテムが床に落ちているので親切設計かと思えば、拾った武器が手から離れなくなったり、かと思えば床の上にトラップがあって突然装備品が床に落ちたり、テレポートさせられたり武器や防具が劣化したりと意地悪・理不尽極まりない場所だった。アイテムも効果が分からず試してみないと判明しないというクソ仕様。魔法のカードというものもあって、使うといきなりダンジョンの壁がなくなったり、モンスターが眠ったりと有利なこともあれば、モンスタートラップが発生したり、ダンジョンに制限時間が発生したりと不利なこともあった。ダンジョンを作った存在がいるとしたらとても性格が悪いに違いない。


上に上がる階段はなく、下に潜り続けるしかなかったが、途中魔法陣みたいなところでテイムモンスターを選んで一匹呼ぶことができた。しかも普段のように一匹だけでなく、二匹目以降も呼ぶことができた。最終的に10匹全員呼ぶことができたのは幸いで、30mの大きさでしか呼べず縮小化ができないことが不幸だった。パッシブで防御効果が出ている子たちばかりなので触れない・近づけない・スキンシップ取れずに悲しそうに鳴くという三重苦。


そんな中どんどん降りて行って300階くらいまでは数えていた。途中からめんどくさくなって数えることもせず、ひたすら脱出する方法を考えながら移動を続けた。ここも時間が止まっているのかおなかがすかないことだけは救いだった。


途中で拾った謎の袋が保管庫の代わりみたいな能力がついていたようで、落ちている装備・アイテムは片っ端から拾って放り込んでいる。なんか装備の合成もできるようになっていた。ただ脱出アイテムだけは見つからなかった。


多分100階ごとにボスモンスターが出現していたと思うが、うちの子たちのほうが圧倒的に強い。ボスモンスターの出オチを見ながらひたすら下り続ける。ボスも50回くらいは倒したと思う。そうしたところ今までない構造の階に出た。


今までは階段を降りるとなぜか階段は消えるし、部屋の真ん中に追い出されて下手すると周囲をモンスターに囲まれていたとかいやがらせ満載のギミックだったが、今回は一直線の通路があるのみ。壁を叩いてみるがたたいた音が聞こえない謎仕様。猫ちゃんが爪とぎしてみたり、鮫ちゃんが鮫肌こすりつけたりしてみたけど傷一つつかない。壁の奥に隠し通路とか考えたがとりあえず通路を進んでみた。


すると扉があって横には『コアルーム』と書かれた看板が立っている。入ってみるとはるか遠くに壁が見えるだけの広い場所にでた。よくよく目を凝らすと台座のようなものがありその上には白くて丸い球が1mほどの高さに浮いていた。その球はどうやら俺にしか見えないようでテイムモンスターたちは認識できていないらしい。


警戒しながら近づくと突然「よくぞ我が作りし至高のダンジョンを越えてきた!下賤な輩にしてはやるではないか!さあ願いを一つだけ言え!お前のような下賤なものにふさわしい願いであればかなえてやろう!」とか言いながらピカピカ光って近づいてきた。


見下し発言だったり、ピカピカ光る具合が記者会見のフラッシュを思い出させてきたんでイラっとして、つい丸い球を思いっきりぶんなぐってしまったんだ。ここで冒頭の話しに戻る。むしゃくしゃしてやった、反省はしている。


ぶんなぐった影響でかなり転がった後、煙が出たり点滅したり色が変わったりとゲーミングなんとかみたいな様子をしばらく続けていたが、煙が止まり色も落ち着いたらまた浮いてきて「ようこそおいでくださいました。名前を登録してください。私はダンジョンコア。名前を登録してください。マスター。名前を登録してください。」とか言い出している。そしてテイムモンスターもこの球を認識できるようになったみたいだ。


「ダンジョンコア?マスター?なんのことだ?」


「ダンジョンコアは私です。名前を登録してください。マスターはあなたのことです。名前を登録してください。あなたはダンジョンコアを制圧したため、このダンジョンのマスター権限が仮譲渡されました。名前を登録してください。正式な権限を手に入れるためには名前を登録してください。名前を登録してください。」


名前を登録しろという圧がすごい。そんな説明を受けていると、ダンジョンコアに気が付いたテイムモンスターがダンジョンコアで遊び始めた。コロコロ転がされたりいじられているダンジョンコア。特に犬ちゃんと猫ちゃんがはしゃいでいる。あんまり強くいじるなよー。あとかじるなよー。


その後も「助けてください。名前を登録してください。私はかじるものではないです。名前を登録してください。舐めないでください。名前を登録してください。よだれをつけないでください。名前を登録してください。」といじられ続けるダンジョンコア。ボールのおもちゃのような扱いを受けながら「名前を登録してください。」を連呼している様子がだんだん不憫になったのでとりあえず名前を登録したんだ。


「わかったわかった。とりあえず名前を言えばいいのか。俺は山本将太だ。」


「ダンジョンマスター名の登録。対象『山本将太』。ようこそマスター。私はダンジョンコア。このダンジョンの制御機構です。ご命令・ご質問…の前にこのモンスターたちを遠ざけてください。お願いします。」


ダンジョンコアが青みがかってそう話す。怖いと青くなるのは人間と同じか。ちょっと面白い。


「よーし、みんなー。ちょっとこのコアとお話しするから離れて待っててなー。」


みんな30mクラスだから大声出さないと聞こえない。


何とか話しを聞きだしたところ、


ダンジョンにはそれぞれ一つダンジョンコアがある。コアを破壊できればダンジョンは消滅する。ダンジョンコアには意思があり、その意思はダンジョンボスに宿っていることが多い。特にS級ダンジョンボスになると氾濫で外に出るときにダンジョンコアを体内に隠し持ったり、逆にダンジョン奥にコアだけ隠して体だけ外に出したりするらしい。体内に隠し持つと氾濫区域がダンジョンになって環境を操作しやすいとのこと。アジアーインドのS級モンスター周囲が毒に汚染されているって話しだがこれが原因だな。体だけ外に出す場合は、コアを破壊されるまで不死身扱いらしい。とはいえ再生するにはいろいろ条件があるとのこと。ダンジョンボスのゾンビアタックとかなくてよかった。


あとはダンジョンマスターになるとダンジョンを好きにいじれるらしい。またほかのダンジョンを制圧して配下に加えることができるとか。


てことは俺ダンジョンボスになったの?コアに聞いてみたところ多分人間のままとのこと。多分ってなにさ。


「本来ダンジョンマスターはダンジョンボスが兼任していますが、私のようにコアのままマスターをしていることもあります。そしてその際にコアを何らかの方法で制圧することでマスターの権限が譲渡されるのです。」


つまりむしゃくしゃしてやったことが正解だったってことだな。よかったよかった。


「もし殴ったときにダンジョンコアを壊してたらどうなってた?」


「ダンジョンが崩壊して終わりです。」


「崩壊するときダンジョンの外に影響はないのか。」


「大した影響はありません。入口周囲5m程度空間がえぐり取られるくらいです。」


セーーーフ!大した影響だよ!5mとはいえ一般家庭で5mえぐられたら天井から床下まで穴空くとこだわ。とんでもねぇ罠が仕掛けられていたよ。


「とりあえず今まで間引きするしかなかったダンジョンが、実は制圧できるってことが分かっただけ儲けものか。今までダンジョンを制圧したり消滅させたりした人いなかったのかな?」


「マスターが変わったためダンジョン間の情報のやり取りが消失しています。現時点でそのようなことがあったのかは不明です。」


「C級ダンジョンくらいなら雑魚モンスターしか出ないし制圧できそうなものだが…。」


ダンジョンコアと話していると、徐々に犬ちゃんがにじり寄ってくる。もうちょっと待ってね。


「C級ダンジョンがどの程度かは不明ですが、ダンジョンの外にモンスターを出せる規模にならないとダンジョンコアが生成されません。」


「制圧できるかどうかは氾濫することが条件か。A級以上ってことだな。それならB級とC級はどういう扱いなんだ?」


「おそらく成長途中のダンジョンと思われます。」


「ダンジョンって成長するのかよ…」


A級以上のダンジョンなら制圧が理論上可能になるということ。大切な情報だし広めたほうがいい…と思ったが、今の俺じゃ何言っても信じてもらえないな。まあいいやほっておこう。


「ほかにダンジョンマスターになってできることは?」


「ダンジョン内を好きに変えることができます。ダンジョン内の構造を変えたり、モンスターの配置や種類を変更することもできます。好きなアイテムをドロップしたり宝箱を好きに配置したりも可能です。」


「それはすごいな。ダンジョンの支配者って感じだ。」


「その認識であっています。ダンジョンを支配しほかのダンジョンを制圧していくことで、どんどん能力が増えていきます。」


間引き手伝わないって決めてからこんなことができるようになるとは…運がいいやら悪いやら。


「ああ、そうだ。ここの一層目にあった看板に『365日放置するとモンスターが外に出る』みたいなことあったんだけど、これ『いくら放置してもモンスターが外に出ないようにする』ことってできる?」


「可能です。設定を変更することでモンスターの行動範囲をダンジョン内部限定にすることができます。設定を変更しますか?」


「俺のテイムモンスターだけ外に出られるようにもできる?それなら変更して欲しいんだけど。」


「可能です。テイムモンスターのみ外に出られるように変更しました。」


よし、これで押し入れダンジョンの氾濫はなくなった。家がなくなることはないな。後で母さんと総理に伝えておこう。


「このダンジョンうちの押し入れにできたから大変だったんだよ。なんで押し入れにできたのか知ってる?」


「ダンジョン入り口の発生場所は完全にランダムになっています。ダンジョンコア・およびダンジョンマスターが設定できるのはダンジョンの内部のみとなっています。」


そうか、内部だけ変更可能なのか。ん?何か引っかかるが…とりあえず質問していくか。


「変更は好き勝手出来るのか?最初の敵から金の延べ棒が大量にドロップするとか。」


「変更するにはダンジョンにたまっている魔力が必要になります。魔力が続くようなら可能です。」


「じゃあ魔力はどうやって貯める?自然発生するのか?」


「ダンジョン内にモンスター以外の生物が入っていると、魔力を自動で徴収しています。」


勝手に徴収されていたらしい。税金みたいでいやだなぁ…。


「その魔力を徴収されると何か具合悪くなったりしない?」


「生物が自然発生させる魔力の一部を徴収しているので問題はありません。ダンジョン内にいても魔力は自然回復します。ダンジョン外のほうが早いですが。」


とりあえずダンジョン内にいれば勝手に魔力がたまるらしい。


「そういえばこのダンジョンって入っている時には外の世界の時間が止まっていることになるけど、そのあたりは大丈夫なのか?魔力の回復とか。」


「ダンジョンはマスターがいる世界とは理が異なります。なのでお応えできることとしては『大丈夫だから大丈夫』です。」


「なるほど、意味が分からん。」


まあ、『大丈夫だから大丈夫』ということにしよう。


「あー、コアはこれからどうするんだ。ここにずっといるのか?」


「安全面を考えれば最下層がいいと思われます。」


何かあったときまたここに来ないといけないのか。大変だなぁ。一層目に移動してくれるとありがたいんだが。聞いてみるか。


「一層目にくることはできないのか?ここまで毎回来るの大変なんだが。」


「一層目に移動するとダンジョンを狙ってくるものに対して無防備になってしまうことになります。非推奨です。」


「ダンジョンの出入りを俺のみにしたりはできないか?」


「普通の人間であれば立ち入り禁止にできます。しかし他のダンジョンマスターに『戦争宣言』をされると侵入が可能になります。」


また新しい言葉が出てきたな。なんだよ『戦争宣言』って。


「『戦争宣言』の説明をしてくれ。」


「『戦争宣言』とは、ダンジョンマスターがほかのダンジョンを制圧または消滅させるために、戦うことを宣言することです。戦争がはじまるとお互い閉じこもることはできず、引き分けもなくどちらかが敗北条件を満たし、ダンジョンを制圧または消滅させられるまで戦うことになります。」


「殺伐とした宣言だな…」


正直使うことはないだろう。俺以外にダンジョンマスターになった奴なんていないだろうし。


「『戦争宣言』されるまでは一層目にいて、戦争のときにはここに移動するとかできる?」


「…可能です。『戦争宣言』されたときは24時間の配置猶予期間が発生。その際にダンジョンコアの移動は十分可能です。」


「じゃあ、一般人は立ち入り禁止。ダンジョンコアは一層目に配置。『戦争宣言』がされたらここに移動するってことでよろしく。」


「了解しました。」


これで良しっと。戦争でここに来るとかマジで大変だろうな…。


「ああ、そういえばここってどのくらいの深さ?300階くらいまでは数えてたんだけど。」


「ここは深淵第6666層にあたります。」


「マジか…そんな潜ってたのか。『戦争宣言』で侵入してきたやつもここまで潜らないといけないのか?」


「はい。侵入者はダンジョンの理に従って攻略しなくてはなりません。そしてダンジョンは決して攻略ができないように設定をしてはいけないのです。」


なるほど?ダンジョンにはダンジョンの矜持ってのがあるのか。ここのダンジョンは不思議だしいやらしい構造しているから侵入者は大変だろうな。ん?そういやさっき引っかかってたことを思い出した。


「ここって井戸のダンジョンだよな。これってお前が作ったのか?」


「はい、その通りです。対侵入者用に考えて作りました。装備・道具は持ち込めない代わりに落ちており、一人しか侵入できない代わりに仲間を召喚できる、という制限と代案をうまくミックスした自慢のダンジョンでした。まさか初めての侵入で踏破されるとは思いませんでした。さすがです、マスター。」


「そうか、そうか。このダンジョンはお前が作ったのか。そうか、大変だったぞ。トラップ多いし制限激しいし製作者の性格の悪さがうかがえたよ。はっはっは。」


「マスターにおほめいただき光栄です。」


嫌味だよ。クソが!頭にきた。


「よーし犬ちゃんと猫ちゃん、このボールで遊んでいいよー。壊したり食べたりしなければいいからねー。」


遠くで「わおーん!遊ぶー!」とはしゃいでコアを咥える犬ちゃんや、「んな~お…転がる…楽しい…」と黙々と転がす猫ちゃん。そんな楽しそうな風景をバックに休憩するのだった。


「マスター!?助けて!?よだれ!よだれが!舐めないで!転がさないでーー!」


うん、楽しそうな風景だ。



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