第11話 2/10 覚悟
証人喚問が終わったところで総理に会いに来ました。山本です。
テイムモンスター全員が空間転移覚えているから移動が楽でいいね。
前にみんなが空間転移を覚えたことが気になって理由を聞いたら『俺に会いたいから』とか言ってくれたんだよ。ちょっと泣きそうになった。
ダンジョンがA・S級合わせて9か所、テイムモンスターが10匹だから各ダンジョンに1匹づつ間引きで入ってもらって、残りの1匹は俺と一緒に押し入れダンジョンに潜る予定だったんだけど、誰が残るかで大乱闘が起きたから居残りをローテーションすることになったんだ。大乱闘とは言っても押し入れダンジョン一層目の待機場所でみんな縮小化していたから、30cmのデフォルメされた姿でわちゃわちゃしていたのは癒された。
犬。猫。狐。狸。馬。猿。鳥。竜。鮫。鯨。以上10匹。徐々に成長して今では30mクラスの巨体だ。鮫とか鯨は初めて会ったときはなんで空中を泳いでいるんだと悩んだけど、今ではもうそういうもんだと納得した。
それぞれ名前は『猫ちゃん』、『猿さん』みたいに後ろに『ちゃん』か『さん』がつくくらいだから省略。最初は壁としての運用を考えていて、名前を付けると情が移ると思って単純な名前にしていたんだ。でも最初にテイムした犬ちゃんと猫ちゃんの様子を見ていたら一瞬で情が移った。自分でもチョロいと思う。でも新しく名前を付けようとしたけど、本人たちが嫌がったので結局こんな名前になった。仲間外れは嫌だから以降仲間になったモンスターも同じ名づけをしたんだ。
なお種族は進化しすぎてよくわからなくなってきた。進化するごとに属性とか強化したところが種族名にいろいろ追加されていくみたいでどんどん長くなっていく。なんだよ氷空神殺魔大鋭爪眼牙再吠獣王成帝縮狼って。読めねえよ。王なのか帝なのかはっきりしろよ。
そんなことをとりとめなく考えていたら総理が戻ってきた。
「あ、総理お邪魔してます。」
軽く頭を下げてあいさつする。
「ああ、山本君よく来てくれた。今回の件は本当にすまなかった。」
阿武総理は深々と頭を下げてくる。
「いえいえ、お気になさらず。いざとなったら自分ちのダンジョンに引きこもりますんで。」
笑顔でそう伝える。阿武総理には押し入れダンジョンのことは伝えてある。ほかに知っているのは合津副総理とダンジョン協会の支部長、後はうちの母親と亡くなった祖母くらいだ。お金は十分残っているし最悪ダンジョンのドロップアイテムを買い取ってもらえれば金銭の心配はない。
「しかしこれからどうするかね。今や世間の敵扱いになってしまっているじゃないか。どうにかして訂正させていかなければならないのだが。」
総理が心配してくれている。この人は確か70近いはずだよなあ。45の俺じゃまだ若造だし不安なのかな。
「大丈夫ですよ。ほら再来月に探索者のトーナメントあるじゃないですか。あれに出てテイムモンスターを召喚して見せればダンジョンの間引きが事実だってわかってもらえますよ。」
「ああ、あのランキングマッチトーナメントか。確かにあの舞台の広さなら君のモンスターも呼べるな。」
全国放送されるトーナメントで、A級・S級ダンジョンのボスモンスター(と思われている)を召喚すれば一目で実力が示せる。30m級の大きさでも全員十分呼べるはずだ。
「ええ、ですので来週の証人喚問でそのことを伝えようと思います。」
「それはいい。ついでだ、燈九議員の息子を相手に指名したらどうかね。一応S級探索者という話だ。相手に不足はないだろう。」
悪い笑みを浮かべながら総理が提案してきている。あのエスカレート議員のこと嫌いすぎだろ。ま、俺も嫌いだが。
「確か燈九 判図でしたっけ?ギルド国士無双の二つ名『シャイニングセイバー』とかいう。」
「そうだ。とはいえ功績の大半は特装隊の装備を潤沢に使った結果だがね。本人の能力だけではA級下位程度だよ。」
特殊装備戦闘隊、略して特装隊。魔石を使った道具を使用してモンスターと戦う特殊部隊。彼らのおかげでダンジョンの間引きがはかどっているという事だ。だがその使用している魔石は、俺のテイムモンスターが回収したものを『C倉庫』に入れているおかげであることを世間には知られていない。
「指名できるかはわかりませんが、その方向で行ってみますね。それまではまあ我慢して待ちますよ。」
「本当にすまない。こちらも明日記者会見で君の後押しをする予定だ。ただ…」
言いよどむ総理。何か不安なことがあるのか?
「ただ?何かありますか?」
「いや、テレビ・新聞・週刊誌・ネット・SNSと情報が広がるのが早いのが心配でな。」
「間違った情報だけが拡散される…と?」
「その通りだ。そして拡散された情報は完全に消すことができない。」
それはわかる。デジタルタトゥーというやつか。
「そうなったら全部訴えますよ。時間やお金なら十分ありますからね。」
年間一億もらうようになってからは仕事もやめているので時間は余っている。暇つぶしで訴えまくるか。
「うむ。それなら…しかし…」
さらに言いよどむ。何かあるのか?
「総理、心配なことがあるんですか?」
「…これは言うか悩んだことなのだが。」
苦しそうな表情で総理が話し出す。何かとんでもないことがあるのか?
「もしも、もしものことだ。情報が拡散された結果、君の家族にマスコミなどから何かしらの被害がかかるのではないかと思ったのだ。」
確かに、俺自身なら気にしないが家族に害が及ぶ可能性があるのか。でも心配ない。それは想定内だ。
「ああ、大丈夫ですよ。家族を守るためです。最悪殺します。」
「っ!」
総理が息を飲むのを感じた。淡々と答えたことに驚いたのかな。だが、考えは変わらない。
「家族に、母や親せきに害をなすのであれば殺します。家族を守るためなら人だって殺しましょう。」
今更モンスターをさんざん殺しているんだ。人を殺したところで何も感じないだろう。モンスターの方が人間より純粋だ。純粋に殺しに来るが。
「待ってくれ、山本君!私は君を人殺しにはさせたくない!こちらも動くからなるべく抑えてくれ!」
総理が必死に訴えてくる。ああ、この人は本当に俺のことを心配してくれている。こんな人に会えたのは幸運だな。
「わかりました。できるだけ人は殺しません。ですが、あくまでできるだけだし、『殺してないけど死んでないだけ』みたいになるかもしれませんよ。俺にとって家族は守るべきものだし、家族を害するやつは世界に不要な存在だと思うので。」
究極の利己主義。だがそれを通すだけの力はあると自負している。そもそも俺の家族に手を出さなければいいだけだ。やったらやり返される、やり返されたくなければ手を出さなければいい。
もしも手を出してくるのなら相応の目にあうことになるだろう。いつの世にもバカはいるものだ。口で言ってもわからなければ、痛い目を見ないと学ばない。
総理がどこまで抑えられるか。明日以降どうなるかな。
でも、俺は覚悟を決めた。一方的に攻撃できると勘違いするならそれまでだ。




