第10話 2/10 獅子身中の虫
SIDE:阿武 隈岳 内閣総理大臣
証人喚問が終わってすぐに一色 緑議員を呼び出した。
山本君の報酬を知っている議員のうち、情報漏洩するのはこいつくらいだと予想をしていた。補佐官に調べさせたところ見事に一色に渡した情報であることが確認された。渡した資料にたいして個人個人でナンバリングをしていたとのこと。なんでそんなことやってんだと思ったが、今回はこれに救われたようだ。
今までも自分に被害の出ないところから味方を攻撃して、自分の立場を優位にしていた一色のことだ。今回の情報を使って燈九に取り入ったに違いない。
あいつは総理になりたがっていたからな。今回の情報を使って野党に恩を着せつつ自分が与党の中心になろうとでもしたのだろう。
今回のことであいつは除名。与党に戻れる席はない。与党の中心になれなくてどうする?野党に鞍替えでもするか?可能性はあるな。節操がないといわれるだろうがあいつは気にしないだろうし。
そんなことより山本君、ひいてはこの国の未来に関してだ。
山本君自身は今回の証人喚問は気にしていないだろう。良くも悪くも人類を超越しているからな。外野が騒いだところで聞き流して終わりだ。なんせ本人だけでも十分強いのに、さらに過剰戦力でもあるテイムモンスターが10体もいる。テイムモンスターを各地で暴れさせればこの国は一瞬で更地になるだろう。権力だろうが何だろうが圧倒的な暴力の前には意味をなさないことがよくわかる。これだけの戦力を持ちながら目立たず過ごしたいと望むんだ。名誉・栄達といった欲とは無縁だし、金銭欲もほとんどないだろう。一年一億円の要求だってその場の流れで口にしただけだ。本来ならその100倍は要求してくれて構わないほどの功績だったのにだ。
そういえば報酬を要求してきたくせに、いざもらえるとなるととても慌てていたな。その時の彼の表情を思い出すたびに、つい笑顔が浮かんでしまう。
山本君は穏やかで配慮ができる人間だ。12年前も氾濫終息の際にわざわざ私に詳細な報告込みで連絡をしてきたくらいだ。今まで誰からも称賛されず一人でこの国を守ってきてくれた、この国の守護神。今回の証人喚問でも苦笑いで済ませるのだろうか。
心配なことがあるとすれば、彼の家族にも影響が出るであろうということだ。
彼は家族を大事にしていた。脳梗塞の祖母の付き添いで車いすを押していることを笑って話していた。ダンジョンの間引きの報酬で家族旅行に行った時には、お土産とともに家族の写真を見せてくれた。祖父と父親がいない3人家族もあって、お互いに家族を大切に思っていたのだろう。わざわざ空間転移とかいう力を使って頻繁に会いに来てくれていたが、私や合津さんに祖父や父親の姿を重ねて見ていたのかもしれないな。
万が一彼の家族に害が及ぶのであれば、その時は彼が敵に回る。それだけは避けなければならない。だが、今の状況では難しいこともわかってしまう。燈九のやり方を考えれば、マスコミ関係に情報を渡して山本君の周囲を嗅ぎまわるだろう。家族なんていいネタだ。敵に回った彼がどの程度報復を行うのか。彼が穏やかで配慮ができるのは余裕があるからだ。家族に害が及んだのであれば余裕はなくなるだろう。報復するとしてどの程度になるか。皆殺しになることはないだろうが…ないよな…?あと対象はどこまでだ?直接手を出したやつはもちろん対象になるだろうが、他にはマスコミ、燈九などの議員までか、マスコミや燈九に扇動された国民までか。
もういっそのこと山本君の味方であることをアピールして保身に走ったほうがいいのではないか。そのほうが身の安全が確保できるし。
だんだん保身の事を考えるようになったころ、ドアをノックする音が聞こえる。ようやく来たか。
「総理、失礼しますよ。」
にやついた顔をして一色が部屋に入ってくる。
「ようこそ、獅子身中の虫。いや一色君」
いきなりのあいさつにさすがの一色も鼻白んだ。が、すぐに切り替えて話を進めてくる。
「いきなりなお言葉ですね、総理。私のことを獅子身中の虫とは。私はこれまで我が党に身をささげてきたというのに、このような心無い言葉を投げかけられるとは思いもしませんでした。それなのにー」
「ああ、もういい。余計なことはしゃべるな。反吐が出る。」
私は一色の発言を遮りバッサリと話を切る。こいつのしゃべりが今は非常に癇に障る。
「山本君の情報を燈九議員に流したのはお前だな。ああ、証拠はそろっている言い訳はいい。」
相手に発言させず畳みかける。こいつのせいで、こいつが情報を流したせいでこの国は滅びに向かっていると思うと怒りが込みあがる。
「情報漏洩の責を取らせるためにここに呼んだのだ。お前は除名処分となる。これは確定事項だ。反論も許さん。私はお前を許すことはできない。」
一方的に処分を告げる。怒りが限界を突破し、逆に冷静になってきた気がする。淡々と処分を言い渡す。
「なっ、ずいぶんいきなりなことを。これは総理の責任ではありませんか。」
一色が反論してくる。現実を知らず上っ面だけしか見てこないこの男のことだ。この国が沈む瀬戸際だとは思いもしていないだろう。だからいまだに責任などと口にする。
「責任、責任か。なるほど。ならば私は責任を取ろう。お前のような奴を我が党に入れたことの責任を取らなくてはな。以上だ出ていけ。」
ああ、もうだめだ。これ以上こいつとは付き合いきれん。さっさと追い出し静かになった部屋で一人考える。
後日記者会見でこいつの除名と山本君の正当性を語らなければならない。少しでもこの国を守るためだ。
だが、国民にどう理解してもらうか。国民は燈九に扇動されているだけなのだ。どうにかして国民だけは守らなければ。
そんなことを考えていたが、愚か者は短絡的に行動をするようだ。正直現在の情報拡散の速度を甘く見ていた。
数日後決定的な事件が起こる。この国と山本君の関係を完全に壊すであろう事件が。




