第百二十七話 Stand by me
「私は——やっぱりこういう街の方が落ち着くな」
アイネが呟いた。
「私は少し見ただけだけど。バドールとか科学が発展してる国にいくと、なんだか目がくらくらしちゃう」
俺の隣で、膝を抱えながら言った。
王宮の高台。
テオロッドの街を見下ろせる丘だ。
子どもの頃、よくメイやキセキと遊びに来ていた場所。
「確かに。俺も、ユルガン族の土地が一番好きだったなぁ。科学もほどほどがいいや」
俺が呟くと、アイネが疑いの目を向けてきた。
「本当に?——その割には、アーカーシャと仲良くお喋りしてるじゃない」
「仕方ないだろ。友達なんだから」
「ふぅん。まぁいいや」
アイネはそう言って、再び街を見下ろした。
俺は、さっきまでの話を思い出していた。
父さんたちの物語。
それは——まるで本の中の話だった。
違う世界からやってきて、いつの間にか国同士の戦争に巻き込まれ——やがてその中心になっていく。
俺の知らない、親たちの旅がそこにはあった。
同時に、少しだけ父さんを近くに感じた。
今は政治だ、世界だと忙しそうだけど、父さんも俺と同じように冒険をしてたってこと。
それが、嬉しかった。
旅に出る前、散々怒っていた母さんやミサキ叔母さんだって、俺たちみたいに冒険してたんだな。
——だからこそ心配してたのかもしれないけど。
「ねぇ、アラタ」
「ん?」
「これから——世界はどうなっていくのかな」
アイネの言葉に、俺は少し考える。
これまで分断されていた二つの大陸が交流することで、一体世界はどうなるんだろう。
アーカーシャ帝国の圧倒的な科学力が持ち込まれ、ロッド大陸も変わってしまうのだろうか。
その先に待っているのは——アーカーシャの言う戦争なんだろうか。
でも、俺は思い出した。
戦って、自分たちの場所を守り、世界の平和を守ろうとしている大人たちが——俺の周りにはたくさんいる。
「どうなるかを決めるのは——多分俺たちなんじゃないかな」
俺は言った。
アイネは笑った。
「そうだね。未来のことなんて——誰も分かんないもんね」
六万年以上。
想像もつかない時間を過ごしてきたアーカーシャ。
俺はたまたま、その中の一瞬だけの存在にすぎない。
俺が死んでからも——アーカーシャは生き続けるだろう。
それに、世界は回り続けている。
一瞬しかない人生の中で——俺ができることなんて限られている。
「俺は——アイネと一緒にいられれば、それでいいかな」
俺は、心で思っていることをそのまま言った。
——言ってしまった。
すぐに、とんでもないことを言ってしまったことに気がついて、顔が赤くなった。
ちらっと横を見ると、アイネも顔を赤くしている。
「——私も、アラタとずっと一緒にいたい。場所なんか——どこでもいいから」
俺はその言葉を聞いて、飛び上がるほど嬉しくなった。
だけど、それを顔に出さないようにして——
できるだけ格好つけて言った。
「そうだな。テオロッドでもユルガンでも、アルカディアでもバドールでも。どこで生きるかより、誰と生きるかの方が大事だよな」
うーん……なんか決まらない気がする。
「ねぇ、それってどういう意味?」
アイネが、いつものようにいたずらっぽく笑った。
うん。この笑顔がずっと見られるんなら。
世界がこの先どうなっても——俺は、アイネと一緒に歩いていける気がした。
キセキが、下から登ってくるのが見えた。
「アラター!もうすぐ母さんたちが着くみたいだよー」
……急に現実に引き戻してくるな。
俺は立ち上がり、尻についた砂を払った。
「分かった。今行くよ」
そう返事をすると、アイネに手を伸ばした。
アイネは少し恥ずかしそうに——だけど、しっかりと俺の手を掴んだ。
この小さな手を——俺はずっと離さない。
心の中でそう誓い——俺たちは手を繋いで歩き始めた。
——fin.




