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ユグラシア冒険記 —幼なじみに連れられて、未知の大陸を冒険することになった件—  作者: ヨダカカツキ
第一章 旅立ちの時

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第一話 幼なじみと、赤の零式と。

「それでは、アレクシオ=テオロッド国王より、お言葉を賜りたいと思います!」


式典の進行を務める司会の言葉に、会場は湧き上がった。

これから、国王のありがたいお言葉を頂けるらしい。


って言っても、アレクシオ叔父さんだろ。


俺は、あくびを嚙み殺した。


即位十五周年の記念式典ということで、俺はテオロッドに連れてこられていた。

アルカディアで留守番しているよ、と言ったのはうかつだった。

まさかあんなに母さんが怒るとは。


テオロッドは母さんの出身地であり──父さんにとっても思い出深い場所らしい。

幼少期から何かの折にしょっちゅう帰省しているので、俺はすっかりこの国に飽きていた。


アルカディアほど科学が発展しているわけでもないし、娯楽があるわけでもない。というか、端的に言えばど田舎だ。


式典の来賓席で、俺はアルカディアに帰ったら何をして遊ぶかを妄想していた。


「ねえ、このあと何する?」


横の席から話しかけてきたのは──メイだ。


「遊ばねえよ。勝手にどっか行ってこいよ」

俺は、冷たく突き放した。

女となんか遊ぶような年じゃないっつうの。


「はあ?何よ。昔はメイちゃんメイちゃん、って可愛かったのに。憎たらしくなったわね。声も可愛くなくなったし」


そりゃそうだ。こちとら十四歳。

声変わりもするわ。


最近やっと落ち着いてきたが、ここ数か月喉の調子が安定していなかった。

いわゆる変声期だ。

やっと低い声が出せるようになって、少し大人になった気分を楽しんでいるのに、水を差すんじゃない。


「いつまでも子どもじゃないんだよ」


「あら。私からしたらアラタはずっと可愛いわよ」

メイは俺の頭をなでる。

悔しいことに、身長はまだ追い付いていない。

メイが長身というのもあるが──さっさと追い抜いてやる。


「やめろよ。おっぱい揉むぞ」


俺がそういって手で払うと、メイは胸を両手で隠した。


「いやっ!アラタが男になっている!」


……騒がしい女だ。


式典が終わったらキセキでも誘って散歩に行こう。

こんな小姑みたいな女に付きまとわれたら、たまったもんじゃない。


そのキセキと言えば、ミサキおばさんの横で真剣にアレクシオ叔父さんの話を聞いている。

……母親のミサキおばさんは既に顔を赤くしながら酒を飲んでいるというのに。


──変なところ、真面目なんだよな。


何を考えているかよく分からないところは昔からだが、

なんやかんや俺を兄のように慕ってくれる可愛いやつだ。


「とまあそんな感じで。引き続き皆で協力して世界の平和を守っていこう。

この後の宴は、皆で盛大に盛り上がろう」


アレクシオ叔父さん──国王の締めの言葉に、会場は更に沸き返る。

やれやれ。どうせ大人たちは酒を飲んで大騒ぎするだけだろうに。


大人たちはいつだって酒を飲む口実を探しているように見える。

父さんも、付き合いだなんだと毎晩のように酔っ払って帰ってくる。

その間、父親代わりに弟と妹の面倒を見ているのは俺だっていうのに。


なんにせよ、これで退屈な時間から解放される。

大人たちが宴会会場に向かう中、俺は母さんに声をかけた。


「俺は、キセキとどっかで時間つぶしてくるよ」


「あら、そう。あまり遠くへ行かないでね。

終わったらエーテルリンクで繋ぐわね」


母さんはそう言うとミライとユフィア──弟と妹を連れて歩いて行った。

父さんの姿は見えない。

社交か何だか知らないが、色んな所をほっつき歩いているようだ。


昔は、家族で色んな場所に連れて行ってくれた。

それが最近じゃあやれ議会だ、やれマルカドール出張やらと全国各地を飛び回ってほとんど家にいない。


寂しい──わけじゃない。

ただ、もう少しだけ母さんや俺たちの気持ちを知ってほしいと思っているだけだ。


俺がそんなことを考えていると、キセキの方から俺に近づいてきた。


「アラタ。どっか行こうよ」

さすが、可愛い弟分。

俺の気持ちを分かっている。

すると、もう一人の声が背後から聞こえてくる。


「さて、どこにいこうかしら。騎兵団の訓練でも見に行く?」


げ。メイだ。


「……なんでいるんだよ。お前は宴会にいけばいいだろ」


メイは十六歳。成人しているから、酒も飲めるはずだ。


「いいじゃない。私だって可愛い弟たちと遊びたいのよ。

さ、行くわよ」


そういって、長いポニーテールをなびかせる。

……面倒なやつに捕まってしまった。


俺はキセキと目を合わせる。

俺より少しだけ低いところに、赤紫の髪が揺れる。


「仕方ないよ。メイについていこう」

大人びた表情で、肩をすくめる。


キセキは俺より二つ下の十二歳。

親同士の関係で、このメンバーはなんやかんや年に数回は集合する。


昔は頼れるお姉ちゃんと思っていたメイも、

いつからうっとおしく思うようになっていた。


キセキは、まだ小さいミライやユフィアと違って、

年の近い弟のように思っていた。


一人で空を眺めながらぶつぶつ言っていたりする変なやつだったが、

基本的には素直ないいやつだ。


メイは、勝手知ったる足取りでテオロッドの王宮内を進んでいく。


「どこに向かってるんだよ」

俺はメイに言った。


「まずは市場ね。買い物よ」


「やだよ。そんなの付き合ってられるか」


なぜ女という生き物は買い物が好きなのか。

目的のものがあればさっさと買えばいいのに、買い物そのものを楽しむという発想が理解できない。


「違うわよ。ねえ、冒険したくない?」


──冒険?

なんだその心躍る言葉は。


「行きたい!」

俺が答えるより早く、キセキが目を輝かせながら答えた。


メイは満足そうな顔で頷いている。

「そうでしょ。いい子ね。実は──あてがあるのよ。

先に、そっちに行く?」


メイはそういうと、踵を返し別の方向へ歩き出した。


──あっちは、迎賓館のある方だ。

何度か、泊ったことがある。


一体、あてとは誰のことだろう。




迎賓館に着くと、ロッキングチェアーに座りながら瓶ビールを飲んでいる人影があった。


真っ赤な髪。

そして──年齢に似合わない、露出の多い服装。


何度か会ったことがある。

──エルデネ。


昔、父さんたちと戦った相手だ。


「メイ。やっほー。おチビちゃんたちも久しぶり」


ビールを飲みながら、エルデネは言った。

──確か、父さんたちより年上のはずだが。

どう見ても、二十代にしか見えない。


昔母さんがぼやいていたことがある。

「あの人、まったく老けないのよね。魔女か何かなのかしら」


俺は、母さんもきれいだよと言ってその場をしのいだが、

「お小遣いは増やさないわよ」

と返された。


──母さんには敵わない。



「……もうチビじゃねえよ。メイ、なんでエルデネの所に来たんだよ」

俺はメイを恨めしそうに睨みつける。

冒険と聞いて少しテンションが上がったのに。


「まあまあ。エルデネの話を聞けば分かるわよ」


メイが答える。

俺たちがはるか年上の彼女をエルデネと呼び捨てしているのは、

彼女がそうしろと言ったからだ。


昔から、彼女は大人たちとは一定の距離を取っていたように思える。


「私は、途中参加だからね。皆との思い出もあんまりないし」

と言っていた。


元々はテオロッドの敵だった、と父さんから聞いたことがある。


アルカディアの前の国──オルディアで、斥候として動き回っていたと。

なぜそれが今こちら側にいるのか、その心変わりについては詳しく聞いたことはなかった。


俺がそんなことを考えていると、エルデネはビールを飲み干してから話始めた。


「少年たちよ、冒険をしたくないかい?」


エルデネは俺たちの方を見ながら言った。

俺とキセキは小さく頷いた。


「例えそこに──危険が待ち受けていたとしても?」


念を押すように、エルデネが続ける。

少しだけ尻込みするが──俺はキセキと目を合わせ頷いた。


「よし。いい覚悟だ。じゃあ、親たちを置いて旅に出ようぜい」

手を叩くと、エルデネは立ち上がった。


「え?旅って……どこに?」


「私のルーツを探す旅。大陸に向かうよ」


……大陸?


え、近所の洞窟とかじゃなくて?


この国を──このロッド大陸を出るってこと?



──俺たちの長い冒険は、こうして始まった。


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