第三十一話 竜騎士とは
あの日から、ユウトとホムラの稽古は朝の日課になった。
庭に剣の音色が響く。
ん~今日も心地の良い朝だ。
こうして平和な日々を過ごしていると、洞窟でのサバイバル生活など遠い昔のことのように感じる。
………ここは天国なのかもしれん………
俺は今日も屋根の上からユウトの様子を見ていた。
何もしてないじゃないかって?
いやいや。
あれからこの世界について色々と聞いて回ったのだよ。
まずこの国の名は"アテス王国"。
周りの国から見るとかなり小さな国らしい。
その国土は魔族領に接しており、非常にデンジャラスな土地なのだ。
……とは言っても魔族の襲撃は100年以上起きていない。
前にユウトが聞かせてくれた英雄譚、竜騎士タケルの戦争以降、魔族は姿を見せていないようだ。
そりゃ英雄扱いもさせるわけだ。
魔族については直接見たことがある人はおらず、"何か強くて怖いらしい"という話しか聞けなかった。
昔の経緯を考えるなら、出来れば会いたくない種族である。
他にもこの世界には色々な種族が暮らしている。
海で穏やかに暮らすマーメイド。
森や自然と共に生きるエルフ。
小人で物作りが得意なドワーフ。
空を自由に駆けるハーピー。
これらの種族はわりと温厚な種族なようだ。
種族間の交易もあり、マーメイド以外はこのアテス王国にもある程度住んでいる。
このカモリ村ではまだ見たことがないが。
もちろんあまり関係のよろしくない、ヤンチャな種族も存在する。
歌声で人々を海に誘うセイレーン。
様々な種族が入り乱れ、内戦の絶えない獣人。
見た目が怖いリザードマン。
……リザードマンについては理由が若干可哀想ではあるが。
村人に聞いた限りでは見た目で恐れられている。
トカゲの俺としては複雑な心境だ。
門番をしていたタイガだけは、リザードマンの旅人と知り合いらしい。
いつか紹介してもらいたいものだ。
こんな多種多様な種族が暮らしているという状況もあり、この世界では小さな争いが度々起こっている。
しかし、このアテス国を攻める相手は殆どいない。
その理由はこの国が立地上、"対魔族戦"の要であること。
そして。
この国には他国から"一騎当千"と称される存在。
"竜騎士"達がいるからだ──────
◆
(なぁ、ホムラは竜騎士を見たことあるか?)
ダメ元で聞いてみたのだが、意外な答えが返ってくる。
(あぁ。一人とは知り合いだ。)
まじかよ……
こんなに早く竜騎士の知り合いと会えるとは思っていなかった。
流石ホムラだ。
なんならすぐに本物に会えるかもしれない─────
そう思ったのだが、現実はそう甘くはなかった。
「詳細は知らないが、彼は任務で世界を飛び回っている。次にいつ帰ってくるのかもわからないな。」
そもそも竜騎士はこの王国に5人しかいないらしい。
彼らは国王専属の部隊であり、国王の指令受けて行動している。
飛竜、地竜、火竜など、竜の種類も様々であり戦い方も竜に合わせてそれぞれ違うようだ。
(その知り合いはどうやって竜騎士になったか知ってるか?)
ユウトも竜騎士を目指す男だ。
参考になりそうな話は聞いておきたい。
「前に飲みながら聞いた感じでは────」
昔あるところに、常識外れに強い男がいた。
男は自分の強さを確かめるため、全国各地を旅して回る。
名の通った魔物を探しては、己の腕と剣のみで薙ぎ払っていった。
そんな腕試しの旅の中、男は避難民の一団と出会う。
どうしたのかと問いかければ、"村が竜に襲われた"と話す。
男は剣一本を握りしめ、そのまま村へと駆け出した。
そこには巨大な"竜"がいた。
待っていたぞ。
───と竜が言い。
待たせたな。
───と男が言う。
互いに浮かべる獰猛な笑み。
強者の匂いがしたからだ。
昼に始まった戦いは、夜になってもまだ続き。
遂に朝日が出始めた。
広がるのは荒野のみ。
家も畑も家畜も道も。
村の名残は何もない。
ズンッ──────と。
竜が崩れ落ちる。
ドサッ──────と。
男も膝をつく。
もはや動く余力もない。
息をするのも億劫だ。
俺の勝ちだ。
───と竜が笑い。
いいや、俺だ。
───と男は笑った。
──────ホムラの話を纏めるとこんな感じだった。
(なんというか……ムチャクチャな男だな……)
その通りだ。
とホムラは答える。
聞く限り、その竜騎士は相当な脳筋だ。
生身で巨大な竜とやり合い意気投合。
チンピラの喧嘩じゃあるまいし………
(その竜は……ベガより強いのか?)
サイズが違うからきっと強いんだろうが。
一応聞いてみると苦笑いを浮かべるホムラ。
「ベガはまだ赤子だ。一般的に、竜は20年ほど"幼竜"と呼ばれる。そこからは"子竜"と呼ばれ、さらに10年以上経つとようやく"成竜"となる。」
そういうことだったのか。
良かったなベガ。
成長すればちゃんと大きくなるかもしれないな。
だが、待てよ─────?
ベガでもステータスは全て"D"だった。
正直騎士のホムラよりも明らかに強い。
それでも赤子。
そんな種族の大人とやり合う"化け物"。
竜騎士とはそんな存在らしい。
竜騎士は"竜を操り戦う騎士"ではない。
竜騎士とは"竜と共に戦う騎士"なのだ。
ユウト………
この世界の竜騎士はまじでヤベーぞ。
目標の遠さを痛感する。
しかし、ワクワクもしてくる。
ホムラの話を聞いて、少しずつ自分達の目標の実体が見えてきた。




