第二十八話 英雄譚
今日もタオルの中で目を覚ます。
気持ちのいい朝だ。
昨日あの後ユウトの家に帰り、両親に契約の事を話して挨拶をした。
母親のアヤカさんは温かく迎え入れてくれ、問題の父親は特に何も言わなかった。
今後どうなるかは分からない。
だがとりあえず、深く考えないことにした。
タオルを払って辺りを見回してみる。
そういえばユウトがいないな。
窓から外を覗くとユウトが棒を振り回しているのが見えた。
早速修行を始めているようだ。
感心感心。
(おはようユウト。)
窓から屋根へ出て声をかける。
「あ、おはよう…アル。」
まだいい慣れていないのか、若干ぎこちない。そして照れが残っている。
何照れてんだ。
お前がつけた名前だろ。
「体の調子はもう大丈夫なの?」
(んー?よく寝たから大丈夫そうだな。)
「そっか、良かったね。」
とりあえず自分の身体を見回してみるが、特に異常はない気がする。
足を動かしたり伸びをしてみたり。
色々やってみたが筋肉痛のような事にもなっていないようだ。
トカゲの体は疲労回復が早いんだろうか?
そうこうしているとユウトが素振りを再開していた。
せっかくなので≪感覚加速≫を発動させてみる。
すると、ユウトの動きがスローモーションのように見えた。
(しかし…このスキルはチートだな…)
ユウトの動きを見ながら思う。
太刀筋はもちろんのこと足運びによって巻き上がった砂、そして髪の毛一本一本の動きまでもクッキリと見える。
もっと言うなら棒を振り降ろす前から、足や腰が動き始めるのも丸わかりだ。
これが戦闘であれば圧倒的なアドバンテージになるだろう。
しかし、しばらく見ていると軽い目眩に襲われる。
(気持ち悪っ)
さらに粘ってみたが、耐えられなくなりスキルを解く。
流石に常時発動させていられる訳ではないようだ。
まあいいさ。
使えるスキルであることに変わりはない。
(うぉぉ…頭いてぇ…)
少し粘りすぎたようだ。
使いすぎには注意しないとダメだな。
ちょっと休もう。
◇
屋根の上で寝そべりながらユウトの素振りをボーッと見る。
少年の割に、太刀筋は鋭く見える。
しかしその動きはどこか不格好だ。
我流なんだから仕方ないが。
あの棒はおそらく剣のつもりだろう。
両手で握り、上段から振り下ろして横に薙ぎ払う。
動き的には恐らく両刃の両手剣。
この世界の騎士の装備だろうか。
だが─────
(…なぁユウト、竜騎士ってどうやって戦うんだ?)
何となく、竜騎士と聞くと"大きな竜にまたがり、剣や槍で戦う騎士"をイメージする。
しかしベガを見る限り竜の首は長く、翼は巨大だ。
大きな竜の上から剣や槍が相手に届くようにも思えない。
そもそもベガは小さく、乗れるようなサイズではない。
それならば竜騎士は"竜を操って敵を殲滅する"んだろうか?
「それはね───」
ユウトが誇らしげに竜騎士タケルの英雄譚を語り始めた。
◆
昔々、人類と魔族の戦争があった。
激しい戦いの中、人類は次第に追い詰められていく。
多くの種族と数々の都市が滅び、魔族の大軍勢は遂に王都にまで迫った。
そして魔族との最終決戦の最中、竜シリウスと供に竜騎士タケルが現れる。
タケルが魔の軍勢に槍を投げると大地は裂け、数千、いや数万にも及ぶ魔族達が次々に裂け目へと消え去っていった。
シリウスが炎を吐けば、残る魔族の軍勢は全て焼き尽くされた。
戦いが終わり、タケルは天に向かって槍を掲げる。
すると立ち込めていた暗雲は吹き飛び、人々は暖かな日の光に包まれたのだった。
◇
「凄いでしょ?」
胸を張るユウト。
凄いなんてもんじゃない。
最早意味不明なレベルである。
(…ぶっ飛びすぎてて全く参考にならねーな…)
一騎で軍を壊滅させる武力。
物語の英雄譚として過剰に脚色されているのだろうが、実在すれば世界のパワーバランスを崩壊させるほどの存在である。
戦いの規模が違いすぎて、訓練の参考には全くならない。
(…一度実際の竜騎士を見てみないといけないな。)
まだ会ったことはないが、アカリの父親は騎士らしい。
今度実際の竜騎士について聞いてみよう。




