戦いの前に
華麗にアルの背中から飛び降り着地してふんぞり返ったルーツィアと、外見に似合わぬ激しさで体を揺らしポーズを決めたアギスヴェール。
二人に惜しみ無く注がれるのは大歓声と拍手の嵐...の筈だった。
驚くべきことに、その場に自分達を称賛する者は誰一人としていなかったのだ。
アルは「...リンク様」と呟きアギスヴェールに嫉妬の視線を送り、レオーネは失礼にも嫌そうに顔を背け、ケリーとサラは何故か哀れみの表情を浮かべている。
ゼノでさえいたたまれないように顔を伏せた。
「アギス...おぬしの振り付け、不評みたいじゃな。という訳で今度からわらわの提案する髪を振り乱す振り付けに変えるぞ」
「馬鹿な...最先端をいくカッコいい振り付けだったろうがよ...」
「まあ最先端って言うかむしろ一番の時代遅れじゃしな」
「くそっ、これだから若造は...!」
悔しげなアギスヴェールに対してルーツィアはどこか嬉しそうだった。
「やっぱりウケがいいのはわらわの方なのじゃ。こんな可愛い幼女じゃぞ幼女。それに比べてアギス、おぬし色白ガリガリ体弱いおっさん魔法使いじゃもんな。どこにも需要なぞなかろうて」
「言ってろ。俺はこれからの時代でモテモテになるんだ。お前こそ中身は俺より上のババアのくせに調子乗ってんじゃねえ」
「外見がよければいいんじゃー、わらわは永遠のじゅうにさいなんじゃー」
二人が言い争いをしていると、ふとアルが手を挙げた。
「...質問よろしいですか?リンク様」
「何じゃ小僧。わらわの可愛さの秘訣を知りたいのか?」
「それは勿論ですが、僕はそこの魔王のことが聞きたいのです」
「ゼノの?」
ルーツィアが見ると、困ったように眺めていたゼノは慌てて取り繕い、顔を上げ邪悪に「ふははははは!!」と高笑いした。
「何だ勇者よ!我に質問か!今は機嫌がいいから答えてやろうぞ!」
「じゃあ遠慮なく。リンク様とそこの男が呪いにかかっているなら、貴方もそうなのでは?人に恐怖される呪いとか」
「お、おお...さといな、勇者の名を持つだけはある」
褒められて年相応の笑みを溢すアルを「これが美少年なんだなあ、得だなあ」などと勝手に思いながら、ゼノは自信ありげに頷いた。
「我もまた、世界に嫌われ呪いを受けた一人よ。しかし我の怪力は呪いじゃないぞ、生まれつきだ。そして、そこのお兄さんお姉さんより呪いは弱いから食事もするし年もとるし死にもするぞ」
「リンク様達が呪われている理由は分かりますが、貴方が呪われる理由は何なんですか?」
「知らぬ。興味もない」
切り捨てるとゼノは玉座から立ち上がった。
「少々無駄話が過ぎたようだな。我は魔王だ。貴様らを討ち滅ぼす存在。それ以外の何者でもない」
「聞いたかルー。良い子が悪ぶって何かほざいてんぞ」
「ああ聞いたぞアギス。悪者のわの字も当てはまらん奴が粋がっておるな」
「ちょっと黙っててくれませんかね!?」
折角の真剣な空気をぶち壊され、ゼノは叫びを上げた。
「でもお前小さい頃から勇者に憧れて勇者ごっことかよくしてたよな。皆ぼくが守るんだーとか言ってたよな」
「呪いのせいで親に捨てられ五歳で故郷から追い出されたのに優しすぎて人間を嫌いにも恨めもしなかった奴じゃしのう」
「うわあああああああ何で今そんなことを言うんですか!威厳!魔王の威厳がぁああ...!」
「...威厳なんて元からありませんでしたけどね」
傍観していたレオーネがぼそりと呟いた。
「まあ、いいじゃろ。わらわ達はもう止めに入らん。おぬしの生きざまを見届けてやるとしよう。なあアギス」
「しゃーねえな。せめて死に花咲かせろよな」
そう言うとルーツィアとアギスヴェールは部屋の隅に移動し、魔王と勇者達の戦いを見据える姿勢になった。
「...我は負けぬがな!」
ゼノはしばらく二人を見つめてからにやりと笑い、吼えた。




