魔王を倒した道
「見た目は悪者中身は善人、その名は最強魔王ゼノ!ばーさすぅ!?」
「若い女!若い男!若い女!勇者御一行!」
「おうこらルー。もうちょい肩書き考えろよ」
「だって思い付かんのじゃもん」
隅っこで喚いている二人から何とか意識を逸らし、ゼノは目の前に佇む三人の勇者を見据える。
あとの一人、アルはどこにいったのかと思いきや、ちゃっかりルーツィアの右隣を確保していた。戦意はないらしい。ちなみにルーツィアの左隣はアギスヴェールである。
縮こまって気配を消していたリールは、心配そうに一人、魔王を見つめている。
ルーツィアとアギスヴェールの存在で、先ほどまで借りてきた猫のように大人しくなっていたレオーネ、ケリー、サラであったが、決戦を前にしてようやく気が静まったようだ。
「あいつを殺したら私が世界一...あいつを殺したら凱旋してどこでも食べ放題...」
「サラ...俺の後ろに隠れてろよ」
「うん。ワタシ、お歌でお兄ちゃんを支援するね!」
「可愛い俺の妹可愛い天使可愛い」
むしろ猛っているように見えるが...うん、きっと気のせいだろう。ゼノはそう思うことにした。
遂にゼノは開戦の声をあげる。
「さあ...準備はいいな!勇者よ!我は魔王、ゼノ!世界を統べり、人間共を根絶やしにする存在なりーーぃ!!」
そして、魔王と勇者の戦いの結末は―――
*****
「...そうして勇者達は魔王を打ち倒し、世界に平和が戻りましたとさ。おしまいおしまい」
「えー!おわりー!?」
「うん。終わり」
「ありきたりー!つまんない!」
どこまでも純粋に子供に言われ、絵本を読み聞かせていたその青年は微苦笑を浮かべる。
「ぼくお外であそんでくるー!」
そう駆けていった少年の頭には山羊の角が、背中には鳥の羽が付属している。
「村長様ー、シムの面倒みてくれてありがとうございました...って、あれ?シムは?」
「どうせ外へ遊びに行ったんだろう?あたしらも行こうか。村長様、うちの子が迷惑かけましたね」
「いやいや、賢くて良い子だよ。次に生まれてくる子も今から楽しみだ」
そう言うと、その夫婦...サテュロスのフームとハーピーのシイナは、赤らめた顔を見合わせ、照れ笑い。
仲良く爆発すればいいのになあ、などと思いながら青年村長は図書館を出ていく二人を和やかに見送る。
「...で?村長様はいつ結婚するんで?」
「うおぉうびっくりしたぁ。脅かすなよリール」
「そんなことより、この村、最近恋愛に染まってきてるじゃないですか。この前もサラちゃんがゴーレムに恋したってんで大変なことになったでしょ?ふふ...村長様、抜け駆けなんて絶対に許しませんからね」
この図書館の司書であり独身でもある人型の魔物リールは、濁った目で村長の肩をがしりと掴む。
揺すられながら、村長は先週の騒動を思い返す。
美少女だったサラは、成長しても可憐さはそのままに、ゆるふわ系美女へと変身した。ただし、この村で暮らし始めてからこれまでの自分と兄の異常さに気付いたのか、そそくさと兄離れしてしまったのだ。
兄はそれはもう荒れに荒れたが、彼も彼でつい最近やっと愛する人を見つけ、妹離れしている真っ最中であった。
そんな中でサラとゴーレムとの熱愛が発覚し、色々と、本当に色々とあったが...結局は村長の威厳でどうにかなった。と、村長は信じている。
実際ケリーをなだめた(物理)のはレオーネであるのだが。
「ところで...レオーネさんはどうしてる?」
「彼女は今日は外に出てますよ。何か用事ですか?」
「いや、どうしてるかなーと...」
しどろもどろになる村長を半目で眺め、リールはふとため息を吐いた。
「あっという間ですねえ。魔王が倒されてもう十年ですか...」
「そうだな...この村も、もう創立十周年か...月日は早いなあ...私、もう二十五歳かぁ...」
「...良かったですよね。ちゃんと成長出来るようになって」
「うん...。まさか、私に呪いがかけられてた理由が、黒髪赤目だったから、なんてなぁ...。前の魔王が同じ容姿だったからって、神様は酷いよなあ」
「まあ、良かったじゃないですか。あの決戦で結局あの二人に妨害されて、アギスヴェールさんの魔法で偶然髪が白くなって、そしたらびっくりするぐらい魔王様から威厳なくなりましたもんね」
「あの時は辛かったなあ...私の顔が野菜に見える魔法をかけてたレオーネさんとケリーはともかく、サラに「うわあ、急にしょぼくなったぁ!」って言われてさぁ...」
「威厳のない魔王様は戦意喪失、勇者の皆はこんな勝ち方広められたくねえってことで...。何やかんやで魔王を倒したのは、あのアルって少年ってことになって、勇者アルの再来だ!なんて持て囃されてましたね。...今はレナンド王国の騎士団長でしたっけ」
「ついでにアルの師匠だってホラ吹いたルーさんとアギスさんがジングン帝国を牛耳って生き生きしながら世界征服企むとか...本当に、思いがけないことになってるよなぁ。ただ、二人の圧倒的な強さが知られて、ジングン帝国に喧嘩を売るところはなくなり、帝国も帝国で面倒くさがりな二人が頭だから、結果的に世界は平和になった」
ゆったりと会話する二人。リールは楽しそうに笑う。
「負けてられませんよ。この村も、もっと大きくしてきましょう。魔物と人間が共存出来る場所を、もっと広げるんです」
「アルが魔物は魔王に人質取られて無理矢理従わされてたって伝えてくれたおかげで、ぐっと偏見減ったもんなぁ。サラとゴーレムの件もあるし、人と魔物が分かり会える日も、近いだろう」
彼は立ち上がると、リールに「ちょっとお散歩」と言い残し、図書館を去っていった。
「あれ、レオーネさん帰ってたのか」
「...ええ。あの二人に門前払いされまして」
「ルーさんとアギスさんが?」
図書館を出てちょうど、この村の住人でありながら祖国ジングン帝国で働いているレオーネと出くわした村長は、それを聞いて首をかしげる。
「どうしたのかな。魔法軍隊長のレオーネさんを門前払いって...」
「...今日は特別な日だとこっそり教えられました。早く言えばいいのに何で言わないんですか貴方は、ええ?」
「え、私!?今日って何かあったっけ?」
「...誕生日、なんでしょう?」
すると、村長はきょとんと、赤い目をぱちくりさせ、レオーネを苛立たせていく。
「誕生日...?いや、私の誕生日はもう少し先で...」
「人間の争いに耐えきれず、あの二人の元を飛び出して魔王を志した。それが今日だと聞きました」
「...ああ、そういうことか」
村長は納得したように頷き、目を細める。
「確かに...魔王を目指して奮闘し始めたのは、今日だ。五歳の私を拾って八年も育ててくれたルーさんとアギスさんを裏切り、飛び出した。確かに今日だ。魔物の生き残りを必死に探して、国々に攻め行って、がむしゃらに世界を征服した。ただ...未熟で、幼稚で、愚かな魔王は、もう死んだんだ。十年前に。今はただの、人間と魔物の村の、ちょっと力の強い、村長だ」
懐かしそうに、彼は空を見上げた。
「...それでも、魔王にならなければ、私は貴方に出会わなかった。貴方と食事することもなかった。この村が出来ることもなかった」
「誕生日おめでとう...生まれてきてくれて、ありがとう、ゼノ」
「...ありがとう、レオーネ」
「さんを付けなさい不埒者」
「いだだだだ!」
レオーネに頬をつねられながらも、ゼノは晴れやかに、笑った。
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